「・・・眠れないのか?」
そう聞かれて、シンは正直吃驚した。
レイは既に寝入っているものだと思い込んでいたからだ。
シンからしてみれば、レイは随分と寝付きの良い方で、
ベッドに就けばすぐに寝てしまうというイメージがあった。
だから、まさか まだ起きていたとは思わなかったのだ。
レイが起きていた・・・というよりも、寝ていたトコロを
自分が起こしてしまった可能性の方が高いような気がして、
シンは慌てて身体を起こし、暗闇の向こう側のレイに謝罪した。
幾ら寝入っていたとしても、隣のベッドの自分が
寝返りを打ちまくったり、携帯を弄ったりしていては、
人よりも感覚の鋭いレイには、眠りの妨げになってしまうのだろう。
そう思って謝罪の言葉を告げたシンだったのだけれど、
どうやらレイは、自分が起こされた事よりも、
シンが眠れない事を問題にしているようだった。
確かに眠りを妨げている本を絶たねば、どうにもならない事なのだが
これはそういう事ではなく、単純にシンの事を心配してくれているのだろう。
「・・・眠れなくても、寝ておかないと良いコンディションが保てないぞ。
・・・寝ることも、パイロットとしての義務なのだから」
相変わらず、事務的な言い方ではあったのだけれども。
それでも、声に含まれた僅かな柔らかさを感じ取って、シンは少し嬉しくなった。
そして同時にそれだけ心配を掛けていたのだ と思い知る。
最近、ずっと自分の事で一杯一杯で、周りの事が全然見えていなかったのだ と。
そう思ったら、自然と溜め込んでいた不安が口を吐いた。
同じく心配を掛けてしまうのならば、お互いにすっきりした方が良いと思ったからだ。
「・・・わかってるよ、でも・・・」
「?」
「本当に、開戦なんだな・・・って思うとさ」
「・・・・・・・・・」
もやもやとした感情が渦巻いて、目を瞑っても一向に眠りなど降りてきてくれはしなかった。
怒り?嘆き?恐れ?
・・・わからない。
複雑に絡まった感情を、簡単に言い表すことなんてできない。
ただ一つだけ確かなのは、自分は軍人で・・・戦場で戦わなければならないと言うこと。
そして、それは既に始まってしまっているかもしれない という事だ。
先の見えないこの状況が、シンには絶えず不安で堪らなかった。
けれどそれは、皆同じだ。
自分の事に一杯一杯で、他人の事など考えられなかったシンだけれども、
一見落ち着き払っているレイだって、内心は不安なのだろう と思う。
・・・なのに、こんな風に弱音を吐いていまうなんて。
情けないの一言に尽きる。
それでも、自分の事を心配してくれたレイに、つい甘えたくなってしまったのかもしれない。
窘められるのを覚悟で、こんな事を口にしてしまったのは。
けれど、レイの行動はそんなシンの予想に全く反したものだった。
「・・・少し、待っていろ」
「・・・え?」
暗闇の中起き上がったレイは、何を思ったのか、突然部屋を出て行ってしまったのだ。
唐突な展開にシンは付いていけず、思わず閉まった扉をじっと見詰めてしまう。
“待っていろ”と言われたのだから、このまま部屋に戻ってこないという事はないのだろうが・・・。
そう思いつつも、こんな自分に嫌気が差して、出て行ってしまったのだったらどうしよう・・・
と、ついつい思い悩んでしまう。
尤も、レイがそんな我侭を言うとは考えられないので、悩むだけ無駄な事なのだけれども。
ともかく、シンがくだらない事で頭を悩ませているうちに、レイは部屋に戻って来た。
部屋の明かりを就けられて、シンはレイが何か手に持っている事を知る。
それは・・・
「・・・ホットミルクだ。」
「・・・え?」
差し出された紙コップの中には、確かにホットミルクらしきものが入っている。
自分に、飲め という事なのだろうか。
とりあえず、受け取ったものの
何で急にホットミルクを? と、首を傾げんばかりのシンに、
レイはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「眠れない時には、ホットミルクを飲むと良い、と 昔ある人に聞いた。
トリプトファンという 睡眠を促す物質が含まれているんだそうだ。
・・・オレも、眠れない時によく飲む」
紙コップを通して、
じんわりと伝わってくるホットミルクの温かさのように。
・・・・・・レイの思いやりが、伝わってくる。
「・・・レイ」
何時もより、幾分柔らかな表情をしているレイが、凄く綺麗で・・・嬉しかった。
心からの礼を伸べると、ホットミルクを口に含む。
その温かさが、全身に染み渡っていくようだった。
・・・温かい。
不安がなくなるなんてことは、決してないけれど・・・
「・・・今夜は、レイのお陰で眠れそうかも・・・」
そう言って、シンはようやく笑った。
オレじゃなくて ホットミルクのお陰だろう と、
相変わらずの素っ気なさで、レイに返されてしまったのだけれど、
心地良い眠りを予感していた。
・・・そう、レイがとんでもない置き土産をしていく前までは。
その時、突然シンの額に落とされたレイの唇。
その事へのシンの驚きと言ったら、状況をしばらく把握できない程だった。
「・・・〜〜〜れ・レイッ?!」
「これも良く眠れるおまじない と聞いた」
シンの動揺を他所に、レイは淡々とごく普通の事のように告げる。
「・・・お休み、シン」
その囁くような心地良い音程にシンが酔う間もなく、
ここまですれば、もう眠れるだろう と、自分の経験上から判断したレイは
さっさと背を向けていってしまった。
「・・・電気、消すぞ?」
「・・・う・うん」
シンの動揺を一切解してくれないレイの様子に、シンはただ頷くしかない。
暗闇の向こう側で、レイが再びベッドに入る音を聞きながら、
シンは今更ながらに、触れたレイの唇の感触を思い出していた。
・・・おまじないって!
・・・おまじないって!
普通、あんな事しないだろう!
ってか、レイは誰にでもあぁなのか?!
ってか、一体どんな育て方をされたんだぁ〜ッ?!
心の中で、声にならない叫び声を上げながら、
やっぱり今夜は眠れそうにない と、シンは悶々とした想いを抱えるのでした。
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可愛いシンレイ小説ありがとうございます(〃∇〃)
天然レイとオタオタしてるシンv リク第二弾〜//
可愛いですっ可愛いのです〜///
レイと同室でドキドキしてるシンと
同年代の子とのコミニュケーションの仕方を今一つ知らないレイ(笑)
自分が経験して安心したこととか、そのまんまシンにしてそうです///
シンが注意もできないものだから、レイは何一つ気付くことなく(笑)
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