ひかり





考えてみれば年齢が近いというだけで、立場も性格も育った環境も全然違う彼を、好きになった。
出会いから今日までの短い期間には、恋に落ちると言っても、きっかけというほどのものは無かったが、いつの間にか好きになっていたのだ。
彼はナルト達の新しい教師で、上司。それだけの関係だったのに。
一度意識しだすと、歯止めはきかなかった。
好きで好きでたまらなくて、絶対に叶うはずのない恋だと思いながらも、彼に気持ちを告げずにはいられなかった。
どうせ叶うはずがない、と思うからこそ、せめて伝えるだけ、伝えてみたかったのだ。
その時の、彼の表情を見ることだけを、ささやかな恋の成就と思おうと。

ところが、彼の返事はオレの思ってもいなかったことだった。
彼は随分困ったような様子をして、さんざん悩んだ挙句に、こう言った。
「もしあなたが、誰にも秘密に出来るなら」
なんて言えばいいんだろう、あの時の気持ち。
世界はひかりに満ちて、素晴らしく輝いて思えた。
そっと目許だけで微笑んだ彼の姿は、この世の全ての物事は優しく幸せで希望に満ちて、悲しいことや辛いことは何一つ無いのだと、思わせてくれた。
金色に、ひかり輝く幸福の種が、手のひらへ渡された。
オレはこれを守って生きるのだ。
そんなふうに思った。

それからオレと彼との交際が始まった。
しかし、彼が「秘密で」と言ったのは、伊達でも酔狂でも例え話でも二人の恋愛を盛り上げる小道具でもなく、かなり本気の言葉であったことが分かって、オレは多少なりと困惑した。
ごく親しいひとでも話しては駄目。
親密そうな気配を感じさせるのも駄目。
人目のある場所でのデートなんかもってのほかだし、とにかく誰一人に知られたとしても、それでこのおつきあいは終焉を迎えるような、そのくらい本気の「秘密」なのであった。
絶対に、絶対に誰にも言ってはいけません。この先ずっと、何があっても。
彼は事あるごとにそう主張するのだ。
頑として譲らない。
もしたった一人にでも話したら、二度と逢わないとまで言う。

どうしてそんなに秘密にしたがるんだ。

世を忍ぶ関係の為に、その日オレ達は森の中でデートしていた。
火影の顔岩を望む展望台へ続く小道には分かれ道があって、あの岩のある山の裏手へと遊歩道が伸びていた。子供達に植生や薬草、鳥の種類などを教えるための道ではあったが、滅多に使われていない。その遊歩道から少しだけ外れた場所に、小川がある。その辺りはオレの気に入りの避難場所だった。何しろ里の中にいたのでは、いつどこでアカデミーの子供らにまとわりつかれるやら分からない。生徒は可愛いからイヤとは思わないけれど、毎日だと時々疲れてしまうのだ。そんな時、この小川へ休憩に来る。
彼とは三回目のデートだった。
朝から弁当を作って出かけた。
「おいしい」と言いながら、彼は握り飯を三つも食べてくれた。
秘密の関係というのは制約も多いもので、なかなかこんなふうな逢瀬も楽しめなくて、オレは多少焦っていた。
三度目のデートなんだから、もうそろそろイイはずだ。
そう思って、会話が途切れたところを見計らって唇を押し付けてみたら、柔らかな唇は、普段の彼の行動からは意外なほど慎ましく、迎えてくれた。
そして、二人の間には初めての、セックスをした。

川の流れからは少し離れた茂みの中で、なるべく柔らかそうな草の生えている場所を選んで彼を横たわらせた。
地べたの上で、背中が痛みはしないだろうか。
それが気になってなるべく背を支えるように抱いた。
本当はオレの部屋へ彼を誘って思いを遂げる予定だったのに、そのために昨日きちんと布団を干してシーツも取り替えてあったのに、急がなければ彼に逃げられそうな気がして、とにかくさっさと自分のものにしてしまおうとした。
一度既成事実を作ってしまえば、何だか手に入ったような気がするはずではないか。
そして、実際その後の恋人同士の関係というものは、一線を越える以前よりずっと、お互いに対して思い通りになることが増えてゆくことが多いではないか。
彼をオレのものにするんだ。
手に入れるんだ。
抱いて、手に入れるんだ。

だから、ほんとに、あの日の自分は大慌てだった。

傷薬として持ち歩いていた油と、あまり考えたくはないが彼自身の経験値とによって、どうにか手際良く彼と身体を繋げることが出来た。
だが、そこはあまりにもきつかったし、あの人もあまりラクでは無さそうな顔をしていた。
「平気です」
動きをとめたオレに、あの人は何回か繰り返して言った。
「だって……あなた、痛いでしょう……」
ギチギチにきついから、心配になって触ってみたら、少しだけど血が出ていた。
絶対に痛いはずだ。
「いいんですよ、平気です、ほら」
そっと手が繋がれたかと思うと、彼の足の間へ導かれた。
「割とね、いいんですよ、こんなのも」
興奮したそこを触らせながら、彼は恥ずかしそうに微笑んだ。
天気の良い日のことだったので、ぽかぽかして、とても心地よかった。
オレはオレが彼に苦痛を与えているのではないことに、安堵した。


next 

bstop