雑踏に紛れた君の存在。
それでもこの身で感じる、確かな君の存在。
君は、誰?
青く小さな星にある、小さな小さな町。
自由行動を許されたミネルバ搭乗員達は買い出しと気分転換を兼ねて、外に出ていた。
ミネルバに残るつもりだったレイをシンやルナマリアが半ば強引に連れ出した。
滅多に見ることがないレイの私服が見たい、そんな思いからだ。
細身の黒いカジュアルスーツはレイの細い身体を余計に細く見せ、金の髪の美しさを更に際立たせる。
その容貌にシンらは勿論、通りで行き交う人々も見惚れた。
「ねぇ、レイ、服買わないっ?この黒いロングコートなんて似合いそう!」
「レイなら白のダッフルコートも似合いそうだよ」
ルナマリアがすぐ側のショップウィンドウを指差すと、シンも反対の通りに見えるウィンドウを指差した。
「…別に寒くないからいい」
『似合いそうなのに…』
そう、二人の声が重なるとレイは溜息がてらの苦笑を漏らした。
そして、突然。
覚えのある感覚にビクッと身体が震えたかと思うと、レイはバッと辺りを見回した。
「レイ?」
「どうかしたの?」
「…少し別行動を取る。買い物も良いが時間までは戻れよっ」
それだけ言って、レイは駆けだした。シンやルナマリアの狼狽えた声が背中で聞こえても振り返ることなく。
しばらく走って、レイは海辺の公園にやって来た。
そして、足を止めればすぐそこに一人の男がこちらを向いて立ち尽くしている。
二人の間合いは5メートル程だったが、互いにそれ以上は近づこうとしない。
レイは男を睨むように見つめていたが、男の方は深く被った帽子で表情を隠しており、目線の行き先は見極められなかった。
「…君か」
レイから唯一見える、男の唇が動いて聞き覚えがあるような声が聞こえた。
そんな感覚にレイは眉を潜めると、素早い動作で胸元から小銃を取り出し、右腕を伸ばして男に照準を定める。
それは正確に男の心臓を狙って。
「貴方か」
それでも男は動揺することなく、口の端に笑みを浮かべただけで。
「こんな所で発砲するなよ?大問題になるぞ」
「……」
「こんな所で…会えるとは思わなかったよ、白いボウズ君」
「っ貴方が…あのモビルアーマーの…っ」
「まぁ、そうなんだけど…何なんだろうね、この感じは。君が近づくと身体中が警報を上げてるみたいだ」
「こっちが聞きたい」
レイは男を睨み続け、銃の照準も合わせたまま静かな声で返す。
男はその声を胸の奥深くで聞いていた。
「そうか、君もか…いいね、色っぽい運命みたいで」
「どこが」
「しかも、また敵同士だなんて切ない運命だ」
「…また?」
「?何のことだ?」
「今、自分で言っただろ」
「俺が?おかしいな…本当に君と相対しているとおかしな気分になる」
笑う男に対し、レイは更に顔を歪ませる。全身が痺れるような感覚を取り払うように銃を一層強く握りしめた。
男は一歩、その足をレイの方へと進めた。
「近寄るな!」
「生憎、俺は今、銃を携帯していないんだ。何もできないから安心していいよ。できれば君もそれ下ろしてくんないかなぁ」
そう言いながら、一歩また一歩と男はレイに近づく。レイは一歩後ずさると両手で銃を構えた。
「丸腰の人間を撃つ?それってどうよ?」
「なら…これ以上、近寄るな…っ」
「近寄ったら君は揺らぐ?壊れそう?そんなに弱くはないだろう」
足を止めなかった男は自分の胸をレイの銃口に押し付け、その先にあるレイの両手首を片手で掴んだ。
「今…俺を殺したい?」
頭上で問うてくる声にレイは顔を上げない。顔を上げれば男の顔も見えるはずだった。
けれど。
レイは自分の銃口だけを見ていた。
そして、男の方が動き、身を屈めた。
レイも顔を上げかけたが気付けば視界は閉ざされ、口づけられていた。
レイは無意識にひどくゆっくりと引き金を引いた。その一瞬前に男は身を翻し、銃弾を避けたが片腕を僅かに掠めた。
一瞬の口づけ。触れただけにしては互いに痛みの残るキス。
両腕を下げたレイは一粒だけ涙を零して、男を射抜くように見据える。
男は腕の傷など微塵も気にせず、右手で帽子を押さえながらレイの目を真っ直ぐ受け止める。
「泣かせるつもりはなかったんだけどな…」
「…違う」
「うん?」
「俺じゃない…」
「君の涙じゃない?じゃあ、誰が泣いているんだろうねぇ」
「…去れ。次は殺す」
レイは再び右手で銃を構える。男を見据える涙目には炎が灯っていた。
「そうだね、そろそろ行こうかな。ところで君の名前は?ああ、俺はネオと言うんだが…」
「…ファントム」
男は初めて驚いたような顔を見せた。それから小さく笑うと首に巻いていたアイボリーのマフラーをレイの方へ放った。
レイが左手でそれを受け取る頃、男は既にレイに背を向けて歩き出していた。
「いつか、本当の名前も教えてくれよ。じゃあな」
背中を向けたまま片手を上げる男にレイは銃を向けたまま、その背が見えなくなるまで見送った。
それから、左手に残ったマフラーをじっと見つめていると急に吹き始めた風に寒さを覚え、複雑そうな顔でそのマフラーを首に巻いた。
その時に薫った残り香がキスされた時のことを思い出させ、レイは唇を親指で拭った。
「…熱い…」
レイの不本意な呟きは風に掻き消され、レイも風に押されるようにその場を後にした。
ミネルバに戻ったレイにはシンやルナマリアの質問攻めが待っていたが、レイはさらりと受け流すだけだった。
「もうっ、レイってば!…あれ?レイ、そんなマフラーしてた?」
「寒かっただけだ…それだけだ」
レイはまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
そして、またいつもの赤い軍服へと着替える。
あの男と殺し合う、そんな意味を示すように。
君は鮮やかな幻。
君は真っ白な運命。
なら、まだ間に合う。
なら、自分で書き足していけるだろう。
君の行く末。
俺こそが見たいのかも知れない。
ああ、楽しくなりそうだな。
END
うああ(〃∇〃) ネオレイです!!
めちゃめちゃドキドキしました〜//ありがとうございますっっ//
甘いネオレイ〜v コートとマフラーのエピソードにもヤられましたvvv
寡黙で無反応なレイが、ネオの与える甘さにうろたえたりしてると…もう//
くにゃくにゃに…(〃∇〃) …カワイイ…
敵じゃないってことを伝えるのに確実なネオのキス…(照)
色々な感情もこもってそーで、熱そうなのです〜v(照)フフフ