ラウ&レイ

小説 吉野様



『煌 〜消えない光〜』






「私は死んだよ、レイ」

そう告げてくる声はあまりにも鮮明で。

その表情はいつもより穏やかにさえ見える。

死という言葉の意味を自分は履き違えていたのではないかと思う程だ。

眉を潜める俺を貴方は静かに笑って見ていた。

自分と同じ、金の髪と蒼の目。纏っている白は誰よりも貴方に相応しいと思う。

貴方と逢うのは現実より浅い眠りの中、夢の中のが多かった。

だが、そんなことはどうでもいい。夢だろうと現実だろうと関係はない。

いつだろうと、どこだろうと貴方は貴方だった。

けれど、今日の貴方は少し違う。そんな気がする。

雲一つない青空の下、緑に囲まれた円形の白いタイルの上に白のテーブルセットとティーセット。

濃いめのアールグレイを好んだ貴方が今日に限って甘めのアプリコットティーを選んだ。

それを淹れながら、何故これを?と問うと最後だからな、と返された。

砂時計をひっくり返してから貴方の向かいに座り、その目を見て悟る。

この人はもう生きてはいないのだ、と。

「…何故です…?」

「私の嗜好に随分合わせてくれたからな。最後くらいはレイの嗜好に合わせようかとね。果実の紅茶のが好きだろう?」

「どうしてご存知なん…いえ、そうではなく、何故…っ亡くなった…のかと」

自分で言葉にしてしまえばもう嘘だと誤魔化しも利かない。自分で口走ったこととはいえ胸が痛んだ。

「軍人にそれを訊くのは愚問だな、レイ」

「軍人として生きたわけではないでしょう?」

「確かに、な。だが、ちゃんと戦場で死んだ。キラ・ヤマトに討たれたよ」

その名には聞き覚えがあった。いつか、貴方が話してくれた最高のコーディネイター。

自分とは最も遠いところにいる存在だ、と。

「彼が…」

「守りたい世界があるのだと言っていた。ならば、私には守りたい世界がなかったから負けたのだろうな」

「ラウ…」

「だから仕方がないんだ。私はこんな世界、いらないのだから」

そう言って見せる苦笑は不思議なほどに綺麗で。悲しいほどに鮮やかで。

「あ…アデスは?そうだ、アデスは…っ?」

今まで色んな話を聞かせてくれたラウが一番穏やかな顔で話してくれた『アデス』のこと。

不器用で、優しくて、真面目で、強くて。

きっと、ラウを一番側で支えてくれた人。ラウが一番必要として、愛した人。

「先に逝ってる。私の還る場所になる為に」

「…そう、ですか。なら…良かった。良かったというのも変ですね」

「いや。ああ、レイ、砂が落ちてる」

「はい」

俺が紅茶をカップに注いでる間に手持ち無沙汰な貴方が砂時計をくるくると回し、最後にトンッとひっくり返してテーブルに置いた。

その手でティーカップを持って、紅茶を口に運び、また苦笑い。

「やはり甘いな」

「アールグレイで淹れ直しますか?」

「いや、いい。時間もないしな」

砂時計を見ながらそう言う貴方を見て、ハッとする。今度、この砂が落ちた時、それが終わりなのかと。

「い、やです…ラウ…ッ」

手が震える。急に気がついた。自分はもうこの人に会えなくなる。この人がいなくなる。

自分に似た、姿と声。もう一人の自分。

俺を闇から連れだして、光を与えてくれた人。けれど、追いかけてはいけない人。

「レイ、デュランダルは好きか?」

「?はい」

「なら、彼と生きればいい。彼を守りたい世界にすればいい」

「…ラウ、ラウは本当に負けたのですかっ?守りたいものがなければ生きてはいけないのですか!?」

知らず声を荒らげて、立ち上がった。ラウはじっと俺の次の言葉を促すように微笑んでいた。

「生きたいから…生きたのでしょう?どこが痛もうと、何が辛くとも…っ。それを越える想いがあったのでしょう?」

零れていく涙が熱い。何故、泣いているのか、自分でも分からなかった。

貴方には分かったのだろう。ゆっくり立ち上がって、俺の側に来ると優しく抱きしめてくれた。

「それでいい、その想いのままに生きればいい」

「ラウだって…生きれば良かったんだ…っ」

力の限り、ラウの身体を抱きしめる。失いたくない。失いたくないんだ。

「生きたさ。できそこないの命にしては十分だ。まさか誰かを愛せるとは思わなかった」

「アデス、ですか?」

「それと、君と」

そう言って、掠めるように頬に口づけられ、離れたかと思うと優しい手に頭を撫でられていた。

「…ラウ?」

「時間だな」

霞んでいく貴方を目の前にして砂時計を横目で見れば残った砂はあと僅かで。

貴方はそのままティーカップに手を伸ばして甘い紅茶を飲み干した。

「私はレイが淹れてくれる紅茶が一番好きだったよ。コーヒーはアデスが上手いんだが」

「ラウ、俺も貴方を愛しています。貴方と過ごす時間がとても好きだった…」

「ああ、そうだ。デュランダルを頼むよ、レイ。あれで結構子供っぽい所があるから」

「ギルが?」

「私はそこが割と気に入っていたが本人は無自覚だろうからな」

「ギルが子供なら俺なんかどうすれば良いのですか」

あのギルが子供っぽいなんて初めて聞く。小さく笑うと貴方の冷たい手が頬に触れた。

「君はどうか君のままに。レイ・ザ・バレル」

消え去る貴方を見ながら、貴方の声がいつまでも頭の中で響いていた。

俺のままに生きて良いのだと、俺の名を呼んでくれた貴方の声が。


その声を再び聞くことが出来たのは俺がギルに銃口を向ける直前だった。













種運命最終回の記念に、吉野様が書いてくださった小説です
ううっやはり切ないのです(T◇T)
守りたい世界…それはアデスや隊長やレイのいる世界のことで。
それが全部なくなってしまう…そんな世界
その運命の銃口の先に続く世界の悲しさに、涙してしまいました
素敵なお話をありがとうございましたv
また読ませてやってくださいませv



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