

自分にもう少し自信が出来て、自分の手で生活が成り立ったら、謝りたい人が一人いる。
MIWAは、ホテルの交換台で知り合った、化粧映えのする綺麗な女の子だった。初めはタムムちゃんの友達だったのであまり付き合いはなかった。ある日、交換台で社員闘争みたいなものがあった。怖い話だが、いつの間にか、私が要求項目を書いた先導者になっていた。私はそんな事に全く興味がなかったので知らん顔をしていた。何も知らないタムムちゃんは正義感から来るのか、興奮して「何で戦えへんの」と私に迫った。私はお蕎麦を食べながら聞いていたが無性に腹が立った。「私に死ねと言うの」なんて言って切れてしまった。職場に帰ると室長はその騒動の主犯格は私だと思い込むし、同僚は「どうなっているの」なんて要求ばかりしてくるし、私は完全に四面楚歌状態になってしまった。しかしMIWAが言った気持の良い一言でこの騒動は治まった。何を言ったのか、今は忘れたが何だか救われる事を言ってくれて、私はその悩みにけりがついた。それ以来私はMIWAが大好きになった。MIWAの子供時代は真黒に日焼けして、木登りをしたり、川で泳いだり、田舎育ちの元気の良い女の子で、大人になったMIWAからは想像も出来ない。そのアンバランスさがまた魅力的でますますMIWAを好きになった。ある日MIWAとナイトが同じになり、夜中にひとりで交換台に就いていたら、MIWAに電話が掛かってきた。寝ているMIWAを起こすのも可愛そうなので断ったら、「僕、MIWAの弟です」なんて言って来た。話を聞くとその弟と称する青年は、何だか性的な悩みがあるみたいで「女の人とSEXしたいのだけど・・・」と悩みを打ち明け出し「このままでは生きていけない」と泣きだした。単純な私はMIWAの弟の為だ「何か力になってやろう」と思った。青年は「恥ずかしいからお姉さんには言わないで」なんて言っていたが、事が事なので一応、MIWAに打ち明けた。結局私は騙されていた。何でもMIWAはストカーみたいな事をされていて、MIWAの夜勤を調べて電話をして来たらしい。美人は美人で大変なんだなーと思った。MIWAとタムムちゃんは仲良しだったのでMIWAと私の間には何時もタムムちゃんがいた。当時から、真実一路を目指し、何でもすぐに怒る私はタムムちゃんにも厳しかった。我が家を引っ越し、はじめちゃんの同僚を接待するのに料理の出来ない私はタムムちゃんに応援を頼んだ。「良いよ」なんて言っていたのにその日タムムちゃんはドタキャンした。私はタムムちゃんの、思いやりのない行動に腹が立つと言うより、もう何もタムムちゃんに興味がなくなった。私は興味がなくなると、顔も見たくなくなる。同じ空気を吸うのさせ苦しくなる。そこでMIWAの出番だ。MIWAは嫌がる私を何度も説得しタムムちゃんと話す時間を作った。初めはタムムちゃんの顔を見ながら「こんなしょうもない人間と何を話すねん」なんて醒めていた。タムムちゃんは「手伝をせえへんかったんは皆、漫画家やイラストレータやから自分が恥ずかしかってん」と言った。私は「それもそうかしら」とタムムちゃんの気持ちが理解出来、また仲良くなった。MIWAの思いやりのお陰で、私の心も軽くなり私はMIWAを尊敬した。MIWAは料理上手でMIWAのお弁当は、色合いも綺麗で美味しそうだった。私服はブランド物をパリッと着こなしスタイルの良いMIWAにはよく似合ってた。ある日「いらないTシャツがたくさんあるから取りに来ない?」とタムムちゃんと私を家に誘った。あのMIWA
が着ていたTシャツだ。さぞかし「素敵なんだろなー」とめちゃめちゃ期待した。MIWAは小汚い文化住宅に住んでいた。部屋の中は殺風景で台所のレンジは油まみれのドロドロだった。
出てきたTシャツは、これでもかと着古したボロボロで、
見るも無残な物だった。私は期待していただけに腹が立った。
「何と失礼なやつだ」なんて思った。悪い事は続く。
MIWAが結婚してタムムちゃんの扱いがぞんざいになったのか
タムムちゃんはよくMIWAの愚痴を私に言うようになった。
すぐに感化される私はTシャツの件もあり「フムフム」と
タムムちゃんの肩を持つようになった。
そして決定打が来た。
MIWAは何時も私のお弁当を見ると「きゃー汚い、
気持ち悪い」なんて言って、「食べてみー」と進める私に断って
いた。そんな事が何回も続き、私は堪忍袋の緒が切れた。
MIWAが大嫌いになった。それからは一切
MIWAと話をしなくなり私は職場を去った。MIWAは電話をかけて
くれて謝っていたが、私の心は動かなかった。しかし今なら分かる。
MIWAの本質を理解していたらMIWAの可愛さを受け止めていたら
私はMIWAを失う事はなかった。
ボロボロのTシャツは普段は節約して物を大事にする子なんだ。
油も何度も使いまわし、小さな事に目が行かない
大雑把で無頓着で、素朴で気の良い女の子なんだ。
私が差し出すお弁当は確かに汚くて不味い。
私は屈託のないMIWAの言葉を受け止められなかった。
MIWAが私にくれた思いやりを忘れていた。
いまならすべて分かる。
何時も、いたずらっ子の様にペロリと舌を出していた
可愛いMIWAが、MIWAのすべてだったのだ。
人生は長い。
人生は赤っ恥の連続で謙虚になれるのかも知れない
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