『欲望は”会いたい”』

小説 吉野 様

喉の渇きは水で潤せる。

では、この渇きは何で潤せばいい?



アデスと離れてからどのくらい経っただろう。現実的には一週間程度。
たかが一週間、されど一週間。

関係を持ってから、これほど長期に渡り、アデスと離れるのは初めてのことだった。

寂しそうな顔で見送るアデスに大丈夫だなんて何故、言えたのだろう。

アデスは私の今の心中を察していたのだろうか。
自分ではなく私の心配をしていたのだろうか。やはり案外、鋭い。

寂しいのは私、大丈夫ではないのは私。

無意識の内に指が唇をなぞる。アデスに似た人間が通る度に振り返る。隣の空間が気になる。

艦を降りる時、最後に長い口づけを交わした。その熱がいつまでも私を焦がし続ければいいと思った。

キスの最中、アデスの手が私の身体を辿れば、どんどんと焦がれていくようで。

触れた箇所から熱を生んで、血が沸騰しそうだった。それ程の想いで抱かれて、お互い、よく離れることが出来たものだ。

そして、後遺症。今は心も身体も渇きすぎている。

喉の渇きならどんな水でも潤せるだろう。

でも、この渇きはアデスにしか潤せない。

お前に、飢えている。

もう、きっと失っては生きてはいけないほどに。

こんなにまで心奪われていたのか。これほどまでに愛しているのか。自分が信じられなくなる。

誰かを愛することはないと思っていた。誰かを必要とすることはないと思っていた。ただ、独りでこの運命に挑んで逝くのだと思っていた。

その私の隣りにずっといてくれたアデスが今はいない。

私を愛して、必要として、私の運命に付き合ってくれると言ったアデスが。

私が愛して、必要として、私の運命に引きずり込んでしまったアデスが。

「…アデス…」

思わず呟いてしまった名がどうしようもなく愛おしい。体中でお前を欲している。細胞の一つ一つまでがお前を呼んでいる。

きっとこの目はお前を見つめる為に、この耳はお前の声を聞く為に、この口はお前とのキスとお前の名を呼ぶ為に、この身体はお前を感じる為にあるのだろう。

だというのに、お前がいないのならばどうすればいい?



「…長、隊長?」

「…ん…?」

地球基地で与えられた個室の椅子でいつの間にか眠りに落ちていた私を目覚めさせたのは聞きたかった声ではなく、ただの部下の声だった。

残念ではあったが、考えれば当たり前かと我ながらに呆れた。

「…すまない、イザーク。何か用だったか?」

「いえ、その…こんな所でお眠りになっては風邪をひきますよ
?」

「そうだな…寝るつもりではなかったのだが…」

アデスがいない現実を見つめているのが辛かったのかも知れない。私らしくない失態だった。

眠っていたとはいえ、敵ではないとはいえ、イザークがこんなに近くに来ても気付かなかったとは。

「それで?何か用ではないのか?今、君の隊長はアスランのはずだが」

「っ…俺の隊長はクルーゼ隊長だけですっ」

「…そうか。それは隊長冥利につきるが…軍人としてはあまり公言できる台詞じゃないな。今はザラ隊とし…」

「隊長は…っ何故、アスランを隊長にお決めなったのですか!?俺は…っ俺は自分がヤツより劣っているとは思えません!」

イザークは私の座る椅子の肘掛けに両手をつき、身を乗り出して、私を背もたれに追い込む。

「…少なくとも、アスランは上司に向かって、こういうマネはしないな」

…そうでもなかったかな…。だが、彼の戦闘能力も判断能力も4人の中では最たるものだということは間違いない。

イザークは一瞬、身体を引きかけたが、ぐっと堪えたようだった。そして、更に顔を寄せてきた。

「…アデス艦長は…構わないのですか…っ?」

何故か私達の関係はクルー達のほとんどが知っているらしいことを知っていた私はさほど動揺はしなかったが、イザークの方が自分で動揺していた。

自分でも言うつもりはなかったというような顔をしていた。その名は私に特殊効果を与える名なのだから。

「…当然だ、と言えば…満足か?」

自分の声が冷たさを増すのが分かる。見据えたイザークの肩がビクッと震えた。

「どけ、イザーク。次はない」

「…失礼…します…」

今の私に踏み込むことをしないからイザークには何も言う気はない。だが、これで今後の仕事に支障が出るのは少し困る。

故に、項垂れて部屋を出ようとするイザークの背に向かって嘘をついた。

「…イザーク、ザラ隊での健闘を祈る」

「っは、はい!必ず…!失礼致します!!」

思った通り、イザークは嬉しそうな顔で振り向く。そして、勢い良く一礼すると部屋を出ていった。

その次の瞬間にはもうアデスのことを考えていた。

今、お前は何をしているのだろうな?

そう考えていた時、部屋の通信機が受信を訴えて鳴りだした。ボタンを押せば画面で見知らぬ女がロボットみたいな口調で話し出した。

『クルーゼ隊長、ヴェサリウス、アデス艦長より入電です。お繋ぎして宜しいですか?』

「!?あ、ああ、頼む」

アデスは不器用なくせにタイミングを見計らうのが上手い奴だということを私は改めて思い知らされる。

私らしくもない。通信が繋がる僅かな間も惜しいくせに、妙にドキドキしていた。

『隊長?アデスです』

ずっと聞きたかった、その声に心が震えた。同時に真っ暗な画面に首を傾げる。

「ああ…何だ?音声のみの設定にしてるのか?何故?」

『その…顔を見てしまえば、どうなるかと…余計に会いたくなりそうで…』

「自室だろう?どうなっても構わないさ…私はお前の顔が見たい」

『…今、切り替えます』

アデスがそう言うと、私は仮面を外して机の上に置いた。この離れた空間以外に私達を隔てるものを付けておきたくなかった。

ふっと画面が明るくなり、そこに見たかった顔がいた。その後ろにはいくつもの夜を重ねた、見慣れた部屋。

「…アデス、会いたかったぞ」

『私もです…珍しく、隊長が仰っていたことが嘘になりましたよ』

「うん?」

『大丈夫では…ないですよ、やっぱり』

「ああ…そうだな…大事なものは失ってから気付くというのは本当だな」

『…失うつもりは、ありませんよ?』

少し、怒気を含んだ真剣な声。そんな声や言葉にも私は満たされる。渇いた心が潤されていくのが分かる。

「…私もだ」

当然のようにそう応えると、アデスは少しして手で顔を押さえて俯いてしまった。

お互い、暇な身ではない。少しでも長く、その顔を見ていたいというのに。

「アデス?」

『そんな笑顔で…仰らないで下さい…狂ってしまいそうだ』

「それは良かった。私はお前を狂わせたいよ。私で、な」

『そんなの今更ですよ…もう…っ欲望に狂いそうです…っ貴方に…触れたい…!』

「…なら…しようか、アデス」

『…は?』

俯いていたアデスの顔がキョトンとした顔で正面に戻ってきた。私の言葉の意味を分かっていないことは明らかだった。

私自身、何を言いだしたのかと思いもしたが、もう引く気にはなれなかった。

「…言え…まず、どうしたい…?」

私は意図的に甘い声で誘う。髪をかき上げる仕草を見せて、強引にアデスを私に引きずり込む。

『隊、長…っ』

「アデス…」

『…肌に…触れたい…』

「ん…」

ゆっくりと自分の手で軍服のホックを外して、肌を外気に晒す。次いで、その手でその肌に触れる。

その刺激と、微かに聞こえるアデスの息づかいがこの肌を熱くさせていった。

「んん…っ」

『もっと…強く…』

「っあ、あぁ…アデ、ス…ッ」

久しぶりに聞く、アデスの夜色の声。誘われるように動く手はアデスのものだと思った。

胸の突起はとっくに起ち上がり、人より白いはずの肌が熱に染まる。

『上着…もっと脱げますか…?』

「ああ…」

熱に、うなされてるみたいだ。アデスに言われると同時に自分で上着を脱いで腕で止めた。それでも、この熱は冷めるなく。

どうしようもなく熱いのに、更なる熱を求めていた。

「アデス…アデス…ッもぉ…お前が欲しい…っ」

『では…右手を、そこへ…』

「は、あ…っ」

ゆっくりと右手を自分の中心部に持っていけば布越しでもそれが既に極限状態であることが分かる。

このまま、ここで最後まで溺れてしまうわけにも行くまいと思い、どうにか自分の冷静さを思い出す。

「っは…ここまでかな…」

『はっ?』

「ここでイクわけにはいかないだろ」

『〜〜っ隊長、それはないでしょう〜っ』

アデスの情けない声に笑いながら、私は上着を腕から肩まで戻す。

「お前、ここを汚したら誰が掃除すると思ってるんだ?私だぞ。そんなの想像できるか?」

自分ですら想像もつかない。自分が吐き出したものを自分で掃除するなんて。

アデスは少し考えてから苦笑を返してきた。

『それは確かに。貴方には不似合いですね…そうなのですが…』

「次に会った時はお前の好きにしていい。いつまでも、どこまでも付き合おう」

『…そのお言葉、忘れないで下さいよ?』

「ああ。ただし、私も好きにするがな」

『そう言うと思いましたよ』

そう言って、幸せそうに笑うアデスを見た。もしかしたら、この笑顔だけでも良かったかも知れないと思えるほど私は満たされていた。

もう、何の乾きも感じない。心も身体もアデスで満ちている。しかし、これでいつまで保つのだろう。

「アデス」

『はい?』

「…早く、会いに来い」

『…了解しました。努力しましょう』

「とりあえず、この後、バスルームで一緒にイこうか、ではな」

『た、隊ちょ…っっ』

私はアデスの返事を待たずに通信を一方的に切った。

立ち上がって、バスルームに向かいながら上着を脱いで床に捨て、バスルームで全て脱ぎ捨てると勢いの良いシャワーを熱めにして浴びる。

次の瞬間には先程、極限を迎えていたものが限界を迎えて、溜まっていたものを吐き出した。

「っは、あ、はぁ…はぁ…っふ…っ」

バスルームの壁に手をついて、息を整えながら自然と笑みがこぼれてきた。

「…笑顔でとどめ刺すなんてな…やるじゃないか…アデス…」

私はお前にとどめなんてものをくれてやれたかな。

まぁ、次でも良いか。

ああ、早く会いたいものだな。




END


地球で隊長はさぞかし一人で寂しいハズ…と思ってましたら、
アデスと通信×××!(笑)(≧∇≦)!アデスからの通信でドキドキしてる隊長がっ
マジ可愛いです〜///
イザーク頑張ったのに、叱られてしまいましたネ//
でも挫けないで、隊長ラブを貫いて欲しいです(〃∇〃)
孤独のままに生きてきた隊長が、寂しいと感じるのは、好きな人を手に入れたから
こそなのです///宇宙に帰ったらいくらでも甘えられますが…
ちゃんとアデスの元に帰れると良いですね〜(T▽T)

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