絶頂に達しかけたとき、そのことを察知したみたいに、一瞬、その手が弱められる。感覚の共有を体感で錯覚しながら、ボクは奥歯を噛んで叫ぶのを堪える。そのほうが深い快楽を得られるのを知っているから。緒方さんが口を使って、ボクのそこへ吸い付こうとする。
「あッ、だ、だめ……ッ!」
もう駄目だった。唐突に加わった刺激にボクは反射の指令で腰を引いた。
結局、その瞬間に、ボクは呻く声を漏らした。
開放。余韻。
何だかそこらじゅうが甘く痺れるようだった。ボクの身体は沈みこむように脱力してゆく。
呼吸を整えながら、薄目を開けて緒方さんを見る。恐る恐るも確認すると、緒方さんは顔を顰めていた。ボクが直前に身体を離したものだから、緒方さんの顔に、ボクの出した飛沫がかかってしまったのだ。
どうしよう……
と、ボクは少し考えた。笑っても良いだろうか。こういう時は、謝るものなのかな。何か気の利いた言葉があればいいのに。
そんなことを逡巡の材料にしていると
「悪ガキめ」
と、さも腹立たしいように緒方さんが言った。ボクはほっとして、笑った。だっておかしかったから。緒方さんは大仰に顔を歪めてみせた。
「ティッシュは?」
「良い……洗ってくる。全く」
緒方さんはさっさと立ちあがり、寝室を出ていった。程なくして洗面台を使う水音がする。そういう間延びした日常的な展開が、ボクに、大人の世界を垣間見せる。普通の顔をしなければ。普通の表情で緒方さんを迎えなければ。今、緒方さんが、ボクの出したものを洗っているのだと思うと、恥ずかしいような、可笑しいような気がして、複雑になる。でも、平静でなければいけないのだ。こういう時の、気の利いた仕草があれば良いのに。
緒方さんなら、どうするだろう。
「髪にまでかかってる」
と、洗面所の方から緒方さんの声。
「オレはこのまま風呂に入るからな」
「う、うん。分かった」
気まずさを堪えてボクは返事した。
そのまま、ベットの上で暇を持て余す。一緒に入るって言えば良かっただろうか。そこまで言うとしつこいように思われるだろうか。
ボクは緒方さんが居ない間に色々身支度を整えて、後は帰宅するばかりにしておくことを選択した。とは言え、まだ服は着ない。時計を確認するとまだ7時にもなっていなかった。2時間だけ……そう思って携帯電話の目覚ましをセットする。ベットのなかで、心地よい姿勢を整えたところで緒方さんが湯気を纏って戻ってきた。
「シャワーは?使わなくていいのか」
「うん、後で」
もう眠たかった。どうしてか、こういうことの後は眠くなる。緒方さんも、直ぐにボクの隣に潜りこんできた。下着しか身に着けていない緒方さんは、シーツの中に湿っぽい肌触りを見つけて不機嫌に
「汚したじゃないか、やっぱり」
と言った。洗いたてのシーツが好きなのだ、この人は。
「でもそれ、緒方さんが出したものだし」
と、ボクは澄まして答える。緒方さんはボクの返答に愉快そうになって、そうだったな、と言った。ボクの体内から零れた分が、シーツを汚したのだもの。それは緒方さんの咎のうちに入るだろう。


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