ニッキー Nicky
むかしむかし。
山と山にはさまれた古い農家にお嫁さんがやってきました。
お嫁さんは遠い異国の人で、
見たこともない花模様の布に包んだ少しの嫁入り道具と、
異国の色のちいさな子猫をつれていました。
お嫁さんは子猫を「ニッキー」と呼び、
子猫は「ミャア」と答えました。
おしゃまなニッキーは、大好きなお母さんとならどこへ行こうと平気でしたが、
内気でおとなしいお母さんは、大家族の中、言葉の壁が折り重なり
いつしか笑顔が消えてゆきました。
ニッキーはお母さんの代わりに甘えてみました。
家族はたくさん居ましたが、一人一人に「ミャア」「ミャア」と
いっしょうけんめい体中で「好き」を伝えました。
ニッキーはすぐに家族の人気者になりましたが
お母さんは、ますます独りぼっちになったようで元気がなくなりました。
日本に来て3年目の冬、とうとうお母さんは耐え切れず泣き出しました。
吹雪の音にも負けない声で一晩中泣き続けました。
ニッキーもお母さんの周りをぐるぐる回って鳴き続けました。
「この家で一緒に暮らそう」と鳴きつづけました。
無口で不器用なお父さんは一晩中お母さんの背中をさすり、
素朴で優しい大家族はお母さんのために暖かい雑炊をこしらえました。
ニッキーはいつのまにかお母さんのひざに手を置いて眠っていました。
吹雪がやんだあくる朝、
お母さんは美しい声で鼻歌を歌いながらお米を研いでいました。
お父さんはそばで嬉しそうにネギを刻んでいました。
大家族は皆幸せそうに笑っています。
思い切り泣いたお母さんは皆から愛されていた事に気付き
晴れ晴れとした笑顔でニッキーを抱きしめ小さな声で「ありがとう」と言いました。
お母さんはニッキーに教えられたのです。
愛される前に愛する事の大切さを、小さな子猫のニッキーに教えられました。
春を待ってニッキーは写真館に行きました。
「大好きなお母さんと、ずーとここで暮らせますように」と写真を撮って
村の猫たちがするように神様に願をかけました。
写真は村のふもとの古い神社におさめられ、
ニッキーとお母さんの幸せな日々とともに夢のようなあめ色に変わってゆきました。