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あの未曾有の戦い、第2次ヤキン・デゥ−エ攻防戦から2年・・・
自分だけが生き残ってしまった・・・・・
本当ならば、父上を、最高評議会議長としての責任を取らせるために自分が刺し違えても、止めさせつるりだった・・・
だが、部下に上官殺しをさせてしまった・・・・
父上の妄想の産物、人類全てを滅ぼす凶器、ジェネシス・・・・・
内部で父上の罪を償うつもりで自爆して、全てを葬り去るつもりだった・・・・
だが自爆すら出来なかった・・・・
一人の少女の言葉に・・・
私は・・・あれから後悔ばかりしている・・・
母上、父上、そして・・・クルーゼ先生、いや、自分がザフトに入隊して、最初に配属されたのがクルーゼ隊長の部隊だった・・・・隊長、クルーゼ隊長・・・・
誰も屋敷にはいない。
今更戻ったところで執事以外残っている者も無く・・・・
幸いに執事の機転でザラ邸は戦前のまま残っているという・・・・・
戦犯として国家に没収されたか、市民に略奪されたか、と思っていたが・・・・・・・
亡命して生き恥をさらしている身には、まだ直接屋敷に連絡も帰りも出来ない身ではあるけれど・・・・
この処遇には、停戦協定を結んだ臨時議長のアイリン・カナ−バと現在のギルバート・デュランダル議長には感謝している・・・
今自分は生き残り、なぜあのような戦いになってしまったか、戦いの発端から、人類の罪の話まで、隊長のやった事、メンデルでの出会いと告白した事まで、キラから聞いた・・・
やはり、原因は父親のパトリック・ザラの狂気とそれに手を貸したラウ・ル・クルーゼの人類滅亡への夢だ・・・・・と。
それでも、自分は納得出来ないでいる・・・・父親の許せない所業は判る・・・・・
父親の元で命を捧げた隊長が・・キラの言う人類滅亡を画策した元凶なのか・・・?
不幸な因縁の結果、復讐への妄執の果ての結果なのだと説明されても・・・
クルーゼ隊長を嫌いにはなれない・・・・自分の初めての人・・・・
もっと、教えを請いたかった。いろいろな事を一緒にしてみたかった。
そして、全ては、時間が足りなかったのだ・・・
父上、貴方の手から奪ってみたかった・・・・彼を・・・・ラウ・ル・クルーゼ隊長を・・
父上、貴方を追い越せなかった・・・・彼をもっと早く自分のものにしたかった・・・・
誰にも言えない、私だけの甘い切ない辛い、悲しい思い出・・・・
しかしとても甘い秘密の出来事・・・・・
もしかして、今も・・・・・
ディセンベル市の屋敷に帰れば薔薇が咲き誇り、そこに柔らかそうな長髪を風になぶらせている、金の髪を持つ青い瞳の美貌の青年が、誰かを待っているのではないかと、時折・・・・白昼夢を見る・・・・
幸せだったあの頃・・・戻れるものならば・・・・もう、取り戻せない・・・思い出の日々・・・
ラウ・ル・クルーゼ隊長、貴方を忘れない・・・今でも慕わしい人・・・・・・・
何も知らない少年期から、青年期にかけて導いてくれた貴方を、誰が何を評価しようと、どんな事を言おうとも・・・・
――私はあなたを忘れない・・・・
今、現在、「ミネルバ」という、プラントの威信をかけた新造艦に懐かしいザフトレッドを着た少年がいる。
彼が気になる。
クルーゼ隊長と同じ髪の色。同じように長髪で顔を隠しがちのこの少年の声が、そっくりなのだ・・・
隊長の声に・・・・
雰囲気も、柔らかい物腰のわりに毅然とした態度で接してくれている・・・礼儀正しいところも・・・・
だが、隊長は天涯孤独と聞いていた・・・
まったく血の繋がりは無いと考えられるが・・・・
面差しが似ているのだ。
髪の色も声も・・・・そして、ほとんどの者が知らない隊長の瞳の色・・・似ているのだ・・・・
ザラ邸では、スクリーングラスをしていないことがあり、知っていた・・・青い綺麗な宝石だったことを・・・
初めて顔を合わし、声を聞いた時は、思わず立ち竦み、息を呑んでしまった・・・・
それ以来、胸がざわついて仕方が無い・・・・
もう、クルーゼ隊長は封印したのだ・・・・・
ただ・・・
隊長に良く似たレイ・ザ・バレルという少年。
似ているのはそこまでにして欲しい・・・後は、隊長と違う人生を歩んで行って欲しいと思ってしまう・・・・
この戦いが済んだら、ザフトを辞め民間人として幸せを掴んで欲しいと思うだけだ・・・
――そうですよね?クルーゼ隊長?・・・・・
私が貴方の元に逝くまで待っていて下さい・・・
慕わしいラウ・ル・クルーゼ隊長・・・・
今、私がここに生きているのも貴方のお陰と言っても過言ではありません・・・・
私にとって、貴方は、上官であり、師であり、兄であり、恋しい人でした・・・
――ワタシハアナタヲワスレナイ・・・・イトシイヒト・・・・・・
了