雨の音がしとしとと重たく室内まで垂れ込めていた。
布団、布団と金髪が言うので押入れから引きずり出した布団の上に押さえつけて、三角の耳を甘噛みする。滑らかでつるっとした、変な噛み心地だ。
「ふ……ふぁ……」
頂点の尖っているところや、髪の毛との境目あたりを舌で行き来したり、息を吹きかけたりしてると、金髪はたまらないのか、首を左右に振って声を出す。仰け反った喉が妙に艶めかしいので、今度はそっちに吸い付いた。
腹んなかが、すげえ熱くなってくる。すぐにでも突っ込みたいのだが、こいつがよがってるところをもう暫く見てたいので、我慢してしつこく喉を吸った。顎の辺りは感じるらしい。段々背が反っていくのを、逃がすものかと両腕を広げさせ、動けないようにぎゅっと握る。
「あ、あ、やだ」
無防備な体勢が嫌なのか、金髪はしゃくりあげるように呼吸して、水揚げされた魚みたいにビクビクしてる。ちょっと感じ過ぎじゃねえのか、大丈夫かこれで。
ちろ、と舌先だけで耳の下を擽ったら、一際大きい声を上げて金髪が身を捩ったので、こちらとしても気分が盛り上がって、勢いで、つい、柔らかい皮膚を噛んでしまった。
その瞬間、
「痛ッ……アホかァ!」
金髪の膝が上がって、いきなり腹部に一発入った。
「あぶねッ!」
ぎりぎりかわして、掠った程度で済んだが、こいつの蹴りは半端無い威力なのだ。危うく全裸で病院送りになるところだった。
「てめ……ッ、あぶねえだろうが」
「うるせ!てめえこそ何いきなり噛んでんだ、ひとの首!歯型ついたじゃねえか、なおらねえんだぞ!これ!」
ついさっきまで「溶けそう」ってツラしてやがったくせに、今度は本気でぎゃんぎゃん騒いでる。こいつのテンションの高さと感情の起伏にはいつも驚く。
「大体、煮物作ってる途中だったんだぞ、それを人の背中見て妙な気起こしやがって、いきなり押し倒してきて!」
「あー……」
さすがに気まずく、オレは首の後ろを掻いた。
確かに、少し勝手だったかも知れない。
スーパーから一緒に帰宅して、こいつはすぐに夕飯を作りだしたが、オレは雨でバイトも中止でやることもなかった。
見たいテレビがあるわけでもなし、ひたすらゴロゴロしながら料理してるとこ見てたら、つい、その気になった。
昼間、シャンクス(のパソコン)にちょこっと触られただけで、変な声を出してたあの耳。あの時のムカつきと、あと、ムラッとした気分が、どうも同時に来てしまったのだ。
「悪かったな」
家事の邪魔をしちまったことだし、オレは素直に謝った。
「え……、ま、まあ、オレも別にそんな……嫌だったわけじゃねえし……」
潔く謝られると、案外どうして良いか反応に困るらしい。金髪は背を向けて布団を片付けにかかったオレの顔を覗きこもうとして、おろおろしている。
「別に、やめることねえじゃねえか。晩飯、煮物だから、もうちっと煮込む時間があるし」
ぶつぶつ言い訳するのが面白くて、聞こえない素振りでちゃぶ台を部屋の真ん中に戻す。
「なあ、ゾロ、オレは別に怒ってねえよ?首だって、こんくらいなら部分的になおせばいいし」
背中にしがみついてくる金髪の体から、かすかに出汁と醤油の良い匂いがする。
「……ウソップにでも修理頼もうかな」
それは聞き捨てならなかった。
「それだけは止めろ」
「え、でも」
「いいから止めろ」
「う、うん」
え、でも歯型ついたまんまでいいのかよ、と金髪は首を傾げているが、歯型だからこそ、ウソップになんか頼めるか。そもそも、ケツ穴の取り付けをあいつに頼んだ時点で相当問題だ。これ以上は勘弁してくれ。
というか、こいつのあの場所を、ウソップは見たわけか。
少々複雑な気分だ。ウソップが聞けば「誰が好き好んでやったことか」と言うだろうが。
「なあゾロ、何で怒ってんだ」
「怒ってねえよ」
「じゃ……途中でやめんなよ、続きしようぜ」
ほら、と言って金髪は残りの衣服を脱ぎ始めた。中途半端に脱がせたままだったシャツのボタンを一番下まで開けると、白い肌が露わになる。パソコンのくせに敏感で、軽く吸ってやるだけで真っ赤になってぶるぶる震える腹や腿のあたり。
見ているだけで喉が渇いて、オレはつばを飲み込んだ。



結局、煮物が出来るまでの時間では足りなかった。
真っ最中でも丁度料理の出来上がる時間が分かるのか、金髪がふらふらしながら起き上がったのでオレは驚いた。
まさに入れたばかりのタイミングだったのだ。
「おい」
腰を引いて、ぼんやりと目を潤ませたままこちらから離れようとする金髪を、引きとめようと必死になる。今いいところなのに、抜かれてたまるか。
金髪は片足だけ膝をたてて、逃れようともぞもぞ動く。
「ん……鍋……鍋の様子、見ねえと……」
「後にしろ」
「後に……出来るわけねえだろ、火、点いてるし」
「……くッ」
くちゅ、と湿った音をたてて、その部分が動いて、離れる。ぎゅっと絞られた場所を、太い部分が通った時には、さすがに金髪も顔を顰めていた。もう腰も立たないらしい。這うようにして台所へ向かう。それでも晩飯つくりを優先させようとする姿勢には感動したが、残念ながら賛成する気にはなれない。どうしてくれんだ、血管が切れそうだ、こっちは。
色の白い尻のあたりや、はだけたシャツ、ほどけかかったまま引っ掛かっているエプロンに煽られて仕方がない。髪なんか乱れてぼさぼさだし、本当にどうしようもない。
ガス焜炉のつまみに手を掛けて火加減を調節しようとする金髪を、オレは背後から掴まえた。
「おい、やめろって!」
金髪は怒りの表情でオレを押し退けようとするが、こっちも必死だ。
強引に股の間に手を突っ込んで揉んでやる。
「おい!」
オレを引き剥がそうと金髪にシャツの襟をひっぱられる。その手をかわして、熱をもって朱くなってる奴の股間部分を、指の腹で擦る。
「あ……、やだ!あ!お鍋が!お鍋が!あ、あ!」
「…………」
なんとなく、無理やり人妻を犯しているような感じになってしまったが、余裕もなかったことなので、その場で立ったまま、挿入することになった。




と、いうような出来事があった翌日。
学校の構内でウソップに会った。
ウソップはオレを見ると、いつも連れているカヤに何故か先に行けと言って一人だけ教室に行かせてしまった。
「どうした」
「どうしたじゃねえよ!てめえらは本当に!」
ウソップは憤懣やるかたないと言った様子で腕を組んだ。偉そうだ。
「オレはな、てめえんとこのサンジに渡し忘れてたもんがあったから」
「そういや、こないだもそんなこと言ってたな」
「そうだ。あの時も、てめえらんとこ行ったらその……アレだったじゃねえか」
「あー……」
アレだったな、そう言えば、と思い出してオレも口篭った。
金髪にケツ穴を取り付けた翌日、ウソップは何かサンジに手渡すもんがあるとかで、オレの部屋に顔を出して……まだ日中だってのに大騒ぎになってる室内に気付いてすごすごそのまま帰ったのだった。
だがあれだって、そもそもこいつが変な気をまわしやがったせいで、金髪が過剰反応するように設定されてたわけで、大騒ぎの原因はオレにだけあるわけじゃない。
「そんで、親切なオレ様は日を改めて昨日の夕刻、てめえらの部屋に再度尋ねて行ってやったわけだが」
「あー……」
ああ、そうか。
皆まで言われずとも、分かった。
昨日また、台所で真っ最中だったところにこいつが来ちまったわけか。気付かなかった。
「やるなとは言わねえよ、オレも!おまえら仲良しだからな。けど、オレは抗議したい。せめてやる時は玄関の鍵くらい閉めてくれと!」
「見たのか」
「え、いや……」
「見たのかよ」
「……なんだよ、睨むなよ、オレだって別に見たくて見たわけじゃ」
「見たんだな」
「お、オレのせいじゃねえよ!なんでオレが睨まれなきゃなんねえんだ!」
そもそもてめえが鍵かけてなかったせいじゃねえか!とウソップは必死の様子で言い返す。それもそうかとオレは納得しようとする。しかし、納得いかねえ。
などと考えていたら、ウソップの怒りの突っ込みが入った。
「どう考えても被害者オレだろ!てめえの怒りの矛先はおかしい!」
「…………」
それも、そうかも知れなかった。
「カヤも一緒だったんだぜ、どうしてくれんだ、てめえら」
「そりゃ、悪かった」
「悪かったじゃ済まねえよ。まあ、カヤの方の記憶は削除しといたからいいけども」
「そうか」
少しだけほっとした。
「けど、削除したデータって、プロなら復元可能とか言うもんな。どっかに記憶の根っこは残ってるもんなんだよ、それを思うとオレはカヤが不憫だ」
「へえ、そういうもんか」
「そうだ。だから記憶を削除したと言っても、実際当人であるパソコンが、消えた記憶の事柄について、どんなふうに感じてるのか分からねえよ。カヤも、潜在意識的に、てめえらのこと不潔とかって思ってるかも知れねえ」
カヤがかわいそうだ、とウソップは大袈裟に溜め息をついてみせる。
「パソコンがどう感じてるか、か」
「ま、変な話だけどよ」
ウソップはケータイを鞄から取り出して時刻を確認すると、お、そろそろ講義だな、と呟いた。
「データの完全な削除には、結局のところ物理的破壊が一番とか言うぜ。それだと復元不可能だもんな。結局アナログで力任せってとこが面白いよなー、こんな複雑な機械なのに」
ケータイを鞄に戻し、ついでに教科書を取り出すと、ウソップは次の授業が行われる教室へ向かって歩き出した。次の授業はオレも同じなので、後を追った。
ウソップの話に適当に相槌だけ打ちながら、今度からはアパートの鍵はきっちり閉めよう、とオレは決意した。
外は雨が降り続いていた。
今日は金髪のバイトも休みだし、この分だとこっちの道路整備のバイトも休みかも知れない。いや、なんか空が明るくなってきたし、この分だとこのまま晴れるか?



バイトが無くなることは、生活に直結して困ることなのだが、どうも……困る。
あの狭苦しいアパートの部屋にあいつが居ると思うと、出かけもせずに色々したくなるので困る。





その日、アパートに戻ると金髪は出かけているのか留守にしており、オレがいつも使っている黒いボロ傘が見当たらなくなっていた。







09/3/02
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長らくお待たせしてすみませんでした。まだ続きます。