八戒×三蔵

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小説 上条結月様





「三蔵」
「なんだ」
「何か欲しいものありませんか?」
「旅に必要なものを見極めて買い揃えるのはいつもお前だろうが」
「そうゆう意味じゃないんですけど…」
「じゃあどうゆう意味だ」
「覚えてないんですか?だって、貴方もうすぐ…誕生日じゃないですか」

欲しいもの。

欲しい…もの。

そんなこと言われなければ、よく考えた事がなかった。
俺が欲しいもの…?
“取り返したいもの”それは欲しいものということになるのか?
いや、違う。
今はこの手になくとも“アレ”はすでに俺のものだ。

じゃあ欲しいものは?
以前欲しいと唯一思った“守らなくていいもの”はもう手に入れた。
これ以上欲するつもりはない。


「…いらない」
本気でそう思ったから、そう答えた。
「本当ですか?誕生日ですよ?」
「いらない」
「僕のへそくりなんですからお金の心配はないんですよ」
「だからいらない」
「困りましたね」

困ったのはこっちだ。だいたい誕生日なんて本人ですら覚えていなかったのだ。
この男はこういう事にいちいち細かい。その几帳面な性格でこと旅をすることにおいては助かる事も事実だ。だが鬱陶しいと思うことも事実で。おまけにいつも一言多い。
調子が狂う相手だ。それもまた、事実だ。


「じゃあ買い物に行ってきますから」
「ああ」

その後はいつもの通り。買い物に出る奴を見送りながら──特に見送りもしないが──自分は部屋に残る。
だいたい新聞を読んで。煙草を吸って。再び扉が開かれるまでそうしている。別に待っているというつもりはない、全くと言っていいほどに。
それに今は関係ないが待つのは性に合わない。自分でもそう思っている。どちらかというと、待たせる方が多かった。今までの、人生において。

「眠い…」

外の景色があまりにも暢気で穏やかなせいだろう。部屋にじっとしていると自然に瞼が重くなってくる。睡眠はキッチリとってはいても、この昼下がりの陽気にあらがうほどのものにはなりえない。
ここにいつもの騒々しさはない。呆れるほど刹那的な平和。崩れるのはいつか…。

だがしかし…しばらくは身を委ねるのも悪くはない。


しばしの穏やかな静寂に。






「三蔵」
「…ん…」
「三蔵」
「……」
「おはようございます。もう夕方ですよ」

声をかけると僅かに睫をふるわせた。細く開かれた奥にはカーテンに隠された紫暗の宝石が覗く。

「……」
「おはようございます。三蔵」
「…八戒」
「なんですか?」
「…お前、昼に出てったんじゃなかったのか?」
「そうですね、昼過ぎぐらいだったと思いますけど…」
「……今回の買い物はそんなに多かったのか?」
「あはは。そういうわけではないんですけど…三蔵、心配して下さったんですか?」
「……」

わかってますよ。わかってるんです。

自分のことを心配して言ってくれているわけじゃないと知っていても、彼が僕の行動について関心を示してくれている。

そう思うと……ほら僕、結構健気ですから。


「すみません遅くなってしまって」
「いや…別に」
「少し個人的な買い物をして、手続きとか引き取りに時間がかかってしまいまして…」
「手続き…?」
「出かける前に聞いたでしょう?欲しいものありませんか?って。何もいらないなんて言うから、自分で選んで買ってきちゃいましたよ」
「…何をだ」
「これですよ」

優しげな表情で差し出した二つの紙袋。

「僕とお揃いです」
「…これは?」
「見ての通り、携帯電話ですよ三蔵。知りませんか?」
「知ってる!」

バカにするなと言いたげな表情…。まぁ確かに、喜んでくれるなんて思ってなかった。むしろあまりにも予想通りで…。

「三蔵、シルバーとホワイトどっちがいいですか?」
「は?」
「だから色ですよ」
「え…?」
「僕が先に選んじゃっていいんですか?僕は銀色がいいです」
「な…」
「どうかしましたか?三蔵?」
「何で俺がこんなもの持たなくちゃならないんだ…」
「だからプレゼントだって…」
「俺は電話なんか持ち歩かない!おまけに電話自体嫌いだ!」
「まぁ、そう言わないで下さい。持ってみると案外良いかもしれないじゃないですか」
「とにかくいらん!」
「貴方のために買ったんです」
「頼んでない」
「三蔵…」


愛してるから。貴方を本当に、愛しているから。

こんなもので貴方とのつながりを強めることが出来るなんて、少しも思っていないんです。

ただ…ただ一つくらい、僕と貴方だけの秘密が欲しくて。



「どうしても、受け取っていただけませんか?」
「……いつもそばにいるのに、何故そんなものが必要なんだ…」
「それは…その…」
「言えない理由でもあるのか」
そうゆう訳ではないのだけれど…。
「恥ずかしいじゃないですか」
「何でだ」

そんなこと言ったら、僕が貴方にゾッコンなのがバレてしまう。今更のような気もするけど、やっぱり恥ずかしいのだ。言った方も、言われた方もそうであろう。三蔵だし…。
こんな時…あの二人ならどうするんでしょうか?
少なくとも僕よりは、二人とも素直に言葉に出せると思う。

「これも一つの愛の形だと、そうとってもらえませんか?」
「な…っ」
「貴方から電話が欲しいとか、そんなんじゃないんです」
「じゃあ…」
「持ってみれば追々わかると…思いますよ」
「お前、どうしても言わない気だろう…」
「…すみません」

謝られても困る。訳もわからずいきなりこんなものを手渡されて…おまけに理由は言えないという。
いつもは一言多い男が…。


「…使わないからな」
「え…?」
「俺もシルバーがいい」
「三蔵…」

思わず彼の横顔を見た。いつもの不機嫌で、しかし微かに彩られた目尻の下。

「ありがとうございます」

妙な男だと、思ってくれてかまいません。
それもこれも貴方を愛するが故。でもこんなこと言ったら、貴方はまた…照れたり怒ったりするんでしょうね──見てみたい気もしますが──。

携帯電話って不思議ですね。それを持つ人によって様々で。
基本的には音声もしくは文字で、人と人を繋ぐもの。
貴方は使わないと言った。それで…いい。

「おい、八戒」
「はい」
「あいつらには言うなよ。何かとうるさいからな…」
「そうですね」
そんなこと、僕にとっては好都合。
「だいたい何なんだ。この趣味の悪いストラップは…」
「あ、それはですね…この携帯電話を買った時にお店のお姉さんに貰ったんですよ。カップル割引でしたから、ハートのストラップなんだそうです」

「は…?」
「カップル割引ですよ。ヤング割引もきいてるんで、結構お得だったんですよ☆」
「…な…」
「学割はさすがに無理でしたけどね。学生はお得でいいですよね」
「つけないからな…」
「え?」
「絶対につけないからな!」
「何をですか?」
「ストラップだ!」
「でもこれ結構可愛いですよ?」
「うるさい。誰の誕生日だと思ってる!」
「でも貴方忘れてたじゃないですか」
「そ…それとこれとは話が…っ」
「冗談です」
「……っ」
「ねぇ、三蔵…」
「なんだ」
「………。いや、やっぱりいいです。後で、メールしますよ」
「…っ!俺は使わないと言っただろう!」
「冗談です」
「何なんだ!」
「秘密です」
「八戒!」

貴方が僕に向ける瞳が好きです。この耳を震わす声が好きです。何もかも、愛しています。

今伝えたら、きっと困るでしょうね。誰のものにもならない貴方だから。
でも多分、僕は貴方を独占したいんだと思います。
わがままで強欲な僕を…どうか許して。
今はただ…心まで手に入らなくていい──勿論、いつかは僕のものにしたいですが──。

この僕たち二人だけの秘密を共有していよう。たとえ二つの端末の、ホットラインが繋がらなくたって。

愛していますよ三蔵。誕生日、おめでとうございます。








END









素敵な三ちゃんバースデー小説をありがとうございました(〃∇〃)
モバイル系八戒さん♪ 八戒さんの『愛していますよ…』って言い方が
とても好きなのですv
そんな声が携帯から… 照れ屋の三ちゃんはその甘さに更に照れるのです〜///
ああ言えばこー言う、食えない八戒さんとの会話も甘くてv
三蔵様お誕生日おめでとうございますv ごちそうさまでしたv

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