悟空×三蔵
小説
まゆ様

『光』




その街に着いたのは夕方と言うにはまだ早い時間だった。
三日ぶりの街は栄えているとは言えないが寂れてもいず、宿屋は古いが上等と言って良い部類だろう。
案内された部屋は広く、高い天井に比した大きな窓が切ってある。窓を挟んで、両側に二台ずつの寝台が据えられている、つまりは四人部屋だった。
建物は古いが部屋は入念に手入れされている。清潔そうな寝台に飛び乗った悟空が何回か跳ねた様子で、八戒はそれを知った。

「さて、じゃ買い出しに行きましょうか。悟浄、一緒に来て下さいよ」
「へーへー、荷物持ちね。こら、猿! テメーも・・・」
寝台に俯せて微動だにしない悟空を見て、悟浄はことばを止めた。
「寝てやがるのか」
呟いて、悟浄は諦めたように三蔵の向かいの椅子から立ち上がった。
部屋の中央に据えられた卓に、窓を背にして三蔵は煙草を吸い、新聞を広げている。

「三蔵、何かいるものありますか?」
悟浄と三蔵の吐き出す煙が、部屋を曇らせている。八戒は見かねて窓を開けながら問い、振り向いて気が付いた。向かいにいる悟浄からは、きっと見えない。
「マルボロ赤」
三蔵の眼鏡の縁が陽光を反射する。
「ったく三蔵様よ、アンタもたまには買い出しの手伝いくらいしたってバチあたんねーぜ?」
「触るな」

肩に掛けた悟浄の手は、すげなく払われる。当てつけがましい舌打ちを漏らす悟浄の背を押して、八戒は笑んだ。
「わかりました。じゃ、行ってきます」

悟浄を促して八戒は部屋を出る。

いっこうにめくられない新聞と、見開かれた、金色を映す悟空の瞳。

風通しを思ってわざとドアは細めに開けておく。
立ち去る瞬間、窓から入る昼間の陽光が、三蔵の金の髪を煌めかせて後光のように溢れた。












「なんだ」
ぶっきらぼうな声が形の良い唇から零れる。
悟空は答えない。

『うるせーから、連れて行ってやる』
そう言って差し伸べられた手を、掴んだのはどのくらい前のことだったのか。
悟空には、そのときの三蔵が金色の光に見えた。
それは今も変わらない。

金髪と紫暗の瞳が、陽光を透かす。煌めいて渦を巻き、巻き込まれて流される。
いつも、知らぬはずの記憶が、遠い昔の思いが、脳裡に蘇りそうになって、捉える前に遠ざかる。決して蘇らないその記憶は、切なく苦しいような気分と、甘く幸福なような気分を、同時にもたらす。

「なんだ」
「なにが?」

悟空は答える。
手が、無意識に伸びている。

「なんだってんだ、バカ猿」
伸ばした指に、指が重なる。

金色の光が、近付いてくる。

なにか絶対的に縋るものがあっても仕方がないと、八戒がいつか言っていた。

そのとき悟空が思い描いたのは、遠い記憶の金の光と、目の前の金色と。
絡まった指に、ありったけ悟空は縋る。
思い出せない遠い記憶が、胸に空洞を作る。

「仕方ねぇ、オレ、馬鹿だもん」

呟いて引き寄せると、暖かい体温が寄り添ってくれた。

「訳わかんねーことほざいてやがる」

動く唇に、悟空は唇で縋る。

法衣の袷を思い切り剥ぐと、強い勢いで頭を張られた。

それでも衝動は止まらない。

欲するまま、悟空は法衣をはだけ、現れた胸にしゃぶりつく。薄い筋肉に引き締まった痩せた胸に、母性など感じるわけはない。だが、悟空はそもそも母性とはなにかを知らない。

知っているのは黄金の光だけだ。

ただ孤独に怯えていた、長い長い年月を終わらせてくれた、連れ出してくれた金色。遠い記憶の彼方に埋もれた金の光。

ポツリと浮き上がった突起に、悟空は唇で縋る。舌で縋り付く。

すると、いつも苦しげな声をあげながら、三蔵は甘く頭を抱き締めてくれるのだ。

この人より他に、守る者も大切な者もいないのだと。

胸に巣くう空洞が、少しずつ充たされていく。










街は喧噪というほどの賑わいは見せない。それでも買い物に不自由することはなかった。物資は豊富だ。
三度、押しつけた荷物には特に苦情を言わずに引き受けた悟浄が、別の不満を口にした。

「三蔵の奴さ〜、オレがよっぽど嫌いなのな。なら連れてくるなってんだよな」
「なんのことです?」
八戒は買い出しのメモを改めながら、分かり切った疑問に答えてやる。

「だってよ〜、触るなってオレだけに言うぜ?」
「三蔵は接触嫌悪症ですからね」
あとは三蔵に頼まれたタバコだけだと確認して、八戒は四方を見渡した。
「タバコ屋は・・・」
「あっち」
いち早く確認していたのだろう、悟浄が先に立って歩き出す。

「けどよ。接触嫌悪って、オレ限定じゃねーか」
よほど気に入らないのか、悟浄は話題を終わらせない。八戒は心のうちで吹き出しながら、それでもきちんと悟浄に付き合った。

「別に悟浄だけってわけじゃないでしょう」
「だって、オレだけじゃねーか、触んなとか、人を病原菌みてーによ・・・」

まぁ、病原菌には変わりないでしょうけどね、と八戒は笑い、悟浄は盛大に顔を顰めた。口から文句が出る前に、ことばを続ける。

「三蔵の接触嫌悪は昔からでしょう?」
そう、記憶にもないほどの昔から。
「僕は知ってますから、三蔵には触らないようにしてますから。悟浄は知ってるくせに、果敢にチャレンジする、その精神には敬服しますよ」
「そーなのか」

悟浄はやけに感心した声を出し、そして首を傾げる。
「でもよ、あのバカ猿には・・・」
「悟空は別でしょう」
「は?」
「ああ、タバコ屋だ。悟浄も買いだめしなくていいんですか?」
すでに夕方だ。陽は朱に染まり、西に傾いている。












法衣はどこかへ行ってしまった。

身体中を悟空の熱が支配している。いつの間にこれほど大きくなったのかと、いつも驚く掌が肌をさすり、唇が彷徨う。

指先が一点を求めて、奥に差し入れられる。

「く・・・」

不本意な呻きが漏れる唇を、三蔵は血が出るほど噛みしめる。

「血が・・・出るよ」

掠める吐息が、心配そうに唇をこじ開ける。そのまま熱い舌が侵入してきて口腔で暴れる。

まったく、ガキそのものだ。

身体の二つの場所を、そのガキに欲しいまま蹂躙されているのは紛れもなくオレだと、知っている。
それが不本意でないのが、一番気に入らない。

「てめ、こ・・・の、バカ猿!」

「いい?」

「殺す」

下から指が抜かれた。

拾ったときはただのガキだったのに、知らぬ間に成長した一人前のものが、指を失した隙間に入り込んで来る。

「あ・・・」

呻きはどちらのものとも判別はつかない。いずれ同じであろうから、どちらでも構わない。

「く・・・」

隙間が充たされる。空洞が充たされる・・・身体だけのことではない、遠い記憶、暖かく愛しい、失われた記憶。

それを得て初めて、オレは退屈を捨てた。世界を愛しく思えた。

手に負えない、どうしようもなく愚かな、愛しくて堪らぬ・・・。

悟空が腰を蠢かすと、思考は霧消した。

自分よりもまだ小さな身体を抱く。抱かれながら、抱き返す。

暖かい、それは光だ。

呼ぶ声が煩くて殴ってやろうと思っていたのに・・・連れ出してしまった。

お師匠さま。

私を呼んだ声は、紛れもなくこの・・・。



「あああ・・・っっ!!」

























「ドアくらい閉めるとか・・・」
八戒が頭を抱えた。

無理もない。寂れた街とはいえ、ここは上の部類に入る宿屋なのだ。明るい朱の光に照らし出された光景は、とても人様に堂々とお見せできるものではなかった。
そのツレだと思われるのかと、悟浄でさえうんざりするほどだ。

「ひと思いにやっちまうか」
買ったばかりのタバコを銜えると、珍しくも八戒が火をつけてくれた。
「ま、今更ですからどうでもいいんですけど」
視線は床に置かれた荷物に注がれている。
「お客さん、夕食できましたよ」
宿の従業員が知らせをくれた。買い出しの荷物と一緒に廊下に座り込むオレたちは、さぞさぞ奇異に見えたことだろう。

「あ、ありがとうございます。食堂ですね、すぐ行きますから」
八戒は速攻で立ち直って笑顔を向けた。せめて女の従業員なら、どれだけ不細工でもオレだって笑顔を作る自信はある。が、禿頭の親父相手に笑って見せて何になるんだ。
「悟浄、行きましょう」
慌てる暇もない。八戒は半開きの扉を盛大に開け放って、荷物を部屋に押し込んだ。
そして、感情の起伏のない声を、ベットの二人に投げる。

「三蔵、悟空。食事ができたそうですよ」
まさにその二人は、絡み合って真っ最中、最高潮だった。
「僕たちは先に行きますから」

八戒が音も荒く締めた扉の向こうで、一際高い三蔵の喘ぎが聞こえた。
「悟空が来るまではゆっくり食べられますよ。美味しいといいですね」

能面と化した八戒に頷いて、悟浄は奴の背について食堂へ歩いた。





「おいっ・・・メシだ・・・って・・・あ」

「う・・・」

「こら、猿!」

「な、に?」

「メシ、でき・・・た・・・って・・・んっ!!」

「三蔵・・・あ、あ、くっ!」

「う・・・」



悟空はパタリと三蔵の胸に落ちた。三蔵の体内と体外に、白い液体が断続的に吹き出す。
痙攣する身体は、まるで思い通りにならない。
しばし、時間と空間を、二人分の荒い息づかいだけが支配した。
するりと身体の間に、悟空の指が滑り込み、吐き出された液体を絡め取った。
「なんだ?」

再び、三蔵は聞く。
悟空は指先に絡め取った、三蔵の精をじっと見つめていた。

「なんだ?」

それを、ペロリと口に含み、舌で味わう。

「・・・の味がする」

いつか見た、今も見る、金色の・・・。





fin




熱い小説ありがとうございます!(〃∇〃) ///
93は基本なので書いていただけて嬉しかったです〜///
三蔵は悟空のコトを本当に大事にしているので(ああ見えても(笑))
自分で相手を食ってしまうことはなくて、食わせるために贄を差し出すことは
してしまうです/////交わりというより、食事に近いんですよね、93て…
また是非三ちゃん受けを宜しくお願いいたしますv

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