彼の中に射精してしまった。
「いいんです」
と彼が言うから、外へ出したりすることもしなかった。
自分で大丈夫だと言うからには、本当に平気なのだろう。
そういうひとだ。
オレが心配するのもおかしな気がしたので、誘われるままに、痺れるような快楽を得て精液を出した。思わず、わりと大きな声で呻いてしまうほど、気持ち良かった。
彼はまだイッてなかった。
乱れた呼吸を大急ぎでおさめて、身体を離すと、白い腿へ唇を付けた。
男を相手にしたことのなかったオレは、そんなことをするのは初めてだったが、彼に悦んでもらえるのなら、とても嬉しいと思った。
すっぽりと先端を咥えこむと、
「アッ」
という声が、頭上から聞こえた。
普段聞きなれない、高くかすれた、艶のある声だった。
たちあがって震えるペニスは、なんだか川の魚に似ている。
あの丸みを帯びた腹に、よく似ているのだ。
強く吸い上げた時、そうなるのではないかと予想はしていた。
ひくん、と大きく魚が跳ねたかと思うと、口のなかいっぱいに、苦くて生暖かい体液が、どろりと噴き出した。
小刻みに震えながら、無意識に彼はオレの頭を押さえつけてきた。
魚の口からハラワタを吸い出してしまったみたいな、勿論そんなことをしたことはないが、そんなふうに感じた。
青臭い匂いにむせて、多少なりとショックだったが、
「イルカ先生……」
夢見るような呟きに押されて、吐き出したりするべきではないと悟って必死に飲み込んだ。
えづきそうになった喉を、白い手に絡めとられてキスされた。
粘つく口内を探ってくる舌は例えでなしに甘かった。
口直しとばかりに彼の舌を味わっていたら、やがて吐き気は収まっていた。

「ずっと好きでした……」

信じられない告白を耳元に吹き掛けられた。
驚いて彼の顔を見ると、彼は不思議なほど穏やかにオレを見ていた。
その藍色の隻眼には確かにオレの姿が映っているのだと信じられた。
ああ、世界は薔薇色だ。
救いの、ひかりが、果てなく注ぐ。
全ての物事の上に。

それですっかり彼とは心が通い合ったと思っていたオレだったが、翌日からも彼は二人の関係を秘密にすることを厳しく強いた。
部屋へ遊びに行きたい、と強請ると、
「オレがあなたの部屋へ行きますから」
と、かるくかわされた。
なるほど、上忍ばかりが住んでいる彼の部屋のあたりをオレがうろつくよりは、彼がオレのもとへ訪れたほうが、余程周囲に気取られる心配が少ない。
そんな計算をして、悲しくなった。
だがそんな寂しさを振り払うほどの幸福が手中にあるわけなので、今はそれで満足だと思った。
いつか彼も心を許して、二人で出かけたりすることも出来るようになるのだと信じていた。

夜半に彼は訪れた。
オレはボロアパートの部屋を精一杯掃除して、手料理を作って待っていた。
彼は殆ど口を利かず、にこにこと煮物を頬張ると
「これ、うまいですね、この鶏肉煮たやつ」
機嫌良く、あれこれと誉めてくれた。
彼が声を低くして話すのは、万が一にも近所に聞こえることを恐れてなのだろう。

その晩、オレの部屋で彼を抱いた。
安普請のアパートのことなので、隣りに聞こえるのではないかと思って、彼にもそう告げたが、案じるまでもなく、彼は僅かも声をあげなかった。自制心のあるひとだ。いつでも、オレが心配する必要など、無いのだ。
このほうがラクだから、と彼が言うので背後から抱く姿勢をとったが、そうすると彼の表情は見えないし、彼は少しも声をあげないし、本当にこれで良いのかと途中何度も戸惑った。
だから、彼がオレから隠すようにして自分の指を噛んでいるのを発見したときには、彼には悪いが、嬉しかった。
くっきりと親指の付け根あたりについた歯型は、きちんとオレが彼に感じさせることが出来た証拠だと思った。
ほっとして、それと、ちょっと誇らしかった。

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