天気のいい日だった。
春だったか秋だったかは覚えてない。
春でも秋でも、どうせ同じようなことをオレらはしてたから、どっちでも変わらないのかも知れない。
学校の屋上で、ジャムアンドマーガリンのコッペパンを食べながら、山本に好きだと言われた。オレは菓子パンの中ではジャムアンドマーガリンのコッペパンが一番好きだ。二番目にピーナツバターのコッペパンが好きだ。とにかくコッペパンが好きだ。
制服の上着を着ないで、長袖のシャツだけ着ていたと思うから、あれは春だったんだろうか。
イヤ、秋でも同じ服装か。
「オレとおまえは住む世界が違ェよ」
屋上なんて誰も来ないし、全然掃除してないから砂埃が積もり放題のコンクリの床に寝そべって、ふいー、とオレは煙草をふかした。煙草をふかすためにコッペパンの残りはきちんとビニールに押し込んでそのへんに置いた。
「オレは、十代目に命捧げてんだ」
それを口にするのはむしろ誇らしくて、そんなふうにあいつをフる自分がオレは嬉しかった。
「だから、おまえみたいなふつーの奴とはつきあえねえよ」
「んだ、そりゃ」
にかっと山本はいつもの笑顔のままだった。
「獄寺、おまえ、ツナのこと好きなのか?」
「アア?てめーの言うようないかがわしいもんじゃねえよ、命捧げてるっつったろ?」
「ふーん、オレもツナのこと、好きだぜ?」
「…………」
オレは忙しなくスパスパ煙草の煙を吸い込んだ。
くそ、こいつには何言っても全然通じねえなあ、と思ってた。
こいつには何も分かってねえんだから、仕方ねえんだ。
オレは、マフィアなんだ。
中学校の屋上でコッペパン食べながら男に告白されてる場合じゃねえよ。
「なあ、オレ、獄寺のこと好きだ」
山本はしつこく、また同じことを繰り返して言った。
「十代目のことも好きなんだろ?」
「ちげーよ、意味が」
ぎゅっと目ェ閉じて横になってるオレの、すぐ隣りにまで山本は移動してきた。そして、おまえ、ここ、筋肉ついちゃうんじゃねえの?と笑いながら、いっつもクセで寄せてる眉間を、指先でほぐすように押した。
「オレは、マフィアだ。イタリアで、なんか、戦ったりとかしちゃうんだぜ?」
殺し合い、とは何故か言えなかった。もう少し穏便な言い方があるはずだと思ったが、いかんせん日本語の語彙力が無い。
「あー、あー」
シワ寄せ筋、と言いながら、山本はオレの額をぎゅっと摘んでわざとシワを寄せたり、伸ばしたりする。
「分かったよ、そしたらオレもイタリアで戦ったりとかするな?」
「ほんとかよ?」
薄目をあけて、オレは山本を見た。
山本は屈託ない顔をしていた。
「ほんと」
ほんと、ほんと、と言いながら、もう一度、好きだと言われた。
ばーか、そんなんじゃ、テメエ、そりゃウソだろう、と言ったけれど、あいつは今度はやけに真面目な顔して「ホンキだ」と言った。だけどその言い方は、やっぱり、やがてウソになってしまう本気なんだと思った。
山本は本当の馬鹿だから、何もわかっちゃいない。
東京と千葉だって、人が会わなくなるには充分なくらい遠いのに、日本とイタリアなんて言ったら、滅茶苦茶遠い。中学生とマフィアはそんなに遠くないかも知れないが、高校生とマフィアはずっと遠いだろうし、大学生とマフィアなんて言ったら、滅茶苦茶遠い。真っ当な社会人になれば、もう顔も思い出さないだろう。
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