

父は無類のお酒好きだ。戦後間もなくお酒が手に入いらず、メチルアルコールにまで手を出した。飲んでみたらビヨーンと目が飛び出て、さすがの母も怖くなり父を見限って、家を出たらしい。そんな父の姿を見続けていたせいか、私は「お酒を飲む人とは絶対に結婚しない」と決めていた。
けどお酒って少し大人の世界を思もわせる所があるから、18歳の時ビールを飲んでみた。苦くてめちゃ不味かった。「何でこんな苦くて美味しくないもの,わざわざ飲むんだろ」と思ってしまった。だからもうそれ以来、お酒は受け付けなくなった。社会人になると親睦会や忘年会など、お酒の席が多くなった。お酒の飲めない私はいち早くご飯を注文し、から揚げを食べようとした。すると「乾杯をしてから!」と上司に怒られ「他の人にお酌をしなさい」と言われた。お酌なんてお芝居をしているみたいでとっても恥ずかしい。大人が恥ずかしがらずにお酌が出来るのは、その本当の意味を知っているからだ。「お疲れ様、まあどうぞ一杯」なんて相手に対する思いやりの気持ちなんだろうとは思う。でも飲めない私にはそれが出来ない。何故か変に照れてしまう。「早くご飯を食べさせてくれ」と何時も思う。
私の方程式に[お酒=大人]が心に根付いている。精神的にまだまだ大人になりきれない私はお酒を楽しむと言う余裕も意味も期待も何も湧かない。きっと何かを成し遂げたら「ちょつと1杯やりますかー」なんて思えるのかも。
はじめちゃんが漫画の連載をしていた時、年1回だが出版社の忘年会に東京まで足を運んでいた。我が家では1滴も飲まない彼のお酒は、2次会までも参加するほど楽しいお酒みたいだった。私の知らないはじめちゃんがそこにはいたんだなーなんて不思議だった。男の人って色んな顔があるのかも知れない。
若いころ、グループ展に参加した。当時はぬいぐるみに
毛が生えたような作品を作っていたのだが、
妙に色っぽいと、男の子に評判が良かった。
その中の1体を仲間の知り合いの、知り合いが「貸して欲しい」
と私に言って来た。私は生み出す事は大好きだが
自分の作ったものに執着が出来ない。
だから欲しいと言ってもらったら「どうぞどうぞ」
なんて嬉しくなる。その待ち合わせ場所がカウンターバー
みたいな所だった。お酒の飲めない私はドキドキした。
私の目の前には綺麗な色のカクテルが運ばれていた。
飲んでみると甘くて美味しい。気が付くと私は何倍もお代わりしていた。
一緒に来た友人が「キビちゃんお酒飲めるやん」と言っていた。
そう言われれば、梅酒も好きだし、甘酒なんか目がなく、
カルアミルクにも凝っていたし果実酒も毎年作って飲んでいた。
何の事はない。私もお酒が飲めたのだ。
バブルの時代にタムムちゃんと2人で1日だけ、
コンパニオンのバイトをしたことがある。
タムムちゃんは太い首でブラウスのボタンが
留らないのに、その日もう1件掛け持っていた。
2時間だけの仕事だが、大人にお酒をつぐのが恥ずかしく
私は場違いの雰囲気に心が押しつぶされていた。
ビールを運んだり、片付けなくても良いのに
テーブルを拭いたりしていた。あと何分、あと何秒と
胃の痛みに堪えながら、時間の経つのをジット待っていた。
そしてつくづく、バイト料がいくら良くても
「出来ない事ってあるんだ」と知った。
結論はお酒が飲めないのではなく、お酒の席が苦手なのだ。
ただそれだけだったんだと、書いていて気が付いた。
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