『最終兵器隊長』
(「最終兵器彼女」パロディー「最終兵器隊長」となっております)
フラガ×クルーゼ
小説吉野さま






『ザフトのために』


私がこうなったのは本当にそんな理由だったかな。

強くなりたかった。

弱いから守られているのも、弱いから守れずにいるのも嫌だった。

強く、強くありたかった。

だから、私は『最終兵器』になった。

パトリック・ザラに本当に構わないのかと問われた時に迷いなど無かった。

実験に等しいと誰もが称した、誰もが初めての手術。

創り出すのは人型の最強最終兵器。


あの日、私は死んだ。


「…ゼ、クルーゼ、終わったぞ」

パトリック・ザラの声が遠くから聞こえて、次第に近くなった。否、私の意識が次第に覚醒していっただけか。

ゆっくり目を開けると彼が少し心配そうな顔で私を見下ろしていた。

ああ、定期メンテナンスの最中に眠っていたのか。

…メンテナンス、か。人間には使われることはないであろう言葉を無意識に使うようになってしまったな。

「クルーゼ?大丈夫か?」

「ええ。夢でも見ていたようで」

「君はまだ夢を見るのか」

そう言ってしまってから彼はしまった、という顔を見せる。私が傷つくとでも思ったのだろう。

人間ではなくなった私が夢など見るのかと単純な好奇心だった
ろうに。

私は苦笑して身体をベッドから起こした。

「…お忙しいのに、メンテナンスの度に付き合って下さらなくて結構ですよ、閣下」

「いや、一応、このプロジェクトの責任者だからな。アフターケアも私の責任の内だ」

「お優しいことで」

見ていることしかできないのに。

そんな心の声が聞こえたのか、彼は少し哀しそうな顔で私の顔に手を伸ばしてきた。

冷たいなと呟かれ、この心のことなのか、この身体のことなのか私には判断ができなかった。

その内に彼の顔が近づいてきて口づけられた。

何も感じない。けれど、その胸を押し返してキスを止めた。

「お止め下さい、閣下。絶望しますよ…」

この身体に。

鼓動は刻まなくなった。体温も消えた。この身体が生み出すのは殺戮の道具だけ。

抱いたところで、抱かれたところで、悲しくなるだけだ。

「クルーゼ…」

「…ヴェサリウスに戻ります。失礼」

私は彼の身体を軽く押しのけて部屋を出た。

引き止める声を聞いたような気もしたが止まる気はなかった。


「隊長、おかえりなさいませ…っ」

ヴェサリウスに戻ると、わざわざ到着口にまでアデスが出迎えに来てくれた。

この艦で私が『最終兵器』となったことを知るのは彼だけだ。そして、恐らくは私の『監視役』。

けれど、無事に戻った私に見せる、安心したような笑顔に私は随分と救われている。

「ああ…留守中、何もなかったか」

「はい。隊長は…?」

「…相変わらずさ。少々、疲れたかな…」

私は彼の肩に頭を寄せ、身を預けた。

彼の側にいるのは好きだった。彼の鼓動はとても大きくてよく聞こえる。それはこの身体にもよく響くから。

自分はまだ生きている者が住む世界にいるのだと実感できたから。

「た、隊長…」

真っ赤な顔で動揺しながら私の身体を支えるアデスを見て、小さな笑みが漏れる。

本当に救われているよ、アデス。

救われている、はずだった。その彼の腕の中で私は急激に背中の痛みを感じた。

ああ、またか。

「っく、つ…っっ」

「!?隊長っ、まさか…っ?」

立っていられなくなり、床に座り込む私に付き合ってアデスもその膝を床に付けて尚も私を抱きしめた。

「は、なせ…アデス…手が吹き飛ぶぞ」

「あ…」

彼が慌てて私の背から手を離した次の瞬間、私の背からは銀の翼が音を立てて開いた。

同時にミサイルなんかがごろごろと床に転がっていった。

全ての兵器がこの身体から生まれる。私の意志とは関係無しに『危険』を感じ取って、私に『行け』と言っている。

「隊、長…」

アデスの震えた声が私に刺さる。知っていたとは言え、この姿を見せたのは初めてだった。

「…行く。後は任せた…いや、私に任せていい」

私が立ち上がり、戻ってきた早々出ていこうとするとアデスに強い力で腕を掴まれた。

「…ア、デス?」

振り向いて、驚いた。何を泣いているんだ。どうして泣くんだ。思わず、その涙に手が伸びたが、その手を彼に捕らえられた。

「ずっと…っずっと、そうやって独りで戦ってきたんですか…っ?独りで…!!」

「アデス…」

「どうして…っっ貴方が…っ」

「…決めたのは私だ。お前が心を痛めることはない」

「っ…私は…っ貴方を…」

彼の言葉を止めるためにキスをした。手は捕らわれたままだったから。

唇を離すと、彼は呆然と私を見つめ続けた。

「すまない、アデス。私はお前の言葉を聞いてやることもできないんだ…私は…まだ弱いままだから」

この身体を背負うにはあまりに弱い心。応えられないのに傷つけたくないなんて思い上がりだろう。その上、失いたくないなんて。

「貴方は…ずるい人です。言ってることとやってることがまるで違う。諦めさせては…くれないのですね…」

「…そうだな、我ながら卑怯だとは思うが…何故だか、お前には忘れて欲しくないような気がする」

次に違う形で出会えた時、気付いて欲しいと思うから。

私の言葉にアデスは私がいなくなることを悟ってまた、泣いた。

自分に私を止めることが出来ないのを知っているのだろう。

「…さよならだ、アデス。いつか、また逢おう」

「…必ず…っ。御武運を。隊長」

アデスは掴んでいた私の手を一度、強く握りしめてからそれにキスを落とすとゆっくりとその戒めを解いた。

私もゆっくりアデスの手の中から自分の手を抜き出し、もう振り返らずに出ていった。

普段と変わらぬ軍服姿で宇宙の闇の中へ飛ぶ。身体や服が焼けることも、窒息感を感じることもない。

私は『最終兵器』だから。

守られたくなくて。守りたくて。

そんな相手ともうすぐ向かい合う。

端から見れば殺し合いと呼ばれるのだろうな。

お互い邪魔な背景を背負っていて。

私はザフト軍の制服を着ていて、お前は地球軍の制服を着ていて。

裸の身体二つで向き合えば愛のままに抱き合えたのに。

そんなことを思って、目を閉じた。次の瞬間。

「おい、飛びながら目なんか瞑るなよ。何かにぶつかるぞ」

その声に再び、目を開いた。それと同時に前に進むべき身体をその声の主に片腕で抱き止められたのを知る。

ムウ・ラ・フラガ。

その顔を見て、私は言葉を失う。どうして、お前まで生身でここにいることが出来る?

「ムウ…」

「まぁ、幸いにもぶつかったのはこんないい男だけどな。ラッキーだぞ、お前」

「…寒いな」

「どこがよ?至極、本当のことだろ」

「それより、貴様。何で…」

「こっちが聞きたい。何だって『最終兵器』になんかなるかなぁ、お前は」

…おかしい。『端から見れば殺し合いと呼ばれるだろう』事態になるはずが何故、こんなにも普通に会話をしているのだ。

ヤツの質問に答えるより先に私の問いに答えて欲しかったが、堂々巡りになりそうで諦める。

「私は…強くなりたかったから」

「それで『最終兵器』?極端なんだよ、お前は」

「そう言うお前は何だと言うんだ?」

「俺はお前がそんなんになっちまったからつき合って仕方なく、身体使ったんだよ。ほら、改造人間とか、そんなの」

「簡単に言うな、馬鹿者。つき合って仕方なく?本当に馬鹿だな、お前はっ。そんな必要がどこにある?」

「ワケわかんねーな、お前も。その必要性を作ったのはお前だろう?俺はお前と共に生きるんだから」

「な…っ?いい加減、分かるように話せっ」

「『最終兵器』になって寿命が縮むのか延びるのか知らないけど延びた時に困ると思ってさ。お前を残して逝けるかよ」

「何故?」

「愛してるから」

私は閉口する。どうして、お前は簡単に言うんだ。しかも、こんな時に。

聞きたくなかった。聞きたかった。言って欲しかった。言って欲しくなかった。…言いたかった。

溢れ出しそうな想いは言葉に成らず、涙へとその形を変えた。

ムウはそっと私の仮面を外して、それを広い宇宙に流した。

「大丈夫、お前はまだ人間だよ。ほら、お前の涙はこんなにも熱いじゃないか」

言いながら私の頬に触れてくるムウの手はちゃんと温かかった。人工的な熱だろうが、そんなことはどうでも良かった。

どうでも良かったんだ。人間でも『最終兵器』でも。

お前を愛せるなら。

お前を殺せるなら。

お前を守れるなら。

「…私を残して逝けないと言ったな…?」

「言った」

「では共に」

「いいねぇ」

ムウが笑ったので私も笑った。そして。



そして、僕たちは二人きりの世界に戻った。



END





『最終兵器彼女』のパロディーな、最終兵器な隊長v
笑いの設定なのに、何だか隊長が切なくて、ホロリとさせられまくりでした///
隊長痛々しい(∋_∈)可愛くてもう、背中からギュっっっっってしたくなります〜///
ザラもアデスもフラガも隊長には優しくて///
フラガの殺し文句がまたタラシでヤられました(〃∇〃) !
最終兵器になったって、隊長はやっぱり隊長なのですv

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