引き寄せの術


「アンテナを張る」のと「引き寄せの術」がどう違うのか専門的な事は分からないが、どちらも願望を実現する事には違いはない。しばらく会っていない友の事を思い浮かべていたら、その友から電話が掛かってきたり、その日道でバッタリ会ったりと、私だけではなく、誰でもそんな経験はあると思う。
16年前「これぞ正しく引き寄せの術だ」と思った経験が1度ある。はじめちゃんの「こんなに神経ショー」が単行本になった時の事だ。その本の表紙で私が主人公のキャラクターを立体で作る事になった。主人公は看護婦なのだが、困った事に看護婦の帽子の作り方が全く分からない。「どうしょー」なんて思いながらテレビを点けたら、何と看護婦の帽子の型紙が映っていた。偶然の確率は一瞬だったのでの相当低い。確かに強く思うと実現する。猫と暮らしていた時、近所を歩いていたら10匹ぐらいの猫がご飯を食べていた。思わず「私もたくさん欲しい」と思った。その後、16匹の猫と暮らす運命になった。

良い事ばかりではなく、悪い者も引き寄せた事がある。猫の苦情で2度目に追い出された時、私達は家を買う事にした。引っ越しの日、タムムちゃんは、はじめちゃんを車で新居に送った。そのため私は一人、前の借家に残され連れて行けなかった、猫のお守をする事になった。「ちゃんと見ててや!」ときつく言われていたのに、間の悪い事に大雨が降る中、タムムちゃんがお気に入りのリンネちゃんが脱走してしまった。傘もささず気が狂った様に捜しまわったが、リンネちゃんは見つからなかった。私の頭の中は取り返しのつかない後悔で真白になった。すると地面から見るも恐ろしい妖怪達が、次から次へと連なって、私を地の底へ引きずり込もうと出現した。私は「仕方ないわ、どうぞ連れて行って」と覚悟を決めた。と同時にサッと妖怪の姿が消えた。「あら反省したから許してくたのかしら」なんて思った。妖怪は見た目は怖いが「結構気の良い人達なんだなー」と感心した。ちなみにリンネちゃんは、後から帰って来たタムムちゃんが見つけてくれて一件落着した。
はじめちゃんが亡くなる3か月位前、私は色んなものを見てしまった。寝ようとして目を閉じたのだが、何かを感じて眉間に神経を集中した。すると藍で染めた作務衣のようなものを着た男の人が立っていた。こんな経験は初めてだったので「エー何ーこれー」なんてビックリした。「はじめちゃんの守護霊は修行僧なのかしら」と思ったが、集中する事に疲れてしまい、あまり気にする事もなく、すぐに寝てしまった。もっとシッカリ見ていたら、何かその守護霊のメッセージを聞けたのかも知れない。
折角出て来た守護霊も、何の値打のない私の
態度に呆れたと思う。それからしばらくして
私は地獄の底に落ちてゆく夢を見た。
岩に挟まれた狭い穴に私は
真っ逆さまに吸い込まれて行く。
横目で左右の岩を見ると、苦しそうに
もがいている人間の顔が、到る所に
浮き出ていた。「これが地獄か」
と思ったら目が覚めた。
そして2月15日、私の誕生日に
夢を見た。眩いばかりに光り輝く
マリア様のような女の人を見た。
起きる前に見たので「これは正夢だ」
と信じた。光の夢は「良い事が起こる
前ぶれ」だと聞いた事がある。
私達は「きっとはじめちゃんの癌は治る」
と信じた。

はじめちゃんが亡くなった時、分かった。
あの光の夢は、まさに正夢。
天国からのメッセージだった。
「はじめちゃんを迎えに来たのよ」と
地獄の夢を見て気にしていた私にそう
知らせてくれたのだ。

すると守護霊は何を言いたかったのかしら。
きっと「すまない、私の力ではどうに
もならなかった」
と謝っていたのかしら。

幾ら望んでも宿命の前では「引き寄せの術」
も歯が立たないんだわ。

 
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