お前が死んでも何も変わらない。
自分を救えるのは自分だけだ。
あの方が亡くなって、俺の中で全てが変わった。
変わったというより、たぶん終わったのだろう。
経文の行方を探したり、養い子を手元で育てたりしていても。
時々それが、酷く遠くの世界の出来事に思えた。
還るべき場所を知らないまま、ただ闇雲に歩き続けた。
そうしなければ、立ち止まれば、倒れてしまうから。
けれどもし、倒れてそのままになったとしても。
俺が死んでも何も変わらないのなら、そうすることのどこがいけない?
救われたくなんかなかった。
そうではなく、むしろ救いたかった。
いや。
もしかしたら俺は、あの方を救うことで、死なせないことで自分が救われたかったのか。
あの方を救うフリをして、俺自身を救いたかったのか。
分からない。ただ。
他人(ひと)は誰も、他者(ひと)を救えない。
だからやっぱり、自分を救えるのは自分だけだ。
そいつが救われたがっているかどうかは、また別の話だが。
深く眠っていたのを、叩き起こされたような気分がした。
鮮やかな色彩と深い業に眩暈がして、吐き気すら覚えた。
自分に構うなといいながら、借りは返すものだといいながら。
突っぱね、互いに受け入れることをせず、それでも離れることもしないまま。
気づけば、いつの間にか其処に在って。
もしかしたら人間は。
自分を救うことで、他者(ひと)をも救うことが出来るのか。
支え合うことも、誰かの荷を分かち合うこともしない。
こうべを巡らせる方角は同じでも、足取りはそれぞれのままで。
遅れた奴を待つこともせず、それでも。
お前が生きて、変わるものもある。
俺たちは変わったか?
俺は変わったか…?