小さく、起動音がした。
オレは覚悟して金髪と同じ姿をしたそのパソコンと向き合った。
肌は滑らかでまだ傷一つ無い。
パソコンの扱いを知らずにつけてしまった傷も、そのときの思い出ももうこいつには無い。
それでもオレが忘れなきゃいい。
今更くよくよしてんのは、オレらしくねえ。
しばらくして、薄く瞼が開いた。ガラス球の目がゆっくりと見開かれる。
幾度か瞬きし、不思議そうにオレを見た。
初めて出会ったときと同じだと思った。また最初から繰り返すのか。ずっと一緒に暮らしてきたあいつはどこへ消えてしまうんだ。
奥歯を噛んで、よしもう何も言わねえぞと思って、金髪の顔を見返す。
まずはオレの名前を教えるんだったか、なんか登録とかなかったか。パスワードはどのタイミングで入力したか。
どうしたっけ、最初にこいつをうちに連れてきたときは。
そんなに昔のことでもないが、あまりよく覚えていない。
「あれ……」
聞きなれた声、口調。
金髪はきょろきょろと辺りを見渡した。
「ゾロ、それにみんな、なにやってんだ、こんなとこで」
少し首を傾げてから、
「ナミさん!今日のブラウスはまた一段とかわいいね!」
と、頓狂な声をあげた。
以前とまるで変わらない、うちのアホパソコンそのものだった。
こんなことが、あるのか。
オレ以外の全員が、視線を交し合う。オレだけぼんやりしていた。
ぎゅっと、みんなの全身に力が入った。どうしようもない、こらえきれない、はちきれそうな気持ちだった。
そんな空気が部屋をいっぱいにした。
オレは、何て言えばいいんだ。こんなとき。
壊れた銀色の箱は、袋に包まれたまま押入れのなかに仕舞ってあるのに。
おまえに命はあるのか?
あるとしたら、どこにあるんだ。
この手で触れることの出来る場所なのか。足の間のあの柔らかい場所のように。
オレはアホみたいに笑ってる金髪をまじまじと眺めながら、手に残る、電源ボタンの感触ばかりを思い出していた。
この手で、触れて、目覚めさせた。
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09/3/29
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