『終焉に捧げる星』シリーズ

アデス×クルーゼ
小説 紫水様

『隊長、本国召還にアデス艦長は・・・・?!』








C.E.71

ザフト軍が悲劇的な結末を迎えた5月8日の「オペレーション・スピットブレイク」の後、汚名挽回もあり、当初評議会で承認されていたパナマ基地を攻略。5月25日、マスドライバー「ポルタ・パナマ」を、グングニールを使用し破壊に成功した。

しかし、アラスカ戦によって多大な犠牲を払わされたザフトは、このパナマ戦のために、アフリカ戦線を縮小してまでして、ジブラルタルから兵力を大量導入をした。

しかし、地球連合首脳会議により「ビクトリア奪回作戦」が決議され、6月18日連合軍ザフト占領下のビクトリア基地に侵攻。
アラスカ以降弱体化していたザフト地上軍は、ビクトリア宇宙港を死守出来ず陥落。
連合は「ビクトリア」を、「ポルタ・パナマ」の代わりに主力宇宙港にする。

結局、このアラスカ、パナマ、ビクトリア、それぞれの戦いを見る限り、「両者の戦力の潰し合い」でしかなかった。両者が壊滅的に被害を被り、戦力を使い果たし、休戦になれば、地球上で少しは戦いの地がなくなったと思えるのだが・・・・微妙に交戦出来るだけの戦力は双方共に残されていた。

何者かの意志が働いたのか?否か?

双方に向けての憎悪が増しただけの結果に終った、と思えるのだが・・・

連合、ザフト、共に宇宙港を確保、維持出来た結果、ザフト地上軍内では、連合が宇宙に出撃、プラントへの直接攻撃に出ることを懸念し、プラント本国への打診を行った。


プラント評議会はビクトリア陥落に伴い、ザフト地上軍からの懸念を考慮し、宇宙戦力強化を打ち出した。

6月26日、それに伴い、先ず、クルーゼ隊に本国召還命令が出された。



           ***************



C.E.71. 6.27

プラント本国へからの召還命令に従い、ラウ・ル・クルーゼは部下を伴ない、シャトルでカーペンタリア基地を出発、ドッキングベイに到着した。
隊長に従って来たクルーゼ隊のメカニック達は、暫くの休暇を与えられ解散した。

新に組織されたパイロット達は、赤服生き残りのイザークをリーダーとして、先に母艦であるヴェサリウスに搭乗することになった。
隊長が、本国に報告に向かう前に母艦に寄る事にしていたからである。

ドッキングベイには艦長のアデスがじきじきに出迎えていて、イザークは驚いた顔をしていたが、前もって知っていたのか隊長はご苦労の一言で迎えのシャトルに乗り込んでいった。

アデスは隊長の後姿を見送り、その後に続く赤毛の女に眉を曇らせた。

後ろに控えていたイザークの腕を捕らえ横へ引き込んだ。

「イザーク、大変ご苦労だったな、隊長のそばにいてくれて感謝するよ。君だけでも戻ってくれて良かった・・・」
と声を掛けると、一瞬はにかんだような困った顔で、彼は申し訳ありませんでした、と答えた。

「あの後ろの女は?パイロットとして配属された者か?報告になかったと思うが・・・」

「隊長が、何処からかお連れになった女です。あのアラスカ作戦時に。ナチュラルの女で、捕虜扱いを、と再三申し上げて来たのですが・・・自分の傍から離されなくて、我々も困惑しております。
隊長からは以前『鍵』だと私に言われました。詳細は解かりかねます、アデス艦長にならお話になるかも知れません」

シャトルの外で会話していたが、出発のアナウンスに、何事もないような顔をして着席するため、シャトルに乗り込んだ。
アデスはそこで、隊長を探し、かたまった。
背後でイザークが苦々しく小声で吐き捨てた。
「アレです、いつもとなりにあの小娘がいるのです。」

「隊長をしっかり捕まえて下さらないと、ヴェサリウス内でみんなが動揺しますよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」

その言葉もさることながら、隊長の隣は自分以外にはないと思い込んでいた私には、この出来事が未だ納得できず、頭が混乱していた。
帰艦報告の連絡には捕虜の存在は一言もなかった。


どういうことだ!!


今も、説明がなかった。せめて一言あるはず、斜め後ろから私は隊長の姿を睨みつけてしまった。

地球からのシャトルが到着し、降りてこられるお姿を拝見して、久しぶりの隊長のお姿に、思わず目頭が熱くなり、平常心を取り戻すのに苦労したのだ。

誰もいなかったら抱き締めていただろう、それほどに愛しい大切な人なのに・・・・

ご無事とは知っていてもスピットブレイク失敗の、あの混乱の中、何も出来ぬ自分に苛つき、すぐにでもヴェサリウスで救出しに行きたかったほどなのだ。
艦長が救出隊に加われるはずもなく、彼からの報告の映像だけで気持ちを落ち着かせていたのだ。

それが、何故、私の席である筈の隣があの小娘なんだ!!

拳がぶるぶると震えていたがどうしようもなかった。それでなければ叫んでいたはずだ。

イザークはそれでも隊長の姿が見える斜め後ろの席を取り、私もその隣に座った。

態度も荒々しく座ると、イザークが、ふと言葉を漏らした

「艦長、妬けますね?」

「!!!」

息を詰まらせた。図星の言葉に声も出なかった。
こんな若造に見破られるとは・・・睨みつけて黙らせる。
前を向きなおすと、通路を挟み斜め前から隊長が振り向いた。

「!!!」
真っ赤になったが、怒りは未だ収まらず、困惑の混乱の中にいる私は奥歯をかみ締めた。
口を開けば何を隊長に言うか解からなかったからだ。

隊長はそんな私に向かってふと微笑むと、いつものように白い手袋をした手を伸ばし、憤りで震えている私の拳をなだめるようにポンポンポンと叩いた。
「!!!」
多分その時私の目と隊長の隠されている目があったと勝手に解釈して、暫くお互いが見詰め合った後、私は感謝の気持ちで深々と頭を下げた。

そして、自分の気持ちを持て余すばかりで、周囲のことを失念していたことを思い出した。
隊長が私の存在を認めてくれたこの行動だけで、私はこの時、艦長としての責務を放棄しかかっていた事に気付き恥じ入った。

「さすが・・・」
と、隣の部下の言葉に向き直り、低くした声で釘を刺した。
「あまり事が大きくなりそうなら私に報告してくれ、くれぐれも煽るんじゃないぞ。多分、隊長も何か意図しての事だろうから・・・」
「了解しました。艦長・・・」
と、にっと笑ったイザークに一部始終見られていたことに又赤面したが、
「後で、地球でのことをしっかり聞くぞ」
と念を押した。

しかし、たったあの手を叩かれた事だけでこんなにも落ち着けるとは、我ながら・・・・と軍事ドックに到着するまで心の中は、仕事の事を考えねばという意識が隊長の事を考える意識と格闘していた。


           ***************



クルーゼ隊の旗艦であるヴェサリウスでは、久しぶりの隊長の帰還に涌いていた。

館内放送で、隊長が帰還報告の挨拶をし、今後又クルーゼ隊の旗艦として活躍することを望む旨をクルーに伝え、通常業務に艦内は戻った。
少しの興奮と、驚愕と疑惑の熱が未だ冷めずに艦内が不穏な様子に、アデスは溜め息を付いた。
通常の見回りのほかにも、こまめに艦内を見て回った方が良さそうだなあ、と思いながら通路を移動していた。

その気持ちを察してか、イザークが艦長室前の通路で待ち構えていた。
「早速何かあったかね?」
癇性気味のところがある、この青年というには少し線が細い、プラチナブロンドの母親似の美少年に声を掛ける。
隊長のことだとはすぐ判った。
「そう、ぴりぴりせず、暫く休め、私もいる、隊長は安全だから・・・少し、落ち着くんだ」

私の話を聞いていないのだろう、苛付いた声で訊ねて来た。
「あの女は何処の士官室に入れたのですか?」
「ウ〜ン、隊長の希望で隊長室に軟禁状態だ。」
「やっぱり・・・」
「前もそうだったのか?」
「ええ、鍵は隊長がロックしているので我々が手出しすることも出来ませんでしたが・・・」
「今回もだ・・・説明してくださらないからブリッジでも困惑している。」

「今は?」
「交代時間でお休みになっている、やっと安心して眠れるとおっしゃっていた。お辛かったのだろう、ずいぶんと、お痩せになっていらっしゃった・・・・」
「アデス艦長?詳しい報告を艦長室でさせていただいて宜しいでしょうか?」
「!!!」
「――い、いや・・・それは・・・」
「隊長が休んでいらっしゃるのでしょう?艦長のベッドで・・・・?」
「!!!」

言葉に詰まった私に代わって説明してくれたイザークの顔は悪戯っ子のような笑みで一杯だった。
この少年に少し笑みが戻ったことにホッとした。

「地球でも隊長室に・・・ご安心ください、隊長は艦長室をお使いでしたから・・・」
「えっ?ええぇ??・・・・」
「ああ――・・・・」
思わず顔を覆ってしまった。誰だ? 隊長を載せていた潜水母艦は・・・調べてやる〜と一瞬そんな考えが頭をよぎった。

「アデス艦長ではありませんから、艦長は我々士官室に移って来られました。士官の者が影響を受けましたが。狭い潜水母艦ではありましたが、艦長は紳士でした。」
「そ、そうか・・・」
ほっとして、顔から手を離す。

「!!!」

イザークに乗せられてとんでもないことを掴まれたとやっと気が付いた・・・
この少年に全部知られてしまったと、自分の不注意な言動を悔やんだ。
この子は苦手だ・・・

「アデス艦長、隊長を頼みます。」
「?」

いたずらっ子の表情はなくなり、真摯な態度に急に改まり驚かされる。なんと言った?・・・・今・・・

「クルーも含めて、私は、あんなナチュラルの得体の知れない小娘に、隊長が惑わされるのは我慢なりません、大切な隊長です、アデス艦長、隊長をしっかり捕まえていてください。」
「どういうことだ?」
うっかり間抜けな返事を返してしまった。

「だから、クルーは皆隊長を尊敬し、お慕いしております。あの小娘に隊長の気持ちが傾いて自分の女にして欲しくないってことです。
アデス艦長なら、皆文句はありません、隊長をお任せできます。
いくら艦長室のベッドでも二人は狭いとは思いますが、隊長が艦長を選ばれたのですから、宜しくお願いします。
愛して差し上げて下さい。
お二人が艦長室に居られましたら、我々も応援します。無粋な通信もご遠慮しますから・・・」

そこまで言うと意味ありげに笑った。

「イザーク!上官侮辱罪だぞ!」
「あはははは・・失礼しました!!」
と言い、すばやく床を蹴って逃げて行ってしまった。

顔を真っ赤にして、一人冷や汗をかいていた。軍帽を脱ぎ額の汗をぬぐうと、周囲に人影がないことにほっとする。しかし、誰かが聞き耳を立てていたかも知れない、どんな噂になるか――私は良い、隊長に知られたら・・

大きな溜め息をついてしまった。


            ***************


一通り艦内を見回った後、副長に艦を任せ自室に戻った。

ベッドに先程眠られたままの体勢でぐっすりと休まれている隊長の素顔を眺める。
隊長は先程何と言った?

「私は変わったか?」
意味が解からなかった。仮面をはずされたお顔は、降下される前と変わらず綺麗なままで、久しぶりのかんばせに息を呑んだほどなのに・・・
「お変わりはありませんよ、お美しいですよ。もう私は貴方と離れたくはない・・・」
と、きつくかき抱き囁くと、不意に嬉しそうに微笑まれた。
それが又痛々しく胸が締め付けられた。

私の腕の中で不安げに声を震わせ、今迄お聞きしたこともないお言葉を口にされた――
それほどまでに、地球は苦痛だったのか・・・?

少しやつれられたのは確かだった。
隊長への想い、隊長の私への想いを確かめたくて、全てを脱がせたとき、この手が覚えていた身体より、背中の筋肉が落ち、薄い胸板が更に薄くなったと感じた。
足も大腿部の肉も薄くなったようだった。

報告に本部に向かわれたら、休暇はもらえるのだろうか?
私も本国に随行して行こうと思う。あの捕虜の子供を連れて行かれるのなら尚更だ。

本部に引渡しをして来なければならない。捕虜に関する条約違反になりかねない。
机に向かってPCを立ち上げる、明日の指示を出して置き、更に捕虜の照会と引渡しの書類の作成に掛かった。

捕虜の名前を隊長にお聞きし、その子が、第8艦隊を撃破したさい、地球の外務次官も巻き添えにしてしまったことは、後で詳しい資料から知っていた、その問題の次官の愛娘だというのだ。
その子供だったのか・・・だが・・・・何故、何処で・・・・?
だったら尚更手元に置いておくことは危険極まりのない事で、いつ寝首を掻かれるかわかったものではない。
まだ、本人が、太平洋連邦事務次官ならば丁重に人質として扱ってもおかしくはない・・・・

何故、親も亡くした力もない小娘が『鍵』なのだ?
イザークではないが疑問が残る。

起きられたら、はっきりと説明していただかなくては、私の気が治まらない。



「くっ・・ううっ・・・」
と、苦しげなお声がした。はっと隊長を見る。
いつのまにかベッドにうつ伏せになり身体を曲げられて、身体を震わせながら何かを耐えていらしゃる様子が見えた。

「!!」
反射的に水のボトルを取りに走り、更には隊長の上着のポケットを探した。
多分アレだ・・・
ピルケースを探し当てた。

「隊長?大丈夫ですか?」
「くうっ・・・ううっ・・・」
「隊長!! アデスです、大丈夫です、誰も居りません、アデスです、隊長しっかりなさってください、薬をお持ちしました。」

上掛けの毛布をはだけ、身をちじこまらせていらっしゃる隊長を抱き起こし、薬の入った(多分、以前お持ちになっていた物と同じだからだ・・・)ピルケースを手の平に押し付けた。

「あ・アデス、アデス・・・うっうう・・・・」
震える手でそのケースを開け一粒カプセルを出された。すぐ、手に持っていた水のボトルの吸い口をくちびるにあてがった。
水と共に飲み下されたが、すぐに効き目は現れず、暫く私の身体にしがみついていらっしゃった。
細い肩を抱き締めた。
「大丈夫です。もう大丈夫です。私がここに居りますから・・安心してお眠りください・・・・」
静かにゆっくりと語りかけながら、背中を、腕を撫で続けた。

すっと力が抜けた。慌てて抱き寄せながら体勢を整え横たわらせた。痛みに失神されたか、眠りに落ちられたか・・・

あまりの痛ましさに、涙が零れそうになった。

思い出したのだ。
確かに私と初めて身体を重ねた原因がこの発作だった。口止めにこのお身体を私に与えられた・・・


やはり治ってはいなかったのだ・・・・こんな身体で戦場に向かわれるなど・・・地球に下りられたいたとは・・・自殺行為に他ならない・・・
――隊長・・・何故・・・こんな・・・こんなことを・・・何故?・・・・



ベッドのそばからそっと負担にならないように口付けをした。


「愛しています・・・クルーゼ隊長・・・貴方をもう一人にはしませんから・・・ゆっくり、今だけでもお休みください、私がお守りいたしますから・・私の大切な・・・・」





それは、誓約のことばのように、聴く者の官能を刺激するような、秘め事のことば――
          
         













うああ(〃∇〃) イザーク〜///
本編では、やはりフレイ様が隊長を独占しているのを睨みつけてた
イザークが印象に残ってるんですが、紫水さまにイザークとアデス艦長との
やりとりを小説化していただけて、とてもすっきりしました〜///
紫水さん曰く『プラントに帰還して、2週間しかこの二人には時間がなかったのです。
それまで、半年の地球とプラントとの別れにあまりにも悲しいと思いました。
そのたった2週間の間、ずっとフレイが隊長のそばにいたのですよ!!!
悲しい二人に何とか救いを、と思っていましたので。』
短い逢瀬…ほんとに救いが無いと、辛すぎるのです…。
小説のアデスの想いとイザークの想いがとても救いです。
またこのお話には素敵な続きもいただいていますvお楽しみに〜vvv




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