アデス×クルーゼ
小説  灯呂 様

禁止









「しばらくキスは禁止だ、アデス」

突如発令されたキス禁止令、それは=セックス禁止令ともなってしまった。

「・・・何故ですか」

「艦内の雰囲気を乱すわけにはいかん」

「はぁ?」

何を今更・・・アデスは目頭を指で押さえ、床に顔を向けた。

「我々のことが艦内の人間に知られてはいけない、そう言っている」

「誰も気付くわけがないでしょう、任務の時に1回するかしないかなのに」

そう、だがそれはあくまでもセックスの話で・・・。

「キスは?一回の任務に何度している、数えてみろ」

・・・数え切れない、キスの場合は隙あらば幾度となくしているからだ。

「答えられんだろう?とにかく、何と言われようとキスもセックスも禁止だ」

「ですが・・・!」

「隊長命令だ、聞けんというなら艦を降りろ」

せめてキスくらい・・・そう言いたかったアデスから見事に言葉を奪った一言。

それを出されると、返す言葉がなくなることくらい誰でも判る。

「いつまでですか・・・」

「私がその気になるまで・・・かな」

その言葉を聞き、アデスの顔には喜びの色が浮かんだ。

何だかんだ言っても愛し合っている者同士、相手をその気にさせることなど簡単だ。

アデスはクルーゼの言葉を聞くと、早速クルーゼに迫り彼の目の前まで来て考える。

・・・ここからどうすればいい。

キスさえ出来れば彼を翻弄させることなど容易い、だが今はキスが出来ない状況にあるのだ。

「キスができなければ、私をその気にさせるなど到底無理だと・・・判っているだろう?」

クルーゼはそれを判っていて、あぁ言ったのだった。

「・・・浮気しますよ、欲求不満で」

苦し紛れに出た彼の台詞を聞き、クルーゼはドアに向っていた足を止め振り向き様にこう言った。


できるものならやってみろ







クルーゼと肉体的な接触を断って約一週間となる。

欲求不満は募る一方だというのに、彼と身体を重ねることは未だ許されていない。

「はぁ〜・・・・」

彼は私がいなくても大丈夫なのだろうか、私のような想いはしないのだろうか。

そう考えると何処か切ない気持ちになり、それとは反対に怒りも見えてきた。

「怒っても仕方のないことだとは思うが・・・怒らずにはいられん・・・」

それは彼が何とも理不尽な物言いだったからだ。

突然キス禁止だのセックス禁止だの言われて誰が納得するというのか。

怒りと欲求不満がMAXに達しているアデスの耳に、ふと愛しいクルーゼの声が届いた。

アデスはその声に誘われるようにふらりと足を進める。

だが、その先に見たものは・・・。

「・・・バルトフェルド隊長と・・・クルーゼ隊長?」

何とも珍しい光景だと思った。

アンディのクルーゼ嫌いは、ザフト兵なら誰でも知っていると言っても過言ではない
ほど有名だったからだ。

手に書類を持っているわけでもない、ということは仕事の話ではないということ。

別に隠れることはないだろうに、アデスは反射的に廊下の角に隠れてしまった。

彼らの声に耳を傾け、身体が見えぬよう顔だけを出して二人の様子を窺う。

だがこの距離に加え、己の鼓動が煩くてよく聞こえない。

辛うじて判るのはアンディの表情だけで、肝心のクルーゼの様子は背中しか見えず何も判らない。

そうしているうちに目にしたのは、クルーゼの顎に手をかけ、
自分の方へ導いているアンディの姿だった。

「な・・・ッ!!」

クルーゼに抵抗の様子はない。

プツン・・・と、アデスの中で何かが切れる音が聞こえた。




「クルーゼ隊長」

アデスは見た目は平静を装ってはいるが、内心は腑が煮え繰り返っていることだろう。

「?あぁ、アデス。何のよ・・ぅ・・・!?」

クルーゼの言葉が終わらないうちに、アデスはクルーゼの手を引きこちらへ来るよう促した。

「アデス!?」

「失礼します、バルトフェルド隊長」

勝手にアンディへ挨拶を済ませ、アデスはクルーゼをさっさと近くの部屋まで引っ張っていく。

「おい!アデス!!」

皮肉にもクルーゼの声はアデスには届かず、一人取り残されるアンディがそこにいた。

「・・・僕の存在は・・・どうなるんだ?」







「どういうつもりだ、アデス」

いつになく不機嫌なクルーゼを目の前にしても、
アデスはふてくされた態度を変えようとはしない。

「人が話をしているというのに、勝手にこんなところに・・・」

言葉を続けようとアデスの顔を見た時、いつもの彼とは明らかに違うことが見て取れた。

そこでクルーゼはようやくアデスの様子がおかしいことに気が付く。

「・・・アデス?」

「・・・どういうつもり?それはこっちの台詞です」

「何?」

「人にキス禁止だの何だの言っておきながら、貴方は他人とキスして!この一週間私がどれほど・・・!」

アデスがクルーゼに対して声を荒げるなど、滅多にないことだった。

というより、今までに一度もないことで、不謹慎にもクルーゼは珍しいことだと感心していた。

いや、そんなことを考えている場合ではないと、クルーゼはハッと我に返る。

「・・・キス?私がか?誰と?」

この御に及んでまだ惚ける気かと、アデスが更に声を荒げてクルーゼに問いただした。

「惚けても無駄です!!たった今!バルトフェルド隊長としていたじゃないですか!」

無理矢理されたのならまだしも、アンディの方から誘い、そしてクルーゼは抵抗しなかった。

そのことに対してアデスは怒っているのだ。

「今?アンディと?・・・クッ・・はははは!」

怒るアデスに対し、クルーゼは突然腹を抱えて笑い始めた。

その様子にアデスは呆気に取られ、呆然とクルーゼを見つめている。

「た、隊長!私は真面目に・・・!」

「はは・・・は!だから余計に可笑しいんだよ、アデス。はは・・・ッ」

それでもまだクルーゼは笑い続ける、終いには目に涙まで浮かべるほどにだ。

「私が、はは・・・ッ、アンディとキス?するわけがないだろう、
あんなヤツと・・・ははは・・・ッ」

「どういうことです?今してたじゃないですか」

クルーゼはようやく笑い終えたのか、少し咳き込み言葉を返す。

「まぁ待て、順に説明する。さっき私とアンディがいたのはどこだ?」

どこ・・・?そんなの考えていなかった、というより覚えていない。

「医務局だよ、私があそこに行くとアンディが居てな。私が出ると同時にあいつも出た」

それが何だというのか、アデスは早く確信を説明して欲しい気持ちでいっぱいだった。

だが、よくよく考えてもみればクルーゼは至って健康なはずだ。

なのに何故医務局なんかに・・・?

「どこか、お悪いのですか?」

「どこか・・・というか、口が少し、な」

口・・・?ますます訳が判らなくなってきたアデスに、クルーゼは僅かに微笑んで説明を続ける。

「アンディにもそう伝えると、あいつは嫌味か私の顔を自分の方に寄せて口を見よう
とした」

・・・私の顔を自分の方に寄せて、ということは・・・。

アデスは何かに気付いた顔をしてクルーゼの目を見る。

「判ったようだな、あれのことを勘違いしているんだろう?全く・・・」

「じゃあ、あれはキスをしていたのではなくて・・・」

「あぁ、ただのアンディの嫌味だ」

はっきりとしたことを聞かされ、アデスは自分が恥ずかしい気持ちになった。

その気持ちと同様にうつむかずにはいられないアデス。

「申し訳ありません・・・勝手な勘違いで・・・」

「いや、構わんさ。面白いお前が見れたからな、それで良しとしてやる」

はぁ・・・ともう溜め息しか出ない。

そこでふとアデスの頭に疑問が浮かぶ。

「あの、隊長・・・口が、どう悪いんですか?」

おずおずとした態度で聞いてくるアデスが、妙に面白くて。

だが、クルーゼの次の態度もいつもとは違い、うつむき気味で答える。

「・・・荒れているんだ」

「は?この季節にですか?」

返って来た答えは何とも時期外れなものだった。

言われてみればいつもより唇が赤く腫れていた。

だが真冬でもないというのに、唇が荒れるというのは・・・何故なのか。

「言っておくが、これはお前のせいだぞ、アデス」

「私の?」

「お前が・・・私を見る度にキスするから・・・」

恥ずかしそうに言うクルーゼが、アデスには何とも愛しく見えた。

「じゃあ、キスを禁止にしたのは・・・」

「唇が痛いからだ・・・」

微妙に声が強く聞こえるのは、これ以上言わせるなという意思の現れだった。

「じゃあセックスを禁止にしたのは?」

するとクルーゼは、まだ言わせる気かという目でアデスを睨んだあと、律儀にもきちんと答える。

「お前は必ずキスするだろうが、挿れる直前に・・・それも強く」

そう言うクルーゼの顔は真っ赤で、それは仮面の上からでも判るほどだった。

自分のクセをよく理解してくれているクルーゼが、本当に本当に愛しくて。

そんなクルーゼを見て、アデスは想い人を強く強く抱き締めた。

「隊長・・・無理は承知なんですが・・・」

「ダメだ、絶対に」

まだ何も言っていないのに・・・と項垂れるが、アデスは負けずに耳元で低く囁いた。


抱かせて下さい

クルーゼの身体を興奮が駆け抜け、びくっと僅かに震えたのをアデスは見逃さなかった。

「その気になったら、解禁なんでしょう?隊長」

クルーゼは悔しそうにアデスを見上げると、何とも幸せそうな恋人の顔がそこにあった。

こんな顔をされては・・・断れない。

そんな言い訳がましいことを考え、クルーゼは力を抜きアデスに身体を任せた。







おまけ・・・その後のクルーゼ隊長とアデス艦長

「・・・私の口が治るまで、絶対にキスもセックスも禁止だ」

「えぇ!?解禁って言ったじゃないですか!」

「煩い、禁止と言ったら禁止だ。折角治りかけていたのに・・・」

頭に怒りのマークを浮かべて呟くクルーゼと、再び我慢の日々に嘆くアデスがいた。





あああ(≧∇≦)!甘いです〜///隊長の唇のよーに甘い小説をありがとうございます!
じっと我慢のアデスがポチっぽくて!(笑)やはりポチにはオアズケも大切なのです(*^∇^*)
我がままぶりが女王様なのにめちゃめちゃ可愛い隊長で、メロメロになりました〜///
我慢だアデスよ(^∇^)! 
アンディは勿論その気だったので、ウカツなのか天然なのか、
それとも確信犯なのか、どれをとっても可愛い隊長なのでしたv

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