無理やり捕まえ、剥ぎ取ったらどんな顔をするのだろう。
彼でも怯えた眼をするのだろうか?
見たい!!
駄目だ!!
ぐっと、歯を食い縛り、飲料ディスペンサーからコーヒーを選びこれ以上の飲酒を止めた。
「もう酔ったのかい?」
と、からかい口調で聞いてくる青年に、
「大人は若い人の手本でありたいと思っているのです。」
と言い、バスルームに向かった。ランドリー部から返っているバスローブの一つと、バスタオル類を出し、彼の前に差し出し、
「ここにいたいのであれば、シャワーぐらい使って来て下さい。着替えも出して置きます。
このソファがお気に入りのようですから、使って下さい。
寝室の、空いているベッドでも良いですよ。ツインですから。」
「私はここを片付けたら休みます。」
と言い、茶器や、空いたボトル類を集めだした。
彼は黙って、艦長服の上着を脱ぎ、ソファの背に掛けて行った。
その後姿に、あまりの薄い肩と、細い身体に驚いた。確かに下着のハイネックのシャツは身体にフィットしてはいるが、軍事訓練を受けてきた身体には見えなかった。
「全く驚かされてばかりだ・・・彼には・・・」
「しかし、本当に緊急招集がかかったらどうする気だ?悪くすると、降格処分だぞ・・・管理職の自覚はあるのか?艦長職のガイダンスすら受けていないんじゃないか?
本当に艦長がジンに乗って撃墜王にでもなったらどうするんだ?」
と、だんだん話が不安な方に転がって行く・・・
ま、彼の次の隊長が誰になるのか見ものだな?大人しく艦長席で責務を果たしてくれるか・・・
と、考えを巡らせながら、ソファの前のテーブルもすっきりし、洗い物も終らせた。
寝室のクローゼットから着替えのパジャマや下着、制服下のアンダーシャツや、靴下類を出して来る。背丈はそこそこ、幅は大きくても仕方ないだろう、とソファに置く。
次に、初めて、隣のベッドメイキングをする。そこまでしなくても・・・
ソファがイイと、ごねたガキの為に・・・
それでも、疲れを取らせるならば、やはりベッドでゆっくり休む方が良い。
明日、いや、もうすぐ朝だが好きなだけ寝ていられるだろう。
私も気兼ねなく休める・・・
と、自分の行動に心の中で葛藤しながらも、折り合いを付け、自分に納得させた。
ベッドサイドに二人分の酔い覚ましの水を置き、浴室に向かう。
「大丈夫か?倒れてないか?」
「あ、もう、出ますから・・・」
バスタオルを頭から被り髪を拭きながら、脱いだものを抱えて出て来た奴に、着替えを用意したことを伝え、まだ飲み足りなかっったら適当に飲めば良いという。
そして、ゆっくり休むには、ベッドで寝た方が良いから準備もした、こっちへ来いと、寝室に案内する。
「申し訳ありません。ご無理ばかり・・・あまりに居心地が良くて・・・甘えてしまいました。」
バスタオルで顔が隠れているので気付くのが遅かったが、仮面をはずしていた。
・・・故意か、偶然か?
又、鼓動が早くなる。
今、バスタオルを取れば彼の隠された顔が見られる。
彼はそれを望んでいるのか?私を挑発して、試しているのか?私はどうしたいのだ?
鼓動の速さと、血が頭に上ってくるのが自分でわかった・・・
「ク・クルーゼ艦長?」
声が喉にひっかかった感じにかすれる。
「何か?」
無防備に顔を上げて返事をする。タオルと、長い前髪で瞳まで見えなかった。
何かほっとした。
そう、彼は今夜私に甘えていると言った。
その彼の望まぬことをしてはならない。・・・そう、自分に納得させる。
確かに、見たくないかと聞かれれば、機会があれば私も見てみたい、と他の者達と同じである。
そして、彼は、今夜手袋をはずしている!!
白い、ほっそりとした長い指を、私に今さらしてくれているではないか!!
彼に負けたのではない、だから、彼の意向が何処にあったとしても、気付かなかったことにした。
ここで、もう今更欲望でこの時間を無駄にしたくなかった。
彼との良い感じの時間を壊したくはなかったのだ。
彼のことだ、気まぐれなガキはいつかどこかで愉しませてくれるか、困らせてくれるか・・
私は、もう休むからと言い、ベッドに入った。
「ちゃんと身体を休めるためにも、ここで早く寝なさい。」
「ありがとうございました。おやすみなさい。アデス艦長」
奴の丁寧になった言葉を聞いているうちに、このまま帰ってしまうのではないかと心配になった。
そこで、再度起き出し、様子を見に行く。
彼は、ソファに座りバスタオルを被ったまま顔を手で覆ったまま身動きもしなかった。
「湯冷めをする、さあ、来なさい。」
肩に手を置き来るように促した。
先程の車から降りるときのように拒絶の言葉もなく、
されるままに付いて来る・・・
そのままベッドに座ったので、毛布を足下から掛けてやると、おとなしく丸まった。
バスローブのままだが、まあいいか、と、私も横になりベッドサイドの小さい光だけ残して、目を閉じた。
これで安心して眠れると思った。
しばらくして、アデスのベッドから規則正しい寝息が聞こえた。
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毛布がふわっと動いた。
青年が、眼を開けてアデスの方を見た。
眠ってはいなかったようだ。
「アデス、お前はなんて優しいのだろうな・・・私のようなモノのために・・・
何処まで困らせれば怒るかと思ったが・・・負けたな・・・このベッドで眠って良いのだな。
こんな人でないモノのために・・・
ありがとう・・・アデス・・・」
いつも皮肉を湛えることの多い口元と瞳が、今は真摯なようすを表していた。
本心からの感謝の言葉と共に・・・
終