悟浄×三蔵
「モノクロに沈む」

小説 スフィア様








咲いた言葉は枯れるまでにそう時間はかからなかった。
蛍光灯はひとつ切れたが、少し薄暗くなっただけで、日常は大した支障もなく、流れた。
失うことは得ることよりこんなにも簡単なのかと。理不尽さを感じることももうなくなった。
置いてきたのは景色やら。いつの間にかだった。気付いていたかもしれなかったが。

昔から。見て見ぬフリは得意だった。

ああ、もう、過ぎてしまった。
痛覚も過ぎていった。
惰性だらけだから、腐った頭だった。
寝転んだ地面に、そのまんまの姿勢で沈んで行くよう。まるで終わっていくようだ。


だから可笑しくて笑うのか。



ただ。
確かにあの時咲いたはずだった。鮮やかな色は、やがてモノクロームに溶けて消えたが。

でも、それだけが、今でもひどく。














関係の変革はどちらからともなく訪れた。
絡む腕に、馴れ合いのような、生温い空気さえ漂わせて、ゆっくり爛れていく気配を感じながら。
それは何かを捨ててしまった、というか、思考を止めた、というか。
波に任せてしまえば楽だと心が言ったから、楽ならばそれに越したことはないと従順に従ったまでのことだ。
奴が求めた理由は知らないが、それはかなりどうでもいいことなので、放っておいた。
要するに自分がどうかなら、最初から考えるまでもなかったってことだ。
根の腐った安寧だって束の間ならそれこそ十分で、
元より居座る気なんかなかったから、これ程うってつけなものはない。
少しのズレを見なければ、見ないようにすればいいのだ。
有限の居場所に完璧さを求めたって仕方がない。
そこそこのサービスを受けられればそれ以上求めるものもない。

・・・そのはずだった。

だけど気付けば。
単に利用してるだけとか、・・・或いはされてる、だとか。
そうやって、かすかに感じる不調和の隙間を、
手繰るようにして得たわずかな言葉で何とか埋めようとしている自分がいた。
仕舞いには頭の中でごちゃごちゃ。この関係性に枠を作ろうとしてる。

―――自分が一番納得いく名づけ方を探して。

じゃないと、どうやら落ち着かないらしい。
そんな不可解な感情が、また、怖い。
慌てて、何だっていいのだ、と、今日もそう思ってみる。

・・・何だって、いい、と。

このややこしい思考を霧散させてくる瞬間を、さっきからずっと待ち侘びていた。
だから受け入れ。爪をたて。
やがて埋め尽くされる黒に・・・・・・途切れた。






そしてゆっくり目を開ける。横になったままで見つめる天井。視界の隅が僅かに黒ずんで。
眠ってしまいたいのに、眠気がやってこない。
不快感が張り付く、ぐしゃぐしゃのシーツ。嫌になって両の掌を顔面に強く押し付ける。
そして何を考えるでもなくしばらくの間そうしていると、不意に横から視線を感じた。
三蔵は条件反射の様にそちらを見る。
「何?」
ニタニタと笑って覗き込んでくる、その顔。
「さー?」
こいつのこの手のハグラカシは何だか癇に障る。
やけにジロジロ見てくる悟浄のその不躾な視線にいい加減イライラも募っていたというのもあって、
三蔵はこめかみに血管を浮き立たせつつ。
「ざけんなっ」
顔面蹴りを食らわそうとして振り上げた足だったが、そこはやはり悟浄が一枚上手だ。
その足首をグイッと掴むと、悟浄は器用にもそのまま三蔵の身体を床に倒してしまった。
床に背中をしたたか打った痛みに思わず顔を歪めたのも刹那、三蔵は不服と屈辱を込めて悟浄を睨みつける。
「ほらほら、んなソッコーで牙向いてちゃだめでしょー?」
子供をあやすような口調は、もちろん、相手の神経を逆撫でするとわかった上で。
三蔵は忌々しげに舌打ちすると立ち上がって、
水を飲みに少し離れたテーブルの方へとスタスタ歩いていってしまった。
拗ねさせたかな?はて、などと呑気にその背中を見送りながら、悟浄は無造作に頭をかいた。




水を飲んで戻ってきた三蔵を悟浄はベッドの上から強く引き寄せ、そのまま自分の身体の下に引き倒す。
見下ろすその体勢にに思わず視線が絡んで。
「・・・何だ」
不審気に三蔵が問うと。
「いや、さっきから何考えてるのかな、と思って」
「・・・興味があるのか?んなことに」
「あるような、ないような」
「どーでもいいってことだろ」
「そうかも」
そう言った後で軽く笑う。
三蔵はもがくようにして悟浄の腕を振り払った。
悟浄の方もそれに対し特に不満もないようで、あっさり三蔵を解放する。
それからベッドに仰向けに寝転んで、つれない奴、と一言喚いた。

・・・身体が深い沼に浸かったように重たい。もう身体を起こすことも煩わしい位。

慢性的な気だるさに冒され、ぬるま湯に浸かりきってふやけた脳がそれでも何かを訴えている。
いつもどこか乾いた音をたてる。

三蔵は思わず胸を庇うように身を丸めて。

その布擦れの音に反応して、悟浄は自分に背を向け横たわっているとなりの身体を見た。
少しの間、ただ見つめ。
やがて、後ろから抱きしめる。

三蔵は、だが、その行為に何の反応も示さない。
密着する肌が奇妙なほど冷えていて、悟浄は、今日はそんなに寒い日だったか、と思う。
視線を移せば、結露の窓、霞む奥にちらつく白い塵のような影。
抱きしめながら横目で確認して、悟浄はため息をついた。

「さんちゃん、外雪降ってるよ・・・」
「・・・それが何だ」
「寒いわけだよな」
「・・・・・・」





世界がモノクロに沈む。
・・・積もってくれるな。重苦しいのはたくさんだ。

三蔵は目を細め、胸のうちで、そう、呟いた。










雪は音さえ吸い取ってしまうのか。
それから奇妙な静寂に包まれた室内には互いの穏やかな息遣いだけが残った。
あとは、身体を伝い届く相手の脈拍が、鼓膜を僅かに震わすのみで。
それだけ感じて目を閉じると、今この瞬間がどこか絵空事のような、そんな気にさせられる。
ゆらゆらと揺れる瞼の裏の鮮やかな色。濁った光が時折反射して。やがては闇におちた。

そうやって、ふと浮かび上がった想いさえ、言葉に出来ないまま。


・・・でも、こんな想いを、確かに、知っていた。





その時、悟浄が口を開いた。
冷えた空気を僅かに振動させる、そんな些細な声で呟く。
「・・・もう冬、か」
その言葉が、不意にも、時の無情さみたいなものをまざまざと突きつける響きをもっていて。
・・・苦い。

いつと比べるでもなく、でも何かが変わってしまった。
確かに変化した。
罪なのは求めたことだった?
そんなゴミみたいな自問を繰り返したりもした。
でも今は、雪が降っている、そんな景色に凍えるんだ・・・ひどく寒いから、寄り添っていられた。
馬鹿げた話だ、と自分を嘲笑ってみせたが。
でも、でなければ、他人の熱はひどくうっとおしいに違いなかったのだ。互いに。

三蔵は身を捩じらせ、悟浄の方に寝返った。
瞳は閉じたまま、その腕を悟浄の首へと回し、せがむ。
驚いたように息を吸う音と、かすかに笑った気配。お望みどおりと与えられたキス。

三蔵は眉根を寄せ、胸に押し寄せる違和を排除しようとした。

川底の泥のような感情を、持て余して。



「何、考えてる?」
唇が離れた刹那、悟浄はもう一度言う。
「・・・お前のことに決まってる」
吐き捨てて、押し付けた唇は、でもやっぱり冷え切っていた。









凍れる夜は白と黒に塗りつぶされ。
脳裏に蘇る今はもうあやふやになってしまった色たちに。なお必死にしがみ付きながら。



満たしあうようなふりをして、傷を掻き毟るような自虐行為にも似た痛み。
日々は穏やか過ぎるくらいで、刺激はそこそこに、萎えていくような脱力感を引き摺って、それでも。


ふたりは離れられないでいる。











おわり








くあっ(∋_∈)
カッコ良過ぎるモノクロームの世界をありがとうございます(T◇T)///
寄り添う温かさを自分に許してあげることが出来ない三蔵が痛々しいのです〜(〃∇〃)
それに見合った言葉を知らなくて、本当は知っているのかも知れなくて、
そして知ってしまったら、もう後には戻れなくて//
まだ、ギリギリの所で踏み止まっているようで、実はもう引き返せない
それを認めてしまうことが、三蔵には恐いので(〃∇〃)
可愛い過ぎです三ちゃん(照)
三ちゃんの可愛さにメロメロに///

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