■第2話 「柳女」


先生は蝋燭問屋生駒屋の身代を番頭に譲り、隠居して物書きをなさっているそうで御座いやす
涎を垂らして居眠りができるなんざ、いいご身分で
しかし、版元の蔦屋にはいつも小言を言われているようでやすが…
書こうとすると、奴(やつがれ)共の顔が浮かんできてしまい、なかなか筆が進まないとか
前々から考え物よりは百物語を書きたいと思っていなさった先生
それなら柳屋へ行けと蔦屋から勧められたのか
祝言があると知って慌てて飛び出して来なすったのがあの日のこと

先生との再会で御座いやした
次の仕掛けの舞台である “柳屋” を見張っていたおぎんが 「ふっ」 と笑うのでどうしたのかと思いやしたら
先生が柳屋を覗き込んでいて、そのまま入ってお行きなすったんでさ
こちらの世界に足を踏み入れる事の怖さが、まだわからないようでやすね……

この柳屋は中庭に巨大な柳の木がある旅篭で
柳の木の精だと言われている “柳女” に代々守られてきたらしいんでやすが
巷に流れるのは、その “柳女” が主の吉兵衛の嫁に嫉妬して殺すという妖しい噂
嫁いできた女と産まれた子供を手にかけるなんざ、むごい話で御座いやす
今回は、特におぎんが入れ揚げてやしてね
新しい嫁の八重と知り合いだったのか、柳屋の下働きに潜り込んでその娘を守ろうとしたようでやす

さて、生駒屋の名前を出して座敷に上がった先生でやすが
吉兵衛に祝いの言葉を述べた後、隠居したという身の上話もされていやした
それから、子供の頃の話も
柳女の噂を聞いて忍び込んだことがあり、風に揺れる柳に驚いて逃げ帰ったとか
さぞかし、可愛らしい子供だったんで御座いやしょうね
その先生に牽制のつもりだったのか、おぎんが茶を出しに行ったようでやす
おぎんに気付いた先生、その存在の意味にまで思い至ったのかどうか

同じ刻、奴(やつがれ)が庭に姿を現わすと、ちょっとした騒ぎになりやした
そして、駆け付けた吉兵衛に、柳に憑いた物の怪を封じ込めようと出したお札を見せたんでやすが
取り上げられ握り潰されちまいやした
罰当たりなことで、何が起こるか…
お札を粗末に扱っちゃァ仕方ありやせん、追い詰められても文句は言えねェ

先生は一連の遣り取りを見ていたはずでやす
「物好きでやすねェ先生、痛い目、遭いますよ」
すれ違い様、そう忠告したんでやすが、聞き入れてはくださいやせんでしたね
余計に首を突っ込み、祝言の中止を進言して、摘み出されたようでやす

しかし、先生は諦めない
その一途さはどこから来るんで御座いやしょう
追い出された先生は、子供の頃に使った抜け穴から再び入り込み、屋根の上で見張ることにしなすったようです
目の前の柳の下では、ひとりでやって来た八重が突然首を締められ苦しみだし、それをおぎんが助け…
先生はその様子を夢中で見ていて屋根から転げ落ちちまったようで
よく、落ちなさるお人だ……
おぎんに 「ばあか」 と呆れられても仕方がありやせんね
店の者に見付かり外に投げ出され、水まで掛けられた先生
「ここまでするぅ?」
って、それは……“自業自得”ってやつで御座いやす……
けれど、拗ねて口を尖らせた先生が、これまた可愛らしく見えちまいやして
後先考えずに突っ走るなんざ、ほっとけないと思わせるお人でやすね

その先生、しばらくすると今度は変わった形の眼鏡を掛けて、懲りずに屋敷に忍び込んでいやした
ったく、諦めが悪いと言うか物好きと言うか
そのせいで、正体は吉兵衛だった柳女が、また嫁を殺そうとしている場面に出くわしちまったんで
そして、御行の瞬間にも
自分は悪くなく、全てを柳女のせいにしようとする吉兵衛
哀しゅう御座いやすが、その罪は罪
報いは受けていただきやした

その後、無事、11代目となる赤ん坊が産まれたとか
これで柳屋は安泰だと喜ぶ親戚連中を見て、先生は心を痛めなすったようです
「あなた達のその身勝手さが、吉兵衛さんを死に追い遣ったのに…、あなた達こそ物の怪だよ」
そう、本当に怖いもの、それは “人”―――
その親戚連中を、柳の下でひとりの女が見ていやした
口元に冷たい笑みを浮かべながら……



それから、御行を済ませ、『京極亭』 で甘味を楽しんでいた時のこと
京極亭から先生のことが話題に出てしまいやしてね

「百介とかいう男、二度も仕掛けに立ち会うとは、実に奇遇で御座いますね」

奴(やつがれ)は偶然だと答えやしたが、少し知り過ぎてしまったのではないかと言う京極亭
目を付けられてしまっては、どうすることもできやせん

そんな心配も露知らず、先生は自室に戻ればまた、呑気にうたた寝なんぞなさっていたんで御座いやしょう
子供のような、やすらかで穏やかな寝顔で……









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柳女では、版元に苛められているモモたんが、ちょっと身につまされるようでしたが///(^∇^u
百介の親戚連中へのつぶやきが、又さんには切なかったことでしょう…。
そして京極堂が百介を狙って…(∋_∈)!好奇心がキツネを殺すと申しますが
内心慌てている又さんが可愛いのですv(〃∇〃)

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