アスラン×クルーゼ
アデス×クルーゼ

『温度』

小説 灯呂さま







俺が貴方の仮面に手をかけると、貴方はいつもその手を拒みましたね。
身体を晒してもなお見せられない、見せたくないその理由は何ですか?

優しく頬に触れることさえ許されなかった。年下だから?
そんな理由じゃないでしょうね。俺に本気じゃない、ただそれだけ。

貴方が他の男と話している姿を見ました。
それがどうしたと仰いますか?いいえ貴方はそんなに愚かではないでしょう。
俺にも見せない笑顔で貴方はその人と話していた。
好きなんでしょう?アデス艦長が。
俺なんかの相手をしている暇があるのなら言ってしまえばいい。

お前が好きだと

どんなに望んでもどうせ俺には与えられない言葉と想いなのだから。
子供のように嫌味を含めた声で、貴方にそう告げた。
「私は恐ろしいんだよアスラン、人を愛することが」
だが残念ながら俺がその意味を理解することは出来なかった。
「あいつは私の想いを知っても受け止めてくれるだろう、だが想いが成立すると同時に恐怖も与えられる」
貴方は俺より少し長い人生の中で多くのものを得て、そして失っている。
それが何なのかは判らないけれど。
俺よりずっと深い貴方の心は俺には理解しがたかった。
「解らぬか?なら問おう、君は戦争をしている。ならば思わないか?愛しい人を失いたくないと」
「・・・・思います」
「そういうことだ」
さらっと告げると貴方は俺の方へ向けていた身体を、椅子ごと再び通信端末へと向ける。


貴方は愛することが怖いんじゃなくて失うことが怖いんだ。
解ったのはそれだけだった。
「いつか失って哀しむくらいなら、最初から大事なものなどいらない。宝物は持っていなければ盗られることはないだろう?」
否定的な物の考え方だとは思った。
だがそれは夢でも理想でも何でもない、本当に現実を見てきた者の言葉。
その気持ちが痛いほどによく解る俺には何も言えない。
「私ももう哀しみたくはない、想い人を哀しませることもしたくない」
それが初めて見せた貴方の弱音だった。


貴方が心底憎いですよ、アデス艦長。
あの人の想いを手にしながら、貴方は彼自身を手にしようとしない。
あの人はきっと自分からは何も伝えないだろう、だから貴方から伝えればいい。
他人の俺から見ても判るんだ、貴方の想いが。
ならあの人に判らぬわけがない。だからあの人は迷ってる。
あの人に足りないのは少しの勇気と覚悟。貴方が後押しをして下さいよ。
俺がどれだけあの人を抱いても、あの人は俺を見ないし何も見せてはくれないのだから。



その数日後、ブリッジで隊長とアデス艦長の会話を偶然耳にした。
「今夜、酒に付き合わないか?アデス」
そう誘った貴方の声はいつもの通り何も見えない声で。
何気ない会話に聞こえただろう。だが、あの空間にいた人間の中で俺だけは判った。
もう俺と貴方の関係は終わりだということが。
貴方が彼を誘う言葉を見せた時、俺も区切りをつけなければと。ただそう思った。

自分の気持ちに全ての決着を着けたその日、貴方は俺に別れを告げた。
まだ告げてくれただけ良かった。何も言わず別れられたらそれこそ心がどうかしてしまいそうだ。
別れる、という間柄でもないんだけれど。
「・・・アスラン」
貴方の呟き一つ聞き逃さぬよう、瞼を閉じて耳を澄ます。
「決めたんですね」
「あぁ」
「じゃあ俺はもうここには来ません」
正しくは来れません、でしたね。
「・・・済まなかったな、今まで。辛い思いをさせた」
それを知ってても貴方は俺に抱かれたし、俺は貴方に抱かれた。
俺はそれだけで良かったのかもしれない。
「いえ、それでも俺は、貴方に感謝しています・・・・んっ・・ぅ!」
それは突然で、最初で最後の心のこもった口付け。
貴方の唇に今までにない温もりを感じた。
「・・・済まなかったな、本当に。ありがとう」
謝らないで下さいよ・・・・俺は貴方と関係を持てただけで幸せだったんだから。

だけどこの温もりを 俺が貴方に与えたかった












前作『自覚』のサイドストーリーにあたる、アデクルベースのアスクル小説v
嫉妬しながらも、クルーゼに暖かい想いを向けるアスランが
すごく良い男です(∋_∈)///
隊長がせっかく得た大切なモノを失わずに済みますように(T△T)///
素敵な小説ありがとうございました///

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