◆ 17.


今夜は何日かぶりの野宿となった。
そろそろ暑くなりかけたが、日が落ちると少し気温も下がり、まだ過ごしやすい夜である。

「なあ、起きてんだろ?」
「…」
「三蔵サマってばよぉ」
「うるさい」
「あいつら、どこ行ったんだろうな?」
「俺が知るかっ」

ジープから八戒が降りてどこかへ向かうと、悟空も抜け出して後を追っていった。

「前にもこんな夜があったな〜」

悟浄がそう言うと、助手席でカチッとライターの音がした。
三蔵は返事の代わりに紫煙を吐き出した。

「なあ、賭けしない?」
「またか?」
「コインを使って一発勝負!」
「…賭けの対象は?」

複雑な思いを押し隠して、三蔵が素っ気無く訊いた。

「勝った方が煙草一箱」
「あ? 前よりランクが落ちてんじゃねえか」
「一回リセットして、一から仕切り直し、ってのはどう」

悟浄がニヤリと笑った。

「けっ、俺に勝てると思ってんのか」
「勝負は時の運、ってね」
「ふんっ」

三蔵が身体を少しずらせて半身を悟浄に向けた。
それを合図に、悟浄がコインを上に弾く。
落ちてくる途中を素早く掴むと、もう片方の手の甲に載せた。

「さあ、どっち?」
「あー、何してんのー?」

三蔵が答えようとする前に悟空と八戒が連れ立って戻ってきた。

「また夜中に逢引か〜?」
「ちげーよ、ホタル探してたんだよ」
「ホタル?」
「うん、えーと何だっけ?」

答えに窮した悟空が八戒を見上げる。

「地蔵蛍です」

穏やかに笑みを浮かべて答えながら、八戒は運転席に戻った。
三蔵はいつの間にか姿勢を戻し、目を閉じている。

「この人、起こすと怖いですよ。 さあ、僕らももう少し眠りましょう」

後部座席に向かってヒソヒソ声で告げると、二人が即座に従う気配がした。



八戒は眠る前にチラッと三蔵の横顔を窺うと、心の中で話し掛けた。

――あの人の魂も、天国に連れて行ってもらえたかもしれませんね

今はもう、三蔵の中に残っていないかもしれない欠片を、八戒は少し哀れに思った。



静かになった車内で、三蔵は目を閉じたまま考えていた。

――仕切り直し、か

悟浄は自分との行為のことも含ませて言ったのだろう。
そっちがそうしようってんなら、こっちにも異存は無い。
余計なことに煩わされないように、消してしまいたい部分はリセットしてしまえばいい。

――その唇のことも、忘れてやる……

感傷に浸ることもなく、ゼロからのスタートだと、気持ちを新たに切り替えた。
その途端、この状況をどこか面白がっている自分に気付いた。

人生はゲームだ。
次にどんな目が出るかわからない。
が、結果がわからないからこそいいのであって、先が見えていることほどつまらないものはない。

刺激的な毎日、緊張感のある日常。
そんな日々の果ては、勝って終わりを迎えたい。
その時に笑っていれば、そこで初めて、自分の人生が “愉しかった” と思えるのかもしれない。

……が、それまでは、愉しんでなどいられない。

――目的を果たすまでは……

三蔵はそこで考えるのをやめ、眠りに入った。



その後ろでは、三人が寝静まった後、悟浄がコインを掌で玩びながら考え事をしていた。

――さ〜て、これからどう攻めよっかなー

……と。

悟浄の手の中にあったのは、三枚のコイン。
うち、一枚は普通のものだったが、残りの二枚は違っていた。
表と裏が同じ絵柄の二種類である。

果たして三蔵がそのからくりに気付く日は来るのだろうか。


* * *


その様子を見ていた観世音菩薩の高笑いが、しばらくの間、天界の一角で響いていた。





FIN





素晴らしい小説ありがとうございました(T◇T)///
悟浄の優しさが沁みわたりました〜///かなりクラクラに…//
遊亜さんオリキャラの瓏洸も凄く良い男で、三ちゃんは三蔵を辞めても
こういう人とだったらちゃんと幸せになれるのだと分かり
スキルアップだ下僕一行!と思ったりしました
瓏洸と胡蝶は夢の中の恋人達で(T◇T)忘れられない名前になりました…

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