あのアホパソコンがバイト始めてから二ヶ月が経った。
今日が給料日だとかでニコニコしながら晩飯作ってる。
前回の給料日には、貰った給料袋を覗きながら(パソコンは銀行口座が持てないので当然手渡しだ)
「まだ足りねェな……」
と項垂れていた。そりゃそうだろう。時給380ベリーじゃ、一ヶ月働いたくらいじゃタカが知れている。
足りない、ってことは、やっぱ何か欲しいもんでもあんのか。
そんなもんオレに言え、と言ってやりたいが残念ながら貧乏学生の身である。
一体何が欲しいんだ。高価なもんか?
実はあんまり毎日働かせると疲れんじゃねえかと思って、フルタイムで働くことは許可してねェ。週の半分は家にいるように言ってる。あいつはアホだから、加減とか考えねえでシフト組もうとしてたから、慌てたのだ。
だって、あのスーパーで働いてる時間の他にも、うちでオレのメシ作ったり掃除したりしてんだからよ。そっちのほうは、するなっつってもやりたがるし、バイトのほうを減らさせるしかねェ。
パソコンってのは、疲れたりするもんだろうか。
よく分からねえからウソップに聞いてみたら、
「さあ。まあ、消耗は早くなるかも知んねェけど。おまえは見るからに手入れも悪そうだし」
とか答えやがった。
手入れって何だ。
シャンプーとかのことか。風呂なら最近はほぼ毎日入ってる。あいつが自力で。
仕事柄、清潔が大切なんだそうだ。
他には何したらいいのか分からないし、一度は許可したもんを今更バイトはするなとも言えねえし、オレに出来ることと言ったらオレ自身のバイトも何となく増やしてみることくらいなものだ。
何が欲しいかあいつが言えば、どうしたらいいのか対策も講じられるというものだが。
台所から金髪の鼻歌が途切れなく聞こえてくる。高くもなく、低くもない、聞き取りやすい声だ。歌うときには微妙に震え、掠れるように響く。
随分機嫌の良いあいつに、
「買えんのか」
とオレは声をかけた。
「か、か、かえるって、なんだ、急に」
鍋のなかにオタマを突っ込んでた金髪は飛び上がらんばかりにびびっていた。
「なんか欲しいモンがあったんじゃねえのか。それで金が要ったんじゃねえのか」
「んなっ、なんだよ、そんなんじゃねェよ」
「そうか」
図星か。一体何が欲しいんだろうな、と思いながら晩飯を食って風呂に入った。風呂からあがると金髪は食器を洗って布団を敷いてくれていた。
最初の頃は部屋に転がしておくくらいしかなかったアホパソコンだったから、特に気にもしなかったが、こうしてこいつも外で働いてくるようになるとこいつにばっかり家事をさせてるのが申し訳ないような気になる。
疲れてんじゃねえか。
いや、疲れねェのか?
「いいからテメエもちっとは座ってろよ」
そう声をかけたら不思議そうなツラして、それでも素直に(金髪は態度は悪ィが行動は大抵素直だ)隣に座ってきた。
いや、そんなすぐ隣りに座られてもな……。
別段会話があるわけでもない。
「……」
「……」
「………」
「………なあ」
「あ?」
「オレ、風呂入ってきていいか?」
「あー……風呂か。ああ、そうしろ」
オレが頷くと金髪はいそいそと風呂に入る支度を始めた。
風呂場は台所の横にあるので、冷蔵庫の上にあいつ用のシャンプーが置いてある。スポンジやらローションやらも一緒に100円ショップで買ってきてやった洗面器に収められている。
このウチの中であいつの持ち物といったらそのくらいなものだ。
メシも喰わねえから、食器もねえし。
「あ、シャンプーがないんだった」
洗面器を覗き込んだ金髪が悔しそうに言った。
なんだあいつ、パソコンのくせにそんなことにも気付かなかったのかよ、と思うと面白かった。
「うし、じゃ、買って来てやっから待ってろ」
立ち上がりかけたオレに金髪が慌てた様子で言った。
「いいって、オレ、自分で買うから」
「あ?」
うっかり呆気にとられた。
自分で買う?
こいつが?
「バイト代も入ったし、んな、迷惑ばっかかけられねェよ」
「あ、バイト代、なるほど」
すぐに付け足された説明で、合点はいったが、納得はいかなかった。
前回シャンプーを買ってやった時予想以上に喜ばれたので、またあんなふうに喜んでもらえんなら出かけてやってもいいか、と思っていた、のだが。
(クソ……)
何だか面白くなかった。
何が迷惑かけられねえ、だ。パソコンのクセに。
すげえ生意気だ。
だが金髪はすっかりご満悦でいそいそと財布を握るとコンビニに出かけてった。
「自分で買えるっていいな」
だとよ。
まあ金がかかんねえほうが、オレにとっても良い筈だ。
ただ単に金髪の奴が生意気だからムカつくだけだ。
そう思うことにした。



翌日、学校から帰ると待ちかねたように金髪が玄関に飛び出して来た。
「おいゾロ、パスワード」
「何だ?いきなり飛び出して来て」
「パスワード!パスワード言ってくれなきゃ、オレ、何もできねェんだ」
「何もって……何でもしてんだろ、いっつも」
「そうじゃなくて!」
金髪は焦れたような声を出した。
「変更とか、書き換えとか、インストールとか、そういうの!」
「いんすと……?それってこないだやったやつじゃねえのか、風呂の時に」
「あれはダウンロード!それにあんときはマスターのてめえが指示したことだから良かったんだよ。てめえの居ないとこで何か変更をするには、パスワードが必要になんだ」
金髪は必死に訴える。
勢いで部屋の戸口のとこらへんまで押し返された。
「じゃ、オレが一緒だったらいいんだろ?今なら時間あるぞ」
別に他意無く、自然と零れた一言だったが、金髪がいきなりパッと赤くなった。
耳まで、赤くなってる。
「い、いや、てめえは忙しいし、あんまパソコンのこととか面倒くせェだろ……パスワードだけ言ってくれれば……」
ここまで聞いて、多少おかしいな、とは思ったが次の言葉を聞くまでは、それでもパスワードくらいどうでもいいと思っていたし、金髪の行動に不審を感じたりはしていなかった。
「ウソップのところで」

……は?

どうしてそこでウソップが出てくんだ。
おかしいだろ、どう考えても。



06/2/12
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本当はもうちょっと場面を進めてしまいたかったのですが、ダラダラ続いて不自然になったのでここで一旦切ろうかと…。
これからがいいトコなのですが(笑)