『一握りの光』
フラガ×クルーゼ

小説 Rai様







 ――教え通りに裁けば良い。但し、今まで罪を犯したことの無い者のみだ。

 太古に神の子はそう言った。

 だとするならば。

 誰が彼を裁けるだろうか。

 

◆    ◆    ◆

 

 

 ベッドに寝転び、ムウは先ほどの彼の独白を反芻していた。目に映るのは白い無機質な天井なのだが、彼の頭に映るのは先ほどの独白の場面。

 ――アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだから

 確かに、彼には全てを裁く権利があるのかもしれない。

 出来損ないのクローン。

 そのために彼が浸からざるを得なかった汚濁など想像すら出来ない。それは、「人」の想像をはるかに絶しているのであろう。どんな綺麗事や道徳も、その前では汚濁の一部と化してしまいそうなほどで。

 ひょっとしたら、浸かってきた汚濁が汚濁だと分からなかったのかもしれない。そこに光などなく、「それ」が汚濁だと分かるような比較対照の出来るものが無かったのであれば。

 そして、「それ」の存在が否定できないまでに彼の中に浸透しているのであれば。

 知り得る限りの「絶望」という言葉の意味で括れないのであれば。

 誰が彼を裁けるのだろうか。

「…………」

 ムウは、身体を反転させてうつ伏せになった。白い天井は視界の情報から外れて、替わって視界を覆うのはベッドの白いシーツ。しかし、やはりそれも、今のムウにはただの映像であった。

「なあ……。俺には何も出来ないって言うのかよ……。」

 力なく吐き出される声。

 思い出すのは、幼い頃に読んだ伝記にあった言葉。

 ――教え通りに裁けば良い。但し、今まで罪を犯したことの無い者のみだ。

 太古に神の子が人間に言ったらしい言葉。

 どんな場面で出てきたのかムウは忘れてしまったが、今でもこの言葉を否定する事は敵わない。幾度の死線を見てはくぐり抜けた彼には、どんな道徳も「道徳」として背理するならばいくらでも手立てがあるのを分かっている。しかし、それでもこの言葉だけは。

「どんな連中も、お前を裁けないんだろうな……。」

 いや、神すら裁けないのかもしれない。

 彼は「人間」の汚濁を不必要なまでに知りすぎてしまった。だからこそ、その汚濁を消すために彼は動いている。浄化は不可能だと判断して。彼の持ち得る、彼自身の存在をかけて。

 その汚濁の為に彼は動いている。

 誰が彼を裁けるのだろうか。

「…………」

 ムウは手を出すと、目の前で強く拳を握り締める。爪が掌の皮に血が出そうなまでに食い込んで、神経が一斉に悲鳴を上げるが、耳を塞いだ。

「……俺に裁く権利は無いかもしれない……そうかもしれないけど……お前を止める権利ぐらいあってもイイんじゃないのか?」

 拳を解いた。案の定、爪痕の形に合わせて血が滲んでいる。

「俺はお前に光を見せてやりたいだけなんだ。でなけりゃ、何のためにお前と出会って、敵対して、命の遣り取りをして……お前を愛しているのかわかりゃしない。」

 それだけの為に愛すべき者と戦っている。

 もし、世の者が聞いたら呆れるのだろうか、指を指して笑うのだろうか。どちらにせよ、好意的な感情は向けられないだろう。しかし、それでもムウは構わなかった。愛すべき者に、光を見せられるのであれば。

「……頭のイイお前は分かってんだろ? 光と闇は互いがあって始めて存在できる事を。だったら……頼むから光を見てくれよ。そっからまた考えてくれよ……。」

 それとも、光を肯定できないまでに闇の中にいたのだろうか。

「……俺が光になってやれるのが一番なんだろうけどな。」

 彼に自分がどう見えるのか分からない。

 それでも構わない。

 彼に光というものを見せてやりたい。この命を賭してでも。

「ま、お前にしてみりゃ俺の命なんて、価値が殆ど無いんだろうけどな。」





 誰も彼を裁く権利などない。彼を裁けるほどの闇を歩いた者などいないのだろうから。

 だが、自分には彼を止める権利がある。そうムウは自惚れたかった。

「自惚れるくらいの権利なら、別に構わないよな。」

 その言葉は、ここにはいない彼に言ったのか、それとも神の子に言ったのか。それはムウ自身わからなかった。ただ、何かに向かって言いたかった。

 今の自身に出来るのは、自惚れを信じて突き進むだけ。

 それしか、今では彼を正面から愛する方法が無いのだから。

 例え、どんな結末になろうとも。

「愛しているぜ、ラウ。」

 光を見せられないまま、朽ち果てるとしても。



―fin―

「理解しようとして止めようとするフラガ」 というテーマで
切ないフラクルをありがとうございます///結局光を見せられないまま…
ガンダムSEED49話で…( ̄- ̄lll)…  無念です!ムウ!!
二人とも気の毒でした…。ラウはムウともっとお話してみたくて、
きっとちょっと手加減くらいはしてたと思うんですよね…
そして期待もしていたのに…
そしてムウもやる気でいたのに!!(∋_∈)
無関係なところで………。
とても無関係なところでええええええええ(T□T)!!
やっぱりキラに負けたんですね…
主人公が倒して盛り上げるために…
隊長…隊長…(涙が…)
ムウ… 無念!無念だろうな… 
キラクルでSEEDは締めってコトなんですか…
そしてイザークのために世界は救われてゆく…
49話はそれにしてもまた恐い映像が…(∋_∈)プチプチがッ
Rai様には「理解しようとして見守るアデス」というテーマで
アデクルも書いていただけるとのことで、お待ちしていますv///

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