お前を守りたい もう涙を流すことがないように
それは お前を生かし続けたいという意味でもあり
俺以外の誰にも殺させたくないという意味でもある
苛々するんだ また・・・また平気なフリをしてるお前を見ると
お前は気付いているか?・・・いつもいつも隙だらけなんだぞ?
俺はお前の傍にいてやることができない
助けを求める小さな声に気付いてやることができない
どんなささやかな願いさえもきいてやることができない
傍にいるなんて とても簡単なことなのに・・・それすらもできない
「偽善だな」
俺の気持ちを吐露してみると、こいつはいとも簡単にそう言い放った。
「私の傍にいたい、その気持ちは嬉しいしもちろん私も同感だ。お前の傍にいたい」
恥ずかしい台詞をさらっと口にしたかと思ったら、次に出た言葉は何と残酷なことだろう。
「だがそれは”私のため”か?そして私の想いは”お前のため”か?
否、全ては”自分のため”なんだよ」
思考が 止まった
お前が私のために何もできないのが悔しいから 傍にいたいのだろう?
自分の心を満たしたいから 傍にいたいのだろう?
傷付いた私を放っておくとお前も傷付く だから傍にいたいのだろう?
人とは全て自分のためだけに生きていると、お前はそう言った。
”誰かのため”は”自分のため”、それが道理なんだとお前は悟っていた。
そして”誰かのため”と言う人間は、偽善だと。
何て残酷なんだろう、何でそれが真実なんだろう。
これを世界の人間に公表したとしよう、何人の者が「ひねくれた人間の解釈だ」と言うだろう。
だが、あいつに言わせるとそう言った人間こそが”偽善”である。
「人間とは、何と愚かな生き物だろうな。だが・・・その愚かさに気付かぬのが人間だ」
ならその愚かさに気付いたお前は何なんだ・・・?人でないというのなら、何だというのか。
現世に存在する以上神ではない、人は神様なんかになれやしない。
「そう、私は神ではないよ。愚かさに気付けたとしても、
何もできなければただのヒトだ。まぁ、何かをするつもりなどさらさらないが・・・」
その瞳の奥には何も見えなかった。希望も、絶望も・・・何一つ。
全てを判っていながらこの世を生きるということは、どれだけ重いものなのか。
何度身体を重ねてもその重さを感じることはできるはずもなく、
ただ時間だけが過ぎてゆく。
お前を理解するためには、一秒でも時間が惜しいというのに。
「誰かを理解しようと思うな、所詮無理なことなのだから・・・」
あぁ、そうやってお前は俺の道を塞ぎ続けるのか。
「他人である以上、例え親子でも絶対の理解など有り得ない」
その辺にある物語のありきたりな台詞で、こんな言葉がある。
俺の気持ちを知らないくせに
何て馬鹿な言葉だろう、誰も判っているはずなどないことも知らない馬鹿な人間だ。
知っているわけがない、”言っていない”のだから。
それで奥深くにしまい込んだ自分の気持ちを察してくれ?
言ったならともかく、言ってもいないくせして誰かのせいにするなんて、思い違いも甚だしい。
そう言いたいんだろ?お前は。
それでも言えないのが人間ってもんなんだよ、っつってもそれすらも判ってるんだろうな。
「私を守りたい?それはまた嬉しいことを言ってくれるな、私はそんなに弱そうか?」
冗談めいた言い方さえも、俺には切なく聞こえてしまう。
違うよ、辛そうなんだ・・・お前が遠くでそんな顔をしているなんて、俺には耐えられない。
「だが、一応私たちは敵同士だ。どちらも守れはしないさ・・・殺すことはできてもな」
そう、だから死ぬ時は俺だけに殺されてくれ。誰の手にも殺らせやしない、
俺だけがこいつを殺れる。
それでも、全てを理解してしまった重みで傷付いたら、俺を頼って欲しい。誰にも頼らないで。
隙だらけのお前だから、いつか誰かに奪われてしまうかもしれない。
「大丈夫だ、お前がどこかで存在してさえいれば」
その存在を感じ取ることができる俺たちには、不安なものなど何もないとお前は言った。
俺がお前を感じなくなったら、それはお前が俺を捨てた時か、お前が死んだ時だ。
「いいや、私が死んだ時だけだよ。・・・・私はお前を捨てられない」
・・・あぁ、何て自分本意な考えだろう、何て俺を喜ばせてくれる言葉なんだろう。
偽善者という十字架を背負って生きるか 十字架を手放して生きるか
俺たちはそのどちらでもないのだと信じたい
背負い続けることもなく 手放したままで道を歩むこともなく 手に握って進むのだと
そう 時々その十字架を手にし 時々道に捨て置く
ただ・・・その十字架は片手で 自分の分だけ握っていよう
自分の両手が塞がることのないように お前の両手が塞がることのないように
空いた片手でお前の手を握るんだ お前の十字架を少しでも軽くしたいから