

58年間、自分の感覚を信じていた。自分が一番正しいのだと確信して、疑わず自分の思うままに生きてきた。そして、自分と同じ考えをする人を探して生きてきた。それが最近すべて崩壊した。
COCOとは27年前、ホテルの交換台で知り合った、一回り年下の女性だった。「どうしてこんなところに就職したのかしら」と思わせるほどCOCOは輝いていた。COCOは頭も容姿もよく、仕事熱心で、向上心があり、一人っ子なのに甘えず思いやりのある、誰にも頼らない颯爽とした女性だった。COCOは私とは真反対な人間に見えた。美人は損かも知れない。私はCOCOの、人の意見を受け入れる考え方に、人の目を気にした、嘘つきの匂いを何時も感じていた。無理して格好付けて生きていると思っていた。だけどCOCOは4度、私を驚かせた。1度目はCOCOが我が家に泊まりに来た時の事。COCOの後でお風呂に入り、髪の毛を洗っていると、ピカピカした排水溝が目に入った。COCOは人の家なのに、自然な振る舞いで、さも当然のようにドロドロに汚れた排水溝を洗ってくれていた。ビックリした。私は生まれて初めて「お風呂の排水溝は洗う」と言う常識をCOCOに教えてもらった。私なら得意げに「洗ってあげてんでー」なんて、ものすごく自慢するのに、COCOは何にも言わなかった。私はCOCOに惹かれていった。COCOの家に行くと、小さな借家で母親と二人、肩寄せ合って生活をしていた。私は何だか涙が出た。二人の美しい姿に感動した。『綺麗な子やのに何か苦労してるねんなー』と複雑なCOCOの生い立ちを見たような気がした。実際複雑だった。だからCOCOは人一倍、母親思いなのだと思った。COCOは大恋愛をしていた。しかしCOCOは自分の幸せより、お母さんの幸せを選んだ。そしてCOCOは自立を決意し、手に職を付け、お金を貯め、母親にマンションをプレゼントした。COCOは「お母さん嬉しそうやねん」って幸せそうに笑っていた。そして2度目の驚き。はじめちゃんの癌が再発した時、タムムちゃんから「もう死ぬねんてー」っと電話を受けて、私の神経が何処かに飛んで行った。後から聞いた話だが、携帯電話と言う頭はあったみたいで、タムムちゃんに掛けたつもりが何回も何回も、大阪のCOCOの携帯に電話をしていたらしい。ただならぬ気配を感じたのかCOCOはその足で夜行バスに乗り、朝一番で病院に来てくれた。私は驚いた。仕事人間のCOCOなのに無理をして来てくれたのが私には分かった。COCOは何時もそうだ。自分の前にまずは相手の気持を考える。私は「こんなに美人なのに、どうして謙虚なのかしら」なんて何時も不思議だった。お金に困っている私にCOCOは見舞金を奮発して興味もないのに、人形を見て「この人形欲しいわ」なんて私に気を使わせないよう人形を買ってくれた。私は、知っていた。COCOだって今経済的に苦しいのだ。貯金だってもうない筈だ。知っていたがCOCOの好意を受ける事にした。実際助かったのだ。COCOは次の日、私の見送りもなしに目を充血させたままクタクタになって大阪に帰って行った。そして休む暇なく、溜まった仕事を片付けた。私はCOCOには一生感謝しても、感謝仕切れないと思った。3度目の驚きは、不景気がCOCOの設計の仕事にも及び、COCOは日曜日も休みなく働くことを選択した。日曜日になると、あの綺麗なCOCOが作業着に着替え、倉庫の掃除のアルバイトをしていた。私が驚いたのはバイトはもちろんだが、その事を母親には一切言わなかったと言うCOCOの母に対する本物の思いやりの心だ。自分を犠牲にしてもCOCOは文句を言わない。我儘な私には到底真似は出来ない。現に私は病気の母に何もしてやる事が出来なかった。と言うよりしなかった。やって来た人間と、やらなかった人間。答えは始めから、出ていたのかも知れない。4度目の驚きは、私の人生観を変えた。その日、私はブログでCOCOとコメントのやりとりをしていた。一つの話題で、私の意見に、急にCOCOは返事を書いて来なかった。私はすっかり、無視をされたと思いこんだ。頭に血が上った。ありとあらゆる暴言を吐きCOCOのレスを待った。
COCOはすぐに書いてきた。私は上から目線でCOCOを許し
「これも愛のムチなのよ」なんて年上ぶった。しかしそれに対し
COCOからはメールも電話もコメントもなかった。
私はCOCOが私を嫌っていたと思いこんだ。
そしてCOCOとは、これから一切縁を切ろうと思った。
その矢先、COCOから電話が掛かってきた。
COCOは風邪を引いて喘息になり中耳炎を患っていた。。
COCOは絞り出すような声で「キビちゃんの事ズーと慕って
んねんで」っと言った。それでも腹が立っていた私は昔の
事まで引っ張り出しCOCOを責めた。色々話していたら、
すべて私の誤解が判明した。全て私の思いこみだった。
COCOは何時も私を思い、私を信じてくれていた。
返事が遅くなったのは、言葉を選んでいたらしい。
私は驚いた。私は感情のままパッパと文章を書く。
それを人がどう取るなんて考えない。何時も自分中心の
考え方をしていた。私はCOCOに対しての偏見を思い出し
自分が恥ずかしくなった。嘘をつかない良い子だなんて、
それは自分にとっての都合の良い子だった。
独りよがりは傲慢の裏返し。自分を押し通すのは思い
やりのない精神。私の思う純粋は、何も見えない
唯のおこちゃま。COCOの深い愛に、私は全てを悟った。
フト、はじめちゃんを思い出した。彼は何時も私には
何も注意もせず、笑っていた。それは私に何を言っても、
聞く耳を持たないと知っていたからだ。
自分を生きていた彼は、私の全ても尊重してくれた。
しかし死んでから、分かったのだろう。
『このままではヤバい』と。COCOが病院に来てくれ
たのは、彼の守護霊が呼んだのかも知れない。
今からすぐには変えられないかも知れない。
でも少しずつ、少しずつ学んでみようと思った。
たぶんそれは、空の上から心配そうにしている
彼のやり残した彼の願いのような気がした。
「大丈夫、もうわかったよ」って小さく言ってみた。
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