フラガ×クルーゼ

君の、僕の


小説 香月 海音様













ぱたぱたと、雨粒が窓を叩き始めた。ぱらつく程度だった雨はあっという間に本降りになり、ざあざあと窓の外の視界を埋め尽くす。
ムウは、視線を窓から玄関の方へと向ける。

「あいつ…傘、持っていかなかったよな?」

ラウが出かけたのは三十分ほど前のこと。買い物に行くと言っていたが、その頃は朝から空は厚い雲に覆われていたものの、雨が降る気配はまだなかった。

「……仕方ないな」

ムウは玄関の傘を引っ掴むと、部屋を後にした。



* * *



道に出ると、向こうから人影が近づいてくるのに気付いた。見慣れた人物――紛れもなくラウだった。
買い物袋を片方の手に。そしてもう片方の手には、一本の安っぽいビニール傘。

「――ムウ、どうしたんだ?」

ラウもこちらに気付いたようだ。

「いや、雨が降り出したから、お前迎えに行こうと思ってたんだけどさ。…どうしたんだ、その傘?」

二人で傘を並べて、来た道を辿る。雨はもう、小降りになっていた。

「買った」

単純明快な答え。ムウは思わず前につんのめるポーズをとる。

「いや、それは分かるけどさ……」

ラウの手から荷物を奪い取ると、ムウはさっさと家の扉を開けた。



玄関脇の傘立てには、既に傘が五本。そこに、二人は更にそれぞれ傘を突っ込む。

「もう、七本だぞ」
「何が?」
「傘」
「それがどうかしたか?」

ムウは買い物袋の野菜やら果物やらを冷蔵庫に片付けていく。
ラウはそれを横目に、ソファに腰を下ろす。

「必要なものを買って、何が悪い」
「悪くはないけどな。ただ、もう少しひとつひとつをだな…」
「雨が急に降り出しても、傘を買うなというのか? 私に、濡れて帰れというのか?」

ラウは薄く笑う。

「じゃなくてさ、んー……」

目の前のテーブルのコーヒーのカップを二つ並べて置くと、ムウもラウの隣に座った。

「そっか、プラントじゃ傘がなくて困るなんてこと、なかったんだよな」
「ん? あぁ、まぁな」

プラントでは、雨は決まった日、決まった時間に人工的に降らされ、大地を潤すという。にわか雨などないのだ。
生まれてから今までずっと地球に暮らしているムウには、便利で羨ましいと思う反面、やはり不自然さに違和感を感じずには
いられない。
尤も、ラウも幼い頃にはムウと同じように地球で育ったはずなのだが。

「確かにプラントでは傘が必要になる場面はほとんどなかったし、仮にそうなった時でも軍からの支給品として簡単に手に入っていた」
「ったく、さすが隊長クラスは違うよなー。生活必需品は全部支給かよ」

皮肉交じりにぼやいて、ムウはコーヒーを一口すする。

「ま、それはともかく、俺は欲しい時にひょいひょい傘を買っちゃうお前の軽薄さのことを言ってんの」
「何が軽薄だ」
「ひとつのものを大切にするって気持ちが足りないんだよ、お前には。そんなに何でもかんでも、簡単に代わりが手に入るわけじゃないんだからさ」
「そもそも私はお前の父親の『代わり』として産まれてきたわけだが?」
「あーっ、もう、話をすり替えんな!」

話が噛み合わずやきもきするムウを見て、ラウはくすくすと笑う。

「何、笑ってんだよ」

拗ねたような表情で、唇を尖らせるムウ。

「そのことにこだわってんなら言っとくけどな、お前は親父の代わりかもしれないけど、お前の代わりはいないんだよ」

カップをテーブルに戻すと、ムウはその両手でラウの肩を掴む。ラウはよく分からないような表情でムウを一瞥すると、すぐにその視線を手元のカップに落としてしまう。
ムウはラウの手からカップを奪うと、それもテーブルに載せる。そしてそのまま、ラウを抱きすくめた。ラウは微かに身じろいで抵抗する素振りを見せたが、すぐに大人しくムウの腕の中に収まった。

「――やっぱさ、もう、傘は買うなよ」

ラウの髪を撫でてやりながら呟くと、半分呆れたような視線がちらりとこちらに向けられた。

「……まだその話か」
「最初からその話しかしてないんだけど」
「どうでもいいだろう。私が傘を買うことで、お前が何か不利益を被るのか?」

ムウは少し考えて、きっぱりとこう口にした。

「お前を俺の傘に、入れてやれないだろ」



fin.








うわーーーあ(〃∇〃) vvv
甘いお話を〜vvv///ありがとうございますvvv
“傘をためこむ人”というテーマを、先日、海音さんから伺って
面白そう!と思っていましたら、こーんな素敵なフラクルのラブいお話に
仕上げて下さいました///
傘って誰でも持ってるもので、その傘一本の扱いで、
その人の性格が如実に現れてしまうっていう所って凄いのですvvv
隊長にもフラガにも、甘くて切なくてクラクラさせられまくりです///

←ガンダムSEED目次へ

←SHURAN目次へ