八戒×三蔵
小説 ひろぽ様
■□■甘露の盃■□■
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猪悟能が死に、猪八戒が生まれた。
その日、『八戒』は初めての恋をした。
白皙の美貌、豪奢な金糸。意志の強い紫暗の瞳。悪しきモノを浄化させてしまう声。
そんな男に恋をした。
いや……恋か?
そんなに生温い感情なのか?
それとも……恋とは響きに似合わず、激しい感情なのか?
だとすれば……。
八戒は『恋』をしたのだ。
明日。
八戒は、三蔵の元から巣立つ。
恋した日から、決まっていた別れの日。
八戒は決心する。
「貴方が悪いんです」
自嘲気味に呟く声を聞くものは誰もいない。
「貴方が可愛すぎるのがいけないんだ・・・」
淋しい告白。
「きっと。僕は貴方のことを愛していた。貴方に新しい命を与えられたときから」
やんわりと愛しい男の顎のラインを辿る。
「そして貴方も。僕に命を与えてくれたときから」
微かに息づく唇に指を這わせ呟きは続く。
「気付きあうのが遅すぎたんだ」
戸惑いながら、はっきりと。
「今、この場で。永の別れをする前に」
堅い岩のような、甘い声で。
「僕は貴方を・・・抱く」
宣誓した。
意識のない愛した男を八戒は愛しげに抱き上る。
穏やかな呼吸を繰り返す口唇に接吻を繰り返す。
紫水晶の輝きに僕を映して。
僕の愚かであるかもしれない行為をしっかりと見届け、嘲り、罵れ。
それで、貴方の心に猪八戒という男が残るなら。それが癒されることのない傷であろうとかまうものか。
「八戒、俺は稚児じゃねぇぜ」
声がした。不安に満ちた。
「だから? 」
待ち望んだそれに、残酷な微笑みで返す。
「止めろ」
「止めない」
抗う三蔵を恋に狂った男は手際よく後ろ手に縛り上げてしまった。
「狂ってる」
「ありがとうございます。今の僕には最高の賛辞ですよ」
恐怖と恥辱の混じり合った紫暗の瞳。その揺れる輝きが牡の嗜虐心を煽る。
きっちりと着込まれた法衣を剥ぎ取るように脱がせる。アンダーも捲りあげてしまう。頭を抜く。露わになる肌。後ろ手に縛られている所為で、自然と胸を突き出す形になる。
淫らで、美しい。想像より遙かに。
白く輝く肌に、清楚なベージュの装飾が麗しい。
「見るな……」
頼りない声さえも艶めかしく聞こえるのは愛のせい。
「聞こえませんねぇ」
答えるのは甘いテノール。彼は恭しく慎ましやかな胸の突起に口唇を寄せる。
「とても魅力的ですよ」
心臓の上の飾り。やんわりと吸い上げれば小さいながらも存在を主張する。懸命に立ち上がり仄か薄紅色に変化を遂げる。片方も負けじと押さえる指を跳ね返す。
「ご覧なさい。これが貴方の本性ですよ? 」
応えなど期待していない問い。問いながらも指を滑らせスラックスの前に這わせる。
布地の上からゆるゆると三蔵自身をさする。慈しむように。
「このままでは辛いでしょう? ご自分でなさいますか? 」
「辛くなんかっ」
震える声は羞恥のためか。
「こんなにして? 強がりもいい加減にしなさい。全く可愛くないんだから」
三蔵は困惑した。憎々しげに吐かれる科白に何故もこんなに傷付くのか。
それでも。自分に素直になれない。気分の気持ちに気づけない。気付かない。
「っ? 」
眇めた眼で愛しい仔猫を一瞥すると八戒は獲物のスラックスを下着ごと一気に引き下ろした。若草の繁りの中で徐々に三蔵自身が欲望の形に姿を変えていく。
「ここは、こんなに素直なのに」
勃ち上がる欲望に指を這わす。形をなぞるように。根本の双球も残る手で揉みほぐす。
「他人を触るのは初めてですが素敵な手触りですよ。弾力があって…滑らかで」
先端の割れ目を爪の先で弄くる。先からツッと溢れ出る蜜が三蔵の羞恥を強めそれにより歪む顔がますます八戒を悦ばす。
「敏感ですね。禁欲生活が長いからですか? 」
「馬鹿にするなっ」
叫んだつもりがようやく声になるだけの掠れた声。
「おやおや心外ですね。僕は誉めたんですよ? 」
「ぁっ」
突然の不思議な感覚に思わず声を漏らす。八戒の指が後孔をまさぐった。異物感に呻く。
「痛くはないでしょう? 貴方の溢れた蜜で濡れてますから」
指を動かせばクチュリと淫猥な音が響く。
「…くぅっ」
入り口付近の一点を指がかすめたとき、微かに四肢が跳ねたのを八戒は見逃さなかった。
「ああ、ここですか。ここをこうするとね」
鍵状に曲げた中指で執拗に押す。すると三蔵自身は触られることなく質量を増し、物欲しげに震える。
「冗…談……」
淫らな変化に戸惑いの表情を隠せない。
「驚かないで下さいな。男の子なら当然の反応なんですから」
欲望の裏側。淫猥な感覚神経の束。内側からさすられるだけで否応なく欲望は勃ち上がる。
「貴方は……僕を感じてくれないのですか……? 僕は貴方をこんなに感じているのに……」
ふと見せる諦めに似た表情。
「逃げないと約束できますか? 」
八戒の翡翠に逆らえず、三蔵は肯いていた。
「赤くなってる……辛かったでしょう? 」
縛り上げた紐を器用に解く。
逃げるなら今だろう。だが、三蔵は動かない。ただ、辱めている牡を見上げるのみ。
「傷を付けてしまった。綺麗な肌なのに」
赤黒く変色した手首に口唇を寄せた。騎士の誓いの接吻のように、恭しく。
「三蔵……触って……。貴方を愛したいと願う僕を」
解いたばかりの手を導く。
「なんだっこれは?! 」
導いた先は八戒の欲望。猛々しく勃ち上がり火傷しそうなほど熱くなった八戒の想い。
「ほら、よくご覧なさい 」
八戒は自らの前を大きくくつろげ。
「僕は貴方の艶姿を見ただけで、これです」
淫猥な蜜の滴りに濡れ光る、牡の証を見せつけた。
八戒の体ゆるりと三蔵の上に落ちていく。
「僕を感じて」
哀願するように下肢を三蔵に擦り付ける。
互いの肉塊が触れ合った瞬間、三蔵の躯の奥に衝撃が走った。
「待てっ」
彼は叫ぶ。
だが、シニカルな笑みに一笑された。
「もう待てない。もう待たない」
八戒はゆるゆると腰を振るう。重なる二人の躯の間で二本の肉棒がさすれあう。
先端から溢れる蜜が二人の牡に流れ落ちヌチャヌチャと淫猥な調べを奏でる。
「聞こえますか? 素敵な旋律だ」
「…な…ぃっ……」
嫌々するように首を振る。
「強情な人ですね」
「あぁっ」
秘孔を嬲る指が二本に増やされた。同時に自身が熱い粘膜に包まれる。
ジュク…ジュル…ジュ………。
淫靡な音。唾液とジュニアから滴る蜜との妖艶なハーモニー。
柔らかな茂みから先端へと舐めあげる。括れを甘噛みし敏感な割れ目を尖らせた舌で割り開く。とめどなく溢れ出る艶めかしい滴。根本のまろやかな双球はぐっとせり上がる。熱を一度放出してしまえばその後の行為はいっそう辛くなるだけだ。胸の飾りを弄んでいた手が紐を再び取る。
「我慢して……」
甘いバリトンで睦言のように、非道な科白を吐く。三蔵は躯中を巡る甘い痺れにただ肯いた。
「くぅ……はぁっ…………」
充分に育った三蔵の根本を八戒は躊躇い無く紐で縛り上げる。
「この方が貴方は楽なんです」
突然の痛みに萎えるそれを八戒は再び口腔に含む。茎を歯で扱き薄皮を時折吸い上げる。
甘い刺激にそれは粘膜の中で質量を取り戻す。
「素直ですね」
「だまっ…れぇっ…………」
「全く。こっちも素直になればいいのに」
湧き出る甘露を舐め取ると、意固地な恋人に、口付ける。
放っておかれても健気に存在を主張する飾りにも慰撫を与える。
指の先で抓み、捏ね、押しつぶす。時折爪の先で細やかな振動を送る。利き手で可憐な突起を嬲り片方で肉筒の内側を掻き乱す。器用な舌は口腔を犯した。
同時に行われたそれは三蔵に愉悦の表情を浮かべさせることに成功する。
「大丈夫」
優麗な声は聴かせるためか、自問か判らぬ。八戒は弾けんばかりに育った自身を三蔵のまろやかな双丘の狭間へと導く。蕾を犯し続けた二本の指が更にそこを割り開いた。先走る滴りを充分に肉襞に塗り込む。粘液と蜜の絡み合う音がする。
「僕を感じて……」
ゆっくりと労るように。それでも明確な意志を持って腰を進めた。
「!! っ……くぅあぁ…………」
「息を吐いてっ」
そんな余裕などあろうはずがない。解っていても三蔵の辛そうな表情を見ていると云わずにはいられなかった。
「お願いです。僕は貴方を傷付けたいわけじゃない……」
八戒の切なそうな声。辛い行為を強いていること知っているから。それでも止められならいから。
「やめっ! 」
瞬間、三蔵は呻く。言葉にならない言葉を……・。
この瞬間を夢みた……。自分が気付かずにいた期間を含めた長い、長い間。
愛した男と一体化できた。これでもう、思い残すことはない。一人で歩いていける。
三蔵への行為が。自分の、最後の、身勝手な、願いだと知っている。
それでも八戒の心は叫ぶ。
三蔵の誰も見たことが見ない嬌態を眼に焼き付けて、辛さと悦びの狭間の声を耳に残して……一人で歩いていこう。
三蔵の躯に、心にっ! たとえ傷でもいいからっ!猪八戒という男を刻み込んでっ!
去って行きたい。
「…ぅ……くぅっ………」
三蔵が微かに呻いた。その声に八戒は自分を取り戻す。
紐で結わえられた三蔵の分身が切なそうに揺れていた。
「あぁ、辛いでしょうね。ご自分でなさいますか? 見ててあげますよ。貴方の淫らな姿をね」
淫獣の如き、残忍さで微笑みかける。震えるそれを根本からツッと撫で上げ。
「馬鹿やぁっ…ろぉ……」
牡の欲望に貫かれ、喘ぎながらも反抗するのは哀れな仔猫。
「気の強いお姫様ですねぇ」
行為にそぐわぬ優しい声音で八戒は囁き、貫く凶器を一層深く突き刺した。
「はぁ……んぁ」
徐々だがに三蔵の喘ぎの中に甘やかな響きが混じる。
「僕に感じてくれたのですね」
牡はクスリと笑う。
「解いてあげますよ」
素直になって下さったお礼にね。
熱い楔で繋ぎながらも器用に紐を解いていった。
解放されたジュニアは一気に質量を増してくる。
「そろそろでしょう? 僕もですよ……僕を貴方の中に残したい……」
八戒の甘い囁きに三蔵は小さく肯く。
「一緒にな……」
「はい……」
同時に。三蔵は躯の中に感じた。八戒の熱い飛沫が弾けるのを。
それを感じて、自分も弾け、意識も飛んだ。
「…さんぞ……」
八戒はとろけんばかりの甘い鞘から刀を抜いて、腹部に飛び散る白濁の甘い滴に口付る。
美味そうに滴を啜り、
「貴方のコレは甘露のようです」
賛美した。
八戒は思う。
薄紅色に色付いた愛しい男の腹部はまさに。
甘露の盃。
待っていたのはこの瞬間。
甘露の盃飲み干す瞬間。
これで、歩いていける。
思い残すことはない。
眠る、三蔵の躰を清め八戒は去る。
三蔵の躰に、『八戒』という傷を刻み込み。
三蔵の心に、『八戒』という傷を刻み込み。
自分の躰に、胸に、三蔵の艶姿を刻みつけ。
去る。
もう二度と逢うことの叶わない金色の元から……。
■□■END■□■
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黒い黒い黒八戒さんをありがとうございました///vvv
八戒さんの救いの求め方は、時に黒くて黒くて///そこがまた八戒さんらしいです〜//
三蔵様は、何をされても、どうなっても綺麗なままに
でも八戒の与えるモノで確実に変化を見せてくれるだけで
悲壮なまでに満たされるのは何故なんでしょう(〃∇〃)
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