アデス×クルーゼ
小説
 吉野さま

『そんな、ある日の物語〜森の贈り物〜』





ある朝、目が覚めるとアデスはまたしても、くまさんになっていました。

それだけならアデスは慌てなかったでしょう(いや、慌てて下さい)。

ですが、自分の部屋のベッドで眠っていたはずが綺麗な森の中で目が覚めたのですからアデスは驚きました。

しかも、この腕に抱いていたはずの愛おしい恋人・クルーゼ隊長の姿もありません。

これは一大事です。むしろ、こちらの方が大事です。

前にも一度、アデスはくまさんになったことがありましたが、その時はクルーゼ隊長はちゃんといたのです。

アデスは自分の手を見つめながらとても不安になりました。

ふわふわの毛並みは太陽の光に照らされ、輝きを増しましたがアデスの心は暗く沈んでいました。

クルーゼ隊長が居ないのですから当然です。

今回は喋ることも表情をかたどることも可能ですが、それもクルーゼ隊長が居なければアデスにとっては意味のないことでした。

アデスの胸はギュッと痛みました。

「隊長…っ」

アデスが思わず、といった風にそう呟いたその時、アデスの背後でガサッという物音と人の気配がしました。

アデスは「隊長!?」と叫びながら勢い良く振り向きました。

そして、その人と目が合ったのです。

アデスはクルーゼ隊長だ、と思いました。ですが、その人はどこかクルーゼ隊長とは違っていました。

柔らかそうな金の髪。驚きで見開かれた、強い真っ直ぐな瞳。
誘うような赤い唇。細くスタイルの良い身体。

外見は誰がどう見てもクルーゼ隊長のものでした。ですが、何かが違うのです。

何が違うのだろうとアデスが考え始めた頃、その人はアデスに背を向け、逃げるように走っていってしまいました。

「あ…っ」

アデスは無意識に片手を伸ばしました。そして、ふと、その人が落としていった仮面に気が付きました。

いつもクルーゼ隊長がつけている仮面とは違い、顔の表面全体を覆う仮面でしたがアデスはそれを拾い上げ、その人の後を追いました。

アデスは走りました。

走ってはいるのですが効果音はトコトコ トッコトッコト  
トコトコ トッコトッコト です。

何故なら今、アデスは森のくまさん仕様だからです。

そうして呑気に走る内にアデスはその人が来ていた白いマントがなびくのを見つけて声をかけました。

「待って下さい!あの、落とし物を…っ。白いプラスチックの大量生産型仮面…」

「人の持ち物を安物呼ばわりするなっ」

その人はちょっと怒りながら振り向きました。アデスはその様をやっぱり綺麗だな、などと思いながら見ていました。

「いえ、そういうわけでは…」

「それ以上、近寄るなっ」

一歩、踏み出しかけたアデスをその人の怒鳴り声が止めました。

また、その言葉にアデスはとても悲しくなって、表情を曇らせました。

「いや…すまない。お前が悪いわけではないのだが…会わなかったことにしたいんだ」

「そんな…っ」

アデスは一層悲しい顔をしました。クルーゼ隊長の顔で、クルーゼ隊長の声で、聞きたくはない言葉でした。

「そんな顔をするな。会ったばかりだというのに」

どうやら、この人はアデスとは初対面だと思っているようです。ですが、アデスはそうは思えません。

アデスの胸はまたキュウッと痛みました。

「何故…ですか?何故、会わなかったことにしたいなどと…」

「…この森では皆、仮面をつけて生きている。素顔を他人に見られた者はその相手を殺すか…愛するしかないのだ」

「………どこかで聞いたような気がしますが」

「それは理解が早くて何よりだ。さぁ、死にたくなかったら立ち去れ」

そう言って、その人は再びアデスに背を向けました。
アデスにはその背中が切なくて悲しくて仕方ありませんでした。

アデスは走っていって、その人を背後から抱きしめました。

「な、何を…っ死にたいのか!?」

「殺したいのですか?」

「お前…っっ」

「違うのでしょう?殺したくないから会わなかったことにしようとして下さった。殺せないから」

「……」

「ならば、どうか愛していただきたい。私は愛していますよ、貴方を」

「だが…お前は…私は…っ」

そう。そろそろ忘れかけていましたがアデスはくまさんの姿なのです。

くまさんと男の愛物語などどのように展開していけばよいか、その人には分かりませんでした。

それでも、アデスはその人の正面に立ってにっこりと笑いかけました。

「貴方は貴方だ。私は私です。それ以外、何者でもない。違いますか?」

アデスがそう言うと、その人は驚いた顔を見せましたが暫くするとゆっくりと微笑みました。

アデスは見惚れました。クルーゼ隊長がこんなにも穏やかに笑うところをアデスは見たことがありませんでした。

そして、その人は何か言っていましたが、何故かアデスには聞こえませんでした。

「?何ですか?すいませんが、もう一度…」

『いい加減、目を覚ませ、アデス』

その声はその人の口からではなく、アデスのもっと近くから聞こえました。まるで自分の中から聞こえるように。

そして、この世界の一切を一瞬で奪っていきました。

アデスは気付きました。ああ、夢だったのかと。

本当にアデスが目覚めるとそこはやはり自分の部屋のベッドで、既に身支度を整えたクルーゼ隊長が自分を見下ろしていました。

「隊長…」

「随分、幸せそうな顔で眠っていたな。この私が起こすのを躊躇うくらい」

クルーゼ隊長は自嘲気味に笑ってから、ベッドに手をついて身を屈めてアデスに軽く口づけました。

その後、呆然とした顔で自分を見つめるアデスをクルーゼ隊長は不思議そうに見返して、訊ねました。

「どうした?アデス」

そう問われた直後、アデスはクルーゼ隊長を自分の胸に抱き寄せて強く強く抱きしめました。

クルーゼ隊長は抵抗しませんでしたが、その力強さに若干、眉をひそめました。

「アデス…痛いんだが…」

「すいません…ですが、今は離したくない…」

「…どうした?怖い夢でも見てたわけではないのだろう?」

「…貴方が笑っておられた」

「それが怖いと?失礼な奴だな」

「…見たこともないような穏やかな顔でした。幸せそうな…」

アデスは現実にはその顔を見ることがないと悲しみました。ですが、クルーゼ隊長はその顔に心当たりがありました。

アデスの幸せそうな寝顔を見る自分の顔は多分、そのようだったと考えました。

そんなことは知らないアデスはただただクルーゼ隊長を抱きしめ続けました。

「アデス、私の幸せはお前がくれる。お前だけだ。表情は分かりづらいだろうが…お前だけは、それだけは分かってくれ」

「隊長…っっ」

そうして二人は深い口づけを交わしました。長いキスは二人の立場と集合時間を忘れさせました。

いい加減、慣れてきたクルー達はトップ二人が不在でもちゃんと仕事を始めます。

こうして、クルー達は素晴らしい成長を遂げたのです。めでたし、めでたし(…何か違う…)。










うあああ(≧□≦)///可愛いお話をまたまたありがとうございます///
森のくまさんシリーズ第二弾です〜//vvv
最近色々ありましたけど、読ませていただいて、思わず頬が緩みまくりました///
隊長の笑顔…隊長が救われる唯一の方法は、この世界を愛する理由を
見つけることだけですから…
隊長の笑顔で暖まりましょう(∋_∈)///

ちなみに先日の最遊記のイベントで、関さんが『森のくまさん』を朗読されて
衝撃的に素晴らしくて感動しまくったのですが
森のくまさん…でアデスを思い出していたら
吉野さんも同じ会場でアデスを思い出していたんですね(〃∇〃)
森のくまさん…最高でした

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