知ってるくせに。
分かってるくせに。
俺は我慢強い方じゃないって。
「…隊長、もしかして分かっててやってるんですか?」
久しぶりに二人きりの部屋。最近はいつもいつもいつも隊長が拾ってきた赤髪の女が隊長の側にいて、
なかなか二人きりになれずにいた。他の連中がいなくて、隊長を独り占めできると思ったのに。
そんな時に地球軍の女を拾ってくる隊長も隊長だが、あの女もあの女だ。なんだって、ザフトの隊長に懐きやがる。
この俺の隊長に。
老若男女問わず、人を惹きつける隊長の魅力は敵軍相手でも有効というわけか。
分からないでもないが許し難い。
って、隊長、何を笑ってるんですかっ。
「隊長っ?俺は怒ってるんですがっ?」
「あぁ…すまない。やはり君は素直だな、あからさまな嫉妬をしてくれるね」
「楽しんでるんですか、貴方は…」
「愛されてる実感が欲しくてね」
嘘つき。知ってるくせに。分かってるくせに。
そんな事をさらっと言いのける人が言う台詞じゃないだろうに。
知ってるくせに。俺が貴方に心底惚れてるって。
分かってるくせに。自分が主導権を握ってるって。
「…まだ足りないなんて我が儘ですよ」
「私は我が儘だよ、知らなかったのか?」
そう笑う貴方がとてつもなく綺麗に見えた。だから手を伸ばして。
「何だってあげてますよ、いい加減、ちゃんと受け止めて下さ
い」
俺が隊長の顔を真っ直ぐ見上げながら頬に手で触れると、隊長はゆっくりとベッドに腰を下ろした。
「そうだな…おいで、イザーク」
ほら、主導権。まるで催眠術みたい。抱かせて貰ってる俺と、抱かせてやっている貴方。
もう貴方と対等でいたいとも思わない。これでいい。
誇り高い貴方が部下に抱かれてくれる、それで充分だ。
俺は誘われるがままに隊長に深いキスをしながら、ベッドに二人で倒れる。
僅かに主導権が俺に移る一瞬を感じて俺は笑う。そんな時、隊長はその俺を確認する余裕もない。
そんな貴方を愛しているから俺はこの年にしてはかなり色々と上手い方だと自負している。
今日は焦らしてやろうかと意地悪なことも思いつく。
「ッイザ…ァク…?」
「言ったでしょう、怒ってるって…今夜は少し長めに付き合って下さいよ」
俺が与えるギリギリの快感に貴方はもどかしそうに揺れる。その艶っぽさに俺の意地悪な思いつきは
すぐに却下されそうになる。いつの間にか焦らされてるのは俺の方で。苦しいのは俺の方で。
そんな俺を見上げて、貴方はやっぱり綺麗に笑う。
「来ればいい…ちゃんと、受け止めるさ…」
「隊長…っっ」
結局、最後は貴方の言うとおりに。
貴方を貫いてゆく俺にしがみついてはくれるけど、いつになったらその仮面を外してくれるんですか。
こんな姿を晒しておいて、それでも俺に見せたくないものは何ですか。
そう問うてしまえば全てが終わってしまうような気がする。
だけど…だけど…。
そんなことを思いながら抱いていたら、いつしか貴方は意識を手放して同時に俺の背から貴方の腕が滑り落ちていった。
『君は毎回、激しすぎる』
いつか、隊長に言われた台詞。
だって、そうでもしないと貴方の身体に、心に何も残せない。
いつも優しかった誰かと比べられているのかと思うと余計に激しくしてしまう。
今ならきっとその仮面を外せる。でも、外したいわけじゃない。貴方に外して欲しい。
誰にも見せない顔を俺にだけ見せて欲しい。特別だって認めて欲しい。
愛されてる実感なんて俺こそが欲している。貴方にいつも飢えている。
俺は激しいキスで隊長の意識を取り戻す。
我が儘はお互い様だ。俺だってまだ全然、貴方が足りない。
本当に何だってあげるから。身体も心も命さえ貴方にあげよう。
だから、愛してるって教えて。
END