フラガ×クルーゼ
「きみとともに」

小説 本城ゆーり様






「お帰り、ラウ」 扉を開けると懐かしい家具に囲まれて、ムウ・ラ・フラガが
こちらを振り返った。

 暖炉に火が入り、ゆるゆると燃えている。テーブルの周りには椅子が四脚。家族全員分だ。
テーブルの上にはパイとティーポット。テーブルから離れたところに背もたれの破けたソファ。
子供の頃ムウと遊んでいて破いてしまった。 
椅子の一脚、彼の定位置にフラガが座っていて、不思議そうにクルーゼを覗き込む。

「どうした?ラウ」
「いや・・・」
クルーゼが暫くそこに立ち竦んでいるとフラガは笑いながらクルーゼを促した。
「早く座れよ。折角母さんがパイを焼いたのに、お前ときたら全然帰ってこないんだもんなー。知ってるだろ、皆揃わないと母さんが食わせてくれないの」
まだ冷めてないからさ、フラガは嬉しそうに笑った。

「母さんは・・・?」
 フラガの隣りの自分の椅子に着いてクルーゼは尋ねた。
「ああ、そうなんだ。母さんったらさ、父さん迎えに行っちゃって。まあ裏の畑だろうからすぐ帰ってくるだろうけど。パイ冷めちゃうよなぁ」

 昔からガキ大将でそこらの子供のリーダーであったフラガが唯一逆らえない存在が母である。
父に噛みついたところを何度も目撃したことはあるが、それでも彼が母に楯突いたところを見たことはない。
 彼にとって母は絶対であるらしく、目の前のパイを惜しそうに見つめる姿は可笑しかった。

『食事は家族全員が揃ってから』そういう母の決り事を彼は忠実に守っているのだ。

「・・・何だよ」
 クルーゼの視線に気付いたのかフラガがじろりとこちらを向いた。
「いや、お前は28にもなって律儀だなと思って・・・」
 最後に耐えられずにくすくす笑い出す。
「煩いよ、ラウは」
 フラガが言い返してこないことだってクルーゼは知っている。
彼が口喧嘩で自分に勝ったことはない。彼もそれを充分分かっているらしく、無駄な抵抗はしてこない。
「今日天気がいいから外で食べるってのもいいな」
フラガがふいに視線を窓の外へやったので、それにならってクルーゼも外を見た。
そこには咲きかけの桜と青い空があった。

「あの桜も育ったよな」
「そうだな」
 フラガの言葉に相槌を打つ。あの桜は自分たちが誕生したときに父が植えたものだと聞く。
そういえば毎年毎年、あの樹の下で思い出を重ねた。

「今年も皆で花見だな。その時には母さんにチェリーパイを作ってもらうか」
 クルーゼも母が毎年作ってくれる焼き菓子を思い浮かべた。
「食べることばかりだな、お前は」
「酷いなあ、俺こうやってずっとラウのこと待ってたのに」
 フラガは窓の外からクルーゼに視線を向けて笑った。
クルーゼも笑った。

「なあ、ムウ」
「ん?」
「私達、これからも一緒だよな?」
 クルーゼの問いにフラガは驚いたように目を開き、そしてすぐに笑顔になった。
「お前・・・俺に結婚先越されるって心配してるの?」
 フラガは一人で勝手にひひ、と笑う。
「・・・ちが・・・」
「大丈夫だよ」
 クルーゼの否定の言葉にフラガの言葉が重なった。
「大丈夫。何があってもずーっと一緒だよ。俺達兄弟だろー?お互いよぼよぼのじいさんになるまでよろしくやろうな、ラウ」
「・・・・・ムウ・・・」

 しばらく呆然とフラガの顔を見ていると、思い立ったかのようにフラガが腰を上げた。
「あー、もう腹減った!俺はずっと待ってるんだぞ?俺ちょっと迎えに行ってくるわ」
 言うが早いか椅子を引いて扉の前へ歩く。
「あ、ムウ、私も一緒に・・・」
 そう言いかけたところで電子音が鳴った。



 クルーゼはぼんやりと音の発信源である通信機をオンにした。
『失礼致します。国防委員長、ザラ閣下より通信が入っています。回しますか?』
「いや、ブリッジで聞く」
 アデスからのそれに簡単に答えて通信を切る。軍服の襟元を正した。

 馬鹿馬鹿しい夢をみたものだ。

 辺りを見まわすとそこはあの我が家であるはずもなく、クルーゼにとって戦場であるヴェサリウスの自室だった。

宇宙空間の無重力も手伝ってまだ夢の中にいるような浮遊感が抜けない。
 クルーゼの父は、クルーゼが幼い頃に戦死した。
母も最近になって父の元へ逝ったと聞く。

そして双児の片割れであるフラガは今、クルーゼの最大の敵将校である。

 馬鹿馬鹿しい、と思いながらも先程の夢に浸っていたかった。
あれは自分の願望そのままだ。温かくて懐かしい家に両親が居て、そしてフラガが笑っている。

そこへ自分もいつか帰る。

「ムウ・・・」

 今ではたった一人の肉親。たった一人、同じ遺伝子を分け合う存在。
『大丈夫。何があってもずーっと一緒だよ』
 今でもお前はそう言ってくれるだろうか、いつか平和になったら、言ってくれるだろうか。

 いつの間にか運命が別たれて、道が別たれてしまったけれども。
それでも心だけはお前と共にありたい。

「何があってもずっと一緒だ・・・」

 ブリッジへ向かうためにクルーゼは仮面をつけた。









双児設定のフラガ×クルーゼですv
隊長の気持ちを思うと、とても切なくなります(〃T∇T〃)
何だか思い出の情景から、匂いとか手触りまでが伝わってくるようで///
大切な時間の記憶は、戦いに身を置くしかない隊長の捨て身な生き方を余計に切なく見せて…///
Kも子供時代のフラクルに挑戦してみたりしました(〃∇〃)
本編の展開を待ってられないです(笑)

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