四限目の講義はあの女と一緒だ。
それを思い出していっそさぼって帰っちまおうかと思ったが、帰れば帰ったで、やっぱり問題はあるわけで。
思い切り不愉快な気分で教室に座っていたら、すぐ横の出入り口がからから開いてウソップが長い鼻を出した。
「ヒッ」
目が合うなり、目を逸らされる。
なんだそりゃ。
だが、奴の態度の理由は分からなくもない。
「おい、てめえ・・・・・・今日、ずっと学校だったか」
「い、いや、オレは別に頼まれたからしかたなくっ」
「アパートに居やがったのか」
「だって、普通だろ?!オレは今日、午後からだったんだよ授業。夕べも遅くまでてめえんとこにつき合わされて疲れて寝てたんだ、そこにあいつがっ」
必死に弁明する鼻にオレは心の底からの舌打ちをした。
「・・・・・・クソ」
「く・・・・・・クソはこっちの台詞だぁぁぁぁぁ」
(クソッ)
クソ、クソ、どうしろってんだ。
どうしたらいいんだ。
四時間目が終わったら、帰宅しなくちゃならん。
他に用事もねェし、意味もなく時間つぶすのもアレだし、そもそもどんなに渋ったところで、あのアパートがオレの家だ。戻らないわけいくか。



夕べ、パソコンに迫られた。
なんて突拍子の無い出来事だろう。自分ちのパソコンに迫られて貞操を奪わされそうになるとは。
あいつはさっぱり何考えてるんだか分からねえ。
フリーズして固定しちまったあいつから・・・・・・引き抜くのがどれだけ大変だったと思ってやがる。半分くらい入ったところだったが、安全機能が働いたか、そこの部分の締め付けは電源が落ちると同時に緩んだが、あいつの身体のほうはがっちり固まって動かなくなった。いつもと同じだ。
あのアホパソコンが動かなくなったあと、そうっと上半身だけ、その腕のなかからすり抜けた。がっちりしがみ付かれてたがどうにか出られた。
次に力を失った新品の穴から、息子を引き抜いた。
「・・・・・・う」
ずるずるそこを掠る感触がたまんなかった。いつの間にか完勃ちになってた。手を添えて、慎重に腰を引く。
両足広げた、とんでもねえ格好で固まってる金髪を見下ろしながら、なんともいえない不思議な気持ちになった。とんでもねえ格好をしてるが、瞼を閉じたその表情だけは、安らかだ。まるでガキみてえに。
「アホか、てめえは」
何となく手を伸ばし、奴の瞼の上に触れた。
電源は落ちてるはずなのに、まだ温もりが残っていた。
素っ裸で横たわっているのを放っておけなくて、毛布をかけた。寒いわけもねえ、何やってんだオレは。毛布の中に手を差し入れ、あまり深く考えないようにして、股にある起動スイッチを探る。
ふにゃりとしたタマの手触り。
なんでこんなとこまで、こんなふうに作ったんだ。
なんでだ、なんで。
小さな、起動音がした。最初だけ、モーターのまわるような音がする。ファンの音かも知れない。考えたくない。
なんでだ。
薄青い瞼が、うっとりと瞬きを繰り返す。
少し時間がかかる。動き出す前に、カリカリ言う音がする。
変化は一瞬だ。
さっと金髪の顔に表情が戻ると、飛び起きて毛布を跳ねのける。
「・・・・・・オレ、どうなった?!」
さっと両手で全身を撫でて状況を確認しようとしている。まだ服を着せてない。シャツだけ中途半端に羽織ってはいるが、殆どハダカだ。
慎重そうに、奴の手が、腿の付け根からその奥へと這う。
見ていられなくて目を逸らした。
「壊れて・・・・・・ねえ、か?」
「多分な、ちゃんとすぐ離れた」
何故か言い訳するようにそんなことを言ってしまった。
「じゃあ、途中のまま、だよな?」
おずおずと、金髪が腕を伸ばしてくる。
肩にその手が届きそうになった時、反射的に緊張して変に力が入ってしまった。
「なあ」
金髪の耳がじわっと赤くなっていた。
「なあ、ごめん、ちゃんと続き・・・・・・」
「できねえだろ、つうかしねえって言ってんだろ」
「けど」
じりじりと擦り寄られる。
やべえ。
気付かれたか。
オレの股間はまだ全然静まっていなかった。これをどうにかしてから起動させれば良かったんだ、何間髪入れずにスイッチ押しちまってんだ。前は用事が無けりゃしばらく放っといたって平気だったのに。
動かないまま、物みたいに、こいつを転がしとくことが出来ない。

思えば、それはもう既に、決定的な答えのようなものだった。



その後、せめて手でなんとか出来ねえかな、とこないだのウイルス騒動の時の応用でオレに触ろうとする金髪をどうにかひっぺがして、背中を向けて寝た。
スリープにすんのも無理だった。
なー、なー、と金髪は必死に食い下がったが無理なもんは無理だ。明日電気屋行ってちゃんと大きいのに交換してくっからさー、とかきくどかれたが返事もしなかった。
冗談じゃねえ。
息子が落ち着くまではやたら暑くてしばらく眠れなかった。
そんなわけで寝不足のまま、今朝家を飛び出してきた。
(クソ・・・・・・)
進退窮まるとはこのことだ。
ひとが悩んでる顔見て、失礼なことに鼻がますます怯えて逃げ腰になっていたが、オレのせいじゃねえ。
始業のベルと同時くらいにナミが入室してきて、
「あんた、これから人でも殺そうっての、その顔」
とムカつくコメントを寄越した。
オレは目もあわせない。
金髪を連れて来ないのかと普段しょっちゅうからかって来るから、今日はこいつには会いたくなかったのだが、幸いなことにすぐに教授が入ってきて、ナミもあいた席に走っていった。ギリギリセーフだ。
講義が終わると同時に飛び出しちまえば、話す時間もない。
何でか、とにかく、ナミとは話したくなかった。隠せないような気がしたからだ。
そしてオレはベルが鳴ると同時に教室を飛び出した。
天気が良かった。初夏の空気は心地よい程度に湿っている。ぬるい。ぬるい風が吹いている。アパートまでの道は殆ど道なりに歩くだけで単純だ。
ややもすると駆け足になり、まろぶように急いだ。
だが、帰路の途中で気がついた。
これじゃあれだ。
このあと、すぐアパートに帰ることになっちまうじゃねえか。



ドアを開けると、金髪が、夕べとは違い、遠慮がちに玄関へ出てきた。
手を握られた。
唇が重なったとき思い浮かんだのは、何故か「万事休す」という言葉だった。






06/11/11
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暗礁にのりあげた気分です・・・。なんか原点から離れてきた・・・。修行がたりないっ。