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男は舌先で、さんざん胸の突起をなぶった。それが硬く張って、ピンと立ってくるのがわかる。その様子を楽しむように、パトリックの舌は淫らに動き続けた。



乳首に呼応するように、ラウの男性の印しが、硬さを甦らせた。それに指先が絡んでくる。ラウは息を吸って、喉を小さく鳴らした。

滑らかにさすられ、先の部分をゆっくりと揉まれる。裏側には、押し上げるような強めの愛撫が加えられる。



ラウの白い額や、しなやかに伸ばした首筋に、うっすらとした汗が滲んできた。ドクドクと、下腹に強い血流が流れて、そこを熱くさせている。解放しそうだ……ラウはシーツを掴んで、手の平に搾り込んだ。



先端はおそらく、蜜を滲出させているだろう。その快楽の証しを、思いのままに噴き出させたい。

ラウを苛む男の手の動きが、さらに強く、激しくなった。ラウは両眼を硬く閉じて、その瞬間を迎えようとした。



「死神はタロットの中で、最強のカードだそうだ」



 突然、局部から刺激が消えた。ラウは小刻みに突き上げるように、腰を引きつらせた。

その様は、ふいに消滅した悦びの源を探し求めているようだった。



「その占い師が言っていた。

カードには、良いカードと悪いカードがある。占いで、どんなに良いカードが現れても、次に死神が出てくれば、それまでの良い意味は失われる。死神が全てを打ち消してしまうらしい」



死神──!? まだ死神の絵にこだわっているのか。その話題は、もういい! 

急速に退いていく快感がやるせなくて、ラウは胸中で毒づいた。



この嗜虐的な卑劣漢は、またやってくれた。ラウがイコうとすると、さっと手や唇を引く。

達成されなかった欲求に、身悶えるラウを見て、このサディストはほくそ笑むのだ。この残酷な焦らしを、これまでに何度、味わわされたことか。



「……閣下」



 パトリックのねじれた心を余計に喜ばせるだけだとわかっていても、ラウは表情を歪めて、すがるような声を出した。



「金持ちになる、出世する、健康になる、恋人が出来る、状況が好転する……望むとおりの未来を手に入れたところで、死んでしまえば、何もかも終わりだ。だから、死神は最強に位置するのだ。女神や天使が描かれたカードもある。だが、死神はそれらも抑え付ける……。

彼は天界の者を凌駕するのだ。最強の力を持った、揺るぎない存在、それが死神だ。頼もしいとは、思わんかね?」

 パトリックはデスクの上の絵を、それから情人の顔を見下ろした。



 まだ乱れている息の間から、ラウは応答した。

「……その力にあやかりたいと、思われるのですか?」



「そうだな……」



ややあって、パトリックは返事を寄越した。

「……力は強大であればあるほど、心強い。強い力は、胸に描いた願望を、成就へと導く。強靭な意志と、絶大な力──私が今もっとも、欲しているのは、これかもしれんな」

 己に言い聞かせるように、面持ちを固くした。



 そうやって、こいつの自我はどこまで肥大し続けるのか……力の魔力に捕らわれた妄想の輩を前にして、ラウは胸が悪くなった。

 力を求め続けた先には、理想の楽園はなく、ただ殺伐とした破滅が待っているだけだ。



 自らの権威を拡張するために、他国を征服するために、倦むことなく争いを繰り返して来た人類の歴史が、それを証明している。

それこそ、死神に捧げるような、死者ばかりで未来への希望が失われた、荒涼とした灰色の世界。それが、度過ぎた力の行く末だ。



……いや、かえって、それを平穏と呼ぶのかもしれんな。

生者の妙な欲がないからこそ、すさんだ争いも起こらない。虚無の中でのみ、人は平安を獲得できる、ということか……。



「さて、君の場合は、何を手に入れたい。

今、ここで、君がもっとも欲しているのは、何なのかね?」

 声音のトーンを変えて、パトリックは揶揄するように尋ねた。



 ラウは死神の君臨する王国に馳せていた心を、生々しい情欲に濡れているベッドの上に引き戻した。パトリックの瞳の奥が笑っている。



下卑た口調だ、反吐が出る。こいつが私に言わせたいことは、わかりきっている。だから、意地でも口にしたくない。

 だが、この火照った身体が、欲望が……くそ!

 ラウは短く息を吸うと、抑えた声で訴えた。



「……閣下が……。

閣下の力が……欲しいです」



「力……? 私の肉体の力のことかね?」



 パトリックはしてやったりという調子で、頬を吊り上げた。

 と、同時に、履いていたスラックスを脱ぎ始めた。

 現れた彼の分身は、すでに鎌首をもたげていた。愛人の内部を思って、期待感で膨らんでいるのだろう。



そしてラウも、重量を増したそれで、自身の中が満たされるさまを想像して、はしたなくも、唾を飲んだ。



「はい……その力を、私に……」

「もっと具体的に要求してもらいたいものだな」

「か、閣下のモノを……私に……」

「私に何かを頼みたいのなら、はっきりと最後まで言いたまえ。君は私に、君の求める何かを、推測しろというのかね」

「い、いれ……」

「はっきりと!」

「……挿れて……下さい」

「……よろしい」



 いきなり、パトリックはラウの両脚をすくうと、深く折り曲げさせた。腹や胸が苦しくて、ラウは小さく呷いた。

 彼を乱暴に扱う男は、先ほどの愛撫で指に付いた先走りの蜜を、後口に塗りつけた。



「これで充分だろう。君も、もう待てないようだしな」

「閣下、もう少し……」

 馴らしてから……と、性急なパトリックの行動に焦ったラウが、頼もうとした瞬間、熱い柱が貫通した。



「ヒッ……!」



 ラウの喉から、鋭い笛の音のような悲鳴が飛び出した。

 パトリックは目許を歪めながら、腰をねじ込み続ける。



「くっ……やはり狭いな。何度、男を迎えても、君はいつまでも処女のようだな。咥え込んだものを、強く締め付けて押し返そうとする。

 やはり急ぎすぎたようだな。私も辛いが、じきにいいあんばいになるだろう。君は濡れるのも早いからな」

 首を反らせて、苦悶する青年に言い放った。



 しかしラウの耳には、その言葉は入っていなかった。接合部から駆け上ってくる激痛に、必死で耐えていた。それは腰から背中へと、細胞を切り裂きながら突き進んでくるような痛みだった。



 この男、私を性の奴隷のように扱う唾棄すべき男。その権力を振りかざし、私に苦渋を強いて、悦に入る。

いいか、私は貴様に負けてはいない。隷従させられたのは、肉体だけだ。心は、決して肉体に引きずられていない。それを、必ずおまえは思い知ることになるだろう。



私は、貴様を、必ず……!



ラウはカッと双眼を開くと、のしかかる中年の男を睨み付けた。



だがその憤怒を、パトリックは平然と受け止めた。

脂汗で汚れたラウの額には、幾筋も、プラチナブロンドの髪がへばりついている。反抗心を露わにして、ぎらぎらと光る瞳は、今にもこめかみに涙を伝わせそうに潤んでいる。唇は紅く濡れ、引きつりながら震えている。



これまでに目にした、とびきり美しいと評判の女たちよりも、はるかにそそる、この艶やかさはどうだろう。この麗人が、私に加えられる仕打ちに泣き、よがって声を上げ、私にすがりついて達するのだ。



「私を感じるか、クルーゼ。いい顔をしている……実に、そそられる。

もう少し、我慢すれば、苦痛はすぐに去る。いつものことだろう……?」



子供に言い聞かせるように、彼は優しい調子で告げた。

と、容赦なく、奥まで突き入れた。間を置かず、腰を前後させる。



しばらくは、ゆっくりめの狭い振幅だった。彼を包む内壁が、次第に潤いを帯びてくる。ラウは眉間をしかめながら、かすかに呷き続けている。

そうしていきなり、パトリックは限界まで肉欲の源を引き抜くと、再び乱暴に突っ込んだ。



「ひいィ……ッ!」

 ラウが上体を反り返らせた。



 パトリックは大きくグラインドさせながら、様々な角度から攻め立てた。

 彼の息も荒くなり、ラウと同様、その額や胸には玉の汗が現れた。



「どうだ、いいか……クルーゼ」

 微笑むように唇を吊り上げ、彼は訊いた。

「あ……あぁ、か、閣下……」



 ラウは掻き毟るようにシーツに指を滑らせると、血管が浮き出るほど、きつくそれ
を握り込んだ。

強く打たれる度に、接合部から快感の稲妻がほとばしる。全身から溢れ出す汗は、男の力強い手で押さえられている太股の裏も、びっしりと濡らしている。



パトリックの動きが早くなった。滲み出てくる粘液を絡めながら、一直線に、内部をこすり上げる。

 互いの激しい呼吸が、辺りの空間を揺るがせた。



 精の射出の瞬間が近づいている。あまりの快楽に、ラウは枕の上を半回転するように、首を大きく振った。

 頭上に目が行った。壁を飾っているアフロディテの絵画が、乱れる自分を見下ろしていた。



 薄衣をまとって、柔肌を透けさせている、美と愛欲を司る女神・アフロディテ。

彼女は優美な眼差しを、ラウに注いでいた。



すると、ふっくらとしたピンクの頬が動いた。その下の、官能的な微笑を湛えている唇が、薄く開かれる。

(……楽しい?)

 彼女は問うた。



 目尻に涙を溜まらせているラウは、素直に答えた。

(……ああ。耐えられないほど、感じている)



 それを聞いて、満足そうに、アフロディテは瞳を細くした。

 額の汗を流れるままにして、ラウもうっすらと微笑み返した。



(素敵よ、あなた。きれいで、凛としていて。揺れる髪は、夜更けの森に、澄んだ光を落としている月光のように輝くのね。まるで、月の女神のアルテミスみたい。

彼女は、狩りの女神でもあるのよ。弓を握って、背中には矢筒を提げて、野山を駆けるの。あなたはその殿方を、射止めたのかしら。それとも、狩られたのは、あなた? 獲物になった気分は、いかが?)



 彼女はひとつ、身体を波打たせると、白い首を反らせた。目を閉じて、あっ……と艶めいた声を洩らす。

 ラウは再び笑いをこぼすと、ゆるりとまぶたを伏せた。



 ラウの男根は、痛いほどに張り詰めていた。腰は規則的に、揺すり上げられている。ベッドのマットが弾む。パトリックと密着している肌が、汗でぬめる。



「う……うぁ、くっ」

「いきそうか、クルーゼ」



 下腹が震える。後口の粘膜がねじらんばかりに、挿入された肉塊を圧迫する。

 意識が白濁を始めた。頭に血流が上昇する。



「い……あっ」

 きつく目をつむってから、まぶたを押し上げた。



 窓側の壁で、美の女神は微笑んでいなかった。

 代わりに、そこに佇んでいるのは……不吉な黒衣で身を包んでいる、死神だった。



 絵がすり替わっていた。足元に大勢の死者を侍らせながら、死神は大鎌を光らせていた。

 彼はラウの様子を見物しているようだった。生きとし生けるものの生命を、全て飲み込んでしまうようなその暗黒の眼窩が、面白そうに見下ろされていた。



 ラウの欲望が弾け飛んだ。のし掛かっているパトリックの腹に、熱い液を放出した。

 それと同時に、内壁をぐいぐいと収縮させた。腰一帯に、烈しい快感が充満していた。



 死神はラウの絶頂を、片鱗まで見逃すまいとするかのように注視していた。好物を差し出された子供を思わせる、他の夾雑物を一切、視界に入れていない眼差しだ。



 パトリックが短い呷きを発した。

 ラウの体内を、彼の液体が遡った。それを最後の一滴まで絞り出させるように、ラウは局部のきつい収縮を繰り返した。パトリックは二度、三度とくぐもった声を響かせた。



二人の身体が静止した。そうして、彼らの深い吐息が同調した。

 死神がかすかに、髑髏の歯列を軋ませた。



 彼は──嗤っていた。



 ラウは消えゆく意識に、ゆるやかに引き込まれていった。















『まもなく、そちらに到着するとの連絡が入りました。ヴェサリウスの出航は、19:00時で変更はありません。アデス艦長はすでに、ボーディングルームで待機しておられるようです』



 机上のモニターに、ザフト軍の通信士が映っている。深緑の軍服を着ている彼女は、事務的な口調で告げた。

「わかった。ありがとう」

 ラウも感情の薄い調子で応じると、通信を切った。



 プラントにあるザフト軍の官舎で、ラウが過ごす時間はあまり長くない。戦場から戦場へ、移動を続けて、必要が生じた時のみ、本国へ帰る。

 ラウには、隊長職に就いている高位将校にふさわしいように、他の独身者より、はるかに広い部屋が与えられている。しかし、ゆったりと寛げるスペースなど、ラウにとっては、あまり意味がない。



戦場から離れても、作戦会議や雑務に追われて、夜が更けてから、寝に帰るだけの部屋。

ラウは元々、物には執着心を持たないので、住居を飾ることには全く関心がない。その上、ほとんど不在であるために、室内は不要な家具を放置している倉庫のように殺風景だ。



ほんの数日、滞在しただけで、ラウはまた次の戦地に赴く。命令が下った先は、地球連合のコロニーが建造されているL4宙域だ。

ラウは純白の軍服に身を包んで、静かな自室に居られる最後の時間を過ごしていた。迎えの車が来れば、命を敵にさらす緊迫の日々が始まる。



広く取られた窓からは、西日が射し込んでいた。影が侵食してきた床板に、明るい光の帯が敷き下ろされている。



 窓辺に佇み、しばらくラウは、外の景色を眺めた。人工の居住地であるプラント。茜に染まる空も、その下に横たわるなだらかな丘陵も、遠くに輝く湖も、すべて造られたものだ。

 だが、まがい物の自然であっても、心が癒される自分がいた。宇宙に出れば、漆黒と星々のみの、単調な光景が待っている。



(さて、そろそろ行くか……)



 穏やかな眺めを目に焼き付けると、ラウはデスクに引き返した。その上の、銀の仮面に手を伸ばす。



それを装着すると、彼の表情は隠されて、誰も彼の内面を窺い知ることは出来なくなる。そうして、ザフトの高級将校であるラウ・ル・クルーゼは、敵から恐れられ、味方からも畏怖される、冷徹な指揮官になるのだ。



身支度を整えると、机の脇のアタッシェケースに腰を屈めた。下階のロビーで待つために、部屋を出て行こうとする。

と、薄暗くなってきた行く手に、周りよりも暗い影を認めた。



輪郭は周囲と混じり合うように、もやもやしながら、それに溶け込んでいる。だが中心部分は、濃い影のような色に見える。

ラウより少し大きめの、煙霧に似たその奇妙なものが、空中に浮いていた。



(何だ……窓からの光が、何かで遮られているのか?)

 ラウは足を止めた。仮面の下で、眉をひそめる。



 心に冷風が吹きつけた。心臓を縮ませるほどの、氷でおおわれた水底のような冷たさだった。

ラウは総身の毛穴を粟立たせた。



謎の影は、見る見るうちに、一つの姿に収斂した。影は暗黒の長衣へと変じて、そのフードの中からは、白い髑髏の顔が覗いていた。

空虚に穿たれている眼窩と鼻腔の暗がりは、長衣の黒よりも、さらに深い黒である。



それは不気味な骸骨の手に、大鎌の柄を握っていた。髑髏の少し上手で、肩幅近くある、大きな刃が西日を反射させている。



(死神……!

なぜ、ここに……!?)



 ラウは息を詰まらせた。

 ラウの驚愕を楽しんでいるのか、死神は数回、剥き出しの歯を面白そうに噛み合わせた。



 これは幻覚ではない、この空気の冷え、私の肌に走る悪寒……こいつは確かに、冥府の冷気を伴なって、私の前にいるのだ──。



 ラウは死神と見つめ合った。二人の距離は、一メートルほどだ。しかし、異界からの訪問者は、ラウに近づくでもなく、何かを仕掛けてくる気配もない。



 しばらく睨んでから、ラウはわずかに顎を引きつけた。

警戒心を含みながらも、尊厳を失わない声で、低く語りかける。



「何を……しに来た。

 ……私の命を、奪いに来たのか。だが、今日は諦めてくれ。今はまだ、貴様にくれてやるわけにはいかん……」



 パトリックの屋敷で出会った死神は、ラウの文句を吟味しているように、じっと動かなかった。



 すると急に、それは大鎌を振りかざした。

彼の長い衣が、強い風を受けたように、鋭くはためいた。底冷えのする涼気が、室内に溢れ出した。



威嚇するように、死神は上下の顎を開いた。穴倉のような口腔内から、密閉された地下室に充満しているような、かび臭い呼気が放たれた。

 刺すような光を溜めた鎌の刃先が、ラウにその一撃を見舞おうとするかのように、ビリッと震える。



「やはり、私の命が狙いかッ!」

 ラウは咄嗟に、身を横転させた。



 しかし、直後に襲い掛かってくるはずの、大鎌の衝撃はなかった。

 見上げると、死神はやいばを振りかざしたままだった。



 その白面からは、脅すようだった攻撃的な形相が消えていた。

 今はまた、動?したラウの有様を、面白がっているような表情をしている。



 ラウはそろそろと立ち上がった。

死神のこの様子では、今すぐには、殺す気はないように思われる。私にさんざん恐怖を味わわせてから、仕事に取りかかるつもりなのか──?



すると、死神は鎌を下ろした。戦意はないことを示す。

そうして、何者かにたぐり寄せられているかのように、するすると腕を上げると、ラウに白骨の指を差し出した。



──わたしは、おまえの味方だよ……。



彼の薄笑みを漂わせているような口許から、ラウはその意思を感じ取った。

警戒心は解かずに、死神を睨んで、その真意を探ろうとした。しかし黒衣の骸骨は、敵意をしりぞかせたままだった。



次第に、ラウの胸の奥から、上昇する水泡のように、笑いが込み上がってきた。彼は喉元で、こもった笑声を響かせた。

それから、頭を振り仰ぐと、堂々と死神と正対した。



「そうか……私を見込んだか。パトリック・ザラよりも」



 顔面と手を除いて、黒ばかりの姿なのに、暗闇に埋没せず、暗色の微光を発しているように見える、黄泉への招待人。

ラウはもはや怖れは感じずに、既知の友人に対するように、打ち解けて話しかけた。



「私の方が、おまえを喜ばすことができる……そうだな? 私と共にいれば、おまえは思う存分、その鎌を振り下ろせる。鎌が課せられた使命を為しおおせる度に、おまえは興奮と充足感で、顎をカタカタと打ち鳴らす。

 パトリックでは、身を震わすほどの陶酔は、味わえないだろうからな。私に言わせれば、あの男は、まだまだ甘いよ。目標を成し遂げるためには、物事は、徹底的にやらなければな……。

さすがに、おまえは死を操る闇の覇王だよ。死臭への嗅覚は鋭いな」



 死神はラウに差し向けていた指を、ゆっくりと引いていった。もう片方の手と同様に、大鎌の柄を握る。



 ──貴様を、待っていた……。

  準備はいいぞ。さあ、行こう──



 ラウの胸に、枯死した樹木の肌のように、ひび割れて乾き切った声が届いた。



 にんまりと口角を吊り上げると、ラウは床に転がっているアタッシェケースを拾い上げた。

 すっきりとしたラインを描く背を伸ばし、軍靴の歩を前に出す。



 だんだん死神に接近して、その横までやって来た。

大鎌を握っている魔の者は、同じ体勢のままで、ラウが行き過ぎるのを許した。



黒い衣と五、六歩、離れてから、ラウは足を止めた。

振り返らずに、低く落とした声音で告げる。



「……ついてこい」



 背後で、衣擦れの音が舞った。

 ラウは唇を三日月形に、薄く引き延ばした。



力強い足取りで、靴音を響かせる彼の後には、つかず離れず、黒衣と大鎌の影が浮遊していた。




FIN





魔に魅せられた男パトリック・ザラと
魔を魅きつける男ラウ・ル・クルーゼ…
その対比が色っぽくて…
良く考えるととても可哀想なパトリックに、恣音さまがたっぷり役得を
与えて下さいました。
死神となった隊長になら、どんな事をされてもザラは満足でしょう///
隊長の純白の軍服と、死神の黒衣が…
私も魔に魅せられまくりです(∋_∈)素敵な小説ありがとうございます!

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