シャア×クルーゼ

小説吉野様


『BEYOND THE TIME』






やっと終わると思った。

やっと解放されると思った。

この血から。

この世界から。

何もかも粉々になって消えてしまっても良いと思っていた。

この身体も。

この想いも。

それでいい、そう思ったのだけれど。



目が覚めてしまった。

あの時に閉じた目は二度と開かないはずだった。

眩しくて、妙に暖かくて目が覚めた。

こんなものを私は知らない。

木で造られた家具と小屋。窓からは陽光と穏やかな風。外に見える鮮やかな緑達。

ここはどこだ。

生者の世界か、死者の世界か。それさえも分からない。

「お目覚めか」

それは突然に鳴り響く鐘のように鮮烈な声。

続き部屋からドアのない部屋の入口を越えて、それは聞こえた。

深く、深い声。

その主はゆっくりと私の側に歩み寄ると穏やかに笑った。

見たことがあるような金の短髪。光の強い星のような瞳。氷のような、炎のような男。

「気分は?」

「…私は生きているのか?」

「そう思うか?」

「思えない」

「君の好きに思うといい。私は何も言わない」

言いながら、男は私にコーヒーを寄越した。

「目が覚めるだろう。しっかり目を覚まして考えることだ」

「覚ましたくもないし、考えたくもないが」

「今更逃げる所なんかどこにもない。観念したまえ」

言って、男は私の髪を撫でると側にあった椅子に腰掛けた。

その様を見つめながら、思う。

直接会ったのではないだろうが、やっぱり見覚えがある。

いつか、どこかで。

「私を見つめたところで君の答えは出てきやしない。君の答えは君の中にあるのだから」

目線が交わって、思わず身を引く。見据えてくる瞳は私を貫くようだ。

「っ…失礼。貴方とはどこかで会っているような気がしたもので」

素顔を隠す仮面をなくした今、私の動揺はきっと彼にそのまま伝わっていることだろう。

彼を見ていると、どうしてだか心が騒ぐ。

その彼は柔らかく笑った。

「もしかして口説かれてるのかな、私は」

私は言葉もなく固まった。

何を馬鹿なことを。

そう思ったはずなのだが、私の頬に触れてくる彼の手を振り払えず、近づいてくる笑顔から目を反らせず。

「いいだろう、口説かれてあげよう」

そして、唇が触れて目を閉じた。

短いキスの後、彼に柔らかく抱きしめられながら耳元で彼の声を聞いた。

「私は死にかけの君を救いあげた者ではない。君に死を招いた者だ」

「…死神だとでも?」

「そうかもな…君の生にいらぬ意味を持たせてしまったのかもしれん」

「…私の生が意味あるものだったと、貴方はそう言ってくれるのか」

初めて、彼が驚く顔を見せた。

どうして?

私が驚いたのに。

私の命に意味があったのだと言って貰えたことがひどく嬉しくて。

その嬉しさが切なくて。

「どんな意味でも…無いよりはマシだったと?」

「…貴方も…そうだったのではないですか。赤い彗星と呼ばれた男」

私がそう言っても彼は先程よりも驚くことはなく、少し切なげに微笑んで。

「そうだな…血を流しても、誰を傷つけても、欲しいものがあった」

それは手に入ったのですか、そう聞くことは出来なかった。

長く見つめ合っていると鏡を見ているような気分になる。

自分によく似た、メビウスの輪から抜け出せなかった人。

「…しかし、そろそろ行こうか。一緒にどうだ?」

「…喜んで」

彼はダンスに誘うように私に手を差し伸べるから私もそれに応えるように手を渡した。

そうして私は目を閉じた。

私はやっと実感する。



お前がいないのに私があの世界に残れるわけが無かったんだよ。

そうだろう?



吉野さまよりコメント//
『本当にシャア×クルーゼが出来上がってしまいました(爆)。
ルビーCD「負け犬の何でも屋」を聞いてから池田秀一さんと
関さんの絡みも良いー!と(いや、カティスとルヴァCPも
好きですが)考える内に思いついた、シャア×クルーゼ
・・・でも、世には出せんだろうと思ってましたが、ネットで
かやさんの便箋を拝見して、絶対書き上げようと(勝手に)
心に誓ったものですっ(笑)。』
シャア×クルーゼ!!ありがとうございます///
切ないシリアスなお話に仕上げていただいて(〃∇〃)
あの妙な便箋も作って良かったです〜(幸せv)
シャアもクルーゼも大好きなキャラですし、
今期は負け犬の食卓シリーズで池田さんと関さんが(≧∇≦)//
皆さまシャア×クルーゼをどうか応援宜しくお願いいたしますv



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