「無題」
一行の丁度半分の食事風景は、戦闘よりも毎度騒がしい。
戦闘は、ともすれば一行全員が面倒くささ全開で、終始無言な事がある。
しかし、その食事も極稀に、水を打ったように静かな時がある。
余程口に合ったのか、考え事をしてるのか、実はちょっと眠り掛けているのか、
「王侯貴族の朝食」のごとく物音一つ立てず、伏し目がちに食事を進める最高僧。
その彼に見蕩れているのだ。
所作の全てが、夢の中の出来事のようで、
その姿は、月夜の水中でほの白く輝く真珠のようだ。
初めて彼を見る店内全ての人間と同じく、ぽかーんと見蕩れている。
店内の空気の不自然さにようやく気付いた彼は、やはり眠り掛けなのかも知れない。
「なんだ」
と、ぶっきらぼうに問えば、弾かれたように食事を再開する三人。
極稀の「静かな食事の日」は、三蔵様の大当たり。
極稀の「本来なら遠目にも見る事すらなかった貴人と飯喰ってる日」は、三人の大当たり。
一行の嬉しい日はいつでも一緒。それはいつでも裏表。
「事務仕事」
最高僧様は、執務室で真面目に事務仕事。
眠い。
目を開いてると、目はしみるし、まぶたは痛いし、指先がむくんだような感じだし、
正直、自分がちゃんと起きているのかもあやしい程眠い。
今なら猿がうるさくまとわりつくのを許してやるのに。つか、むしろ来い。眠い。何か壊せ。眠い。騒げ。眠い。
その頃、お猿さんと河童さんと、保父さんは。
執務室の扉の内側、つまり、室内で扉にもたれ、半分以上眠った赤ちゃんのようにぐらんぐらん揺れる最高僧様の危なかっしいお姿を、鼻息荒く愛でておりました。
「呪詛」
昼食の為に休憩した森の中。
木にもたれ座っていた三蔵の上半身が、ぽてっと倒れた。
余程疲れているのか、珍しくそのまま目を覚まさない。
料理の二人と味見の一人はわいわいやっていて、これまた珍しくそれに気付かなかった。
ジープだけが飛び寄り、寝顔を覗き込んだが、怪我や病気でないとわかると、ジープまで眠ってしまった。
三蔵の、手の平を枕に。
相手の体の異常な小ささを、眠りながらも感覚したのか、もう片方の手の平を毛布のように、その体へふわりと被せてやった。
手の平枕と、手の平布団。
呼びに来た三人は、眠る二つの、おっきい方の優しさに身悶えながら、ちっさい方へ両手を伸ばし
何故お前 !? 何故お前 !?
こんなに尽くしてるのに、そんなのしてもらった事一度もない!
ああ違う!『してもらいたい』じゃなくて『したい』んだー!
と、無言でガクガク震える、不気味な集団と化していた。