2.

大氷穴はその名の通り、氷に覆われた洞窟だ。

人工的に作られたものらしく、扉のついたガランとした空洞が、迷路状に連なっている。地下へと下る階段などもあって、噂では地下四階まで続いているらしい。

「やっぱりここも通ったルートで、迷路そのものが変化しちまうみたいだな…」
行き止まりの部屋から元に戻ろうとして、元の通路が消えてしまっている事に、ロビン達は気づいた。簡単に地図を作りながら進み、変化した通路をまた書き加える。

「迷路は一定の法則で変化しているから、慎重に調べながら進むしかないな」
「んでも、あんまりのんびりもしてられないみたいだぜ?」
ロビンが指す扉の先には、続々とモンスター達が集まって来ていた。しかも退路が無い。ここから出るには進むしかないのだ。

モンスター達は、氷や雪の造形物に似ているモノが多い。見てくれは綺麗だが、魔法も直接攻撃もレベルが高い上に、コチラの攻撃が効きにくいタイプもいて、かなりやっかいだ。
だが

「みだれうち!!ボリス今のうちに詠唱だ!」
ボリスが詠唱している間、ロビンは遠距離攻撃の効く得意の弓で、敵の進行を妨げる。
「サンダーストーム!」
ボリスの強力な全体攻撃魔法が発動すると、近場にまとまっていたモンスター達が消滅した。

「ロビン、あっちのやつらには魔法が効かないようだ。補助を頼む」
「オッケー!アタックレイズ!」
ロビンの補助魔法によって攻撃力を高めたボリスは、モンスター達に直接攻撃を加えていく。
「くうっ」
「ボリス!」
モンスター達の反撃をボリスが受けると
「ヒールウォーター!」
ロビンがすかさず回復する。
「…すまない」
「ははっ、何か俺達ってもしかすっと、すごく良いコンビなのかもな!」

ロビンもモンスター達に得意の弓を射掛けると、フィールドのモンスター達はほとんどが消滅したようだった。
後には小さな宝箱が残されている。
「お宝お宝vvv」
ロビンが喜々として箱の蓋をあけると、中からは
「うっ…何だよ、腐った果実じゃねえか…」
微力だが回復剤となる腐敗した果物が入っていた。

「多分もっと地下に行かないと、依頼された宝箱は手に入らないのだろう」
「そーだよな。まだここって入り口に近いくらいなんだもんな…。んで、これからどうする?」
深い階層に入るには、今の戦いで二人とも少し疲れてしまっていた。手持ちの回復薬も少ない。

「この洞窟の先は、ガバスの街に続いている。一度地上に出て、ガバスで必要な装備をそろえてから挑戦した方が良いと僕は思う」
ボリスの判断は冷静で、ロビンには異論はない。

「そんじゃ、ガバスの街へのルートを探さねーとな。多分この階段を降りて先に進むしか無いんだろうけど…」
「他には道が無いようだから…」

ロビン達の目の前には、階層を降りる氷の階段。

迷宮は大抵、奥に進むほど強力なモンスターが出現しやすくなっている。ガバスの街へのルートが見つかる前に、モンスターに出くわさない事を祈りつつ、ロビン達はゆっくりと地下へ降りていった。


「うわっ…うじゃうじゃ集まって来やがる…!」
階下には、やはりモンスターが多かった。モンスター達は互いに仲間を呼び集める習性があって、一匹と出くわすと、更にうじゃうじゃと集まってくるのだ。

「ディフェンスレイズ!」

四方から攻撃を受けて、ロビンは自分とボリスに防御力の上がる補助魔法をかける。

そして弓矢で広範囲の敵に弓の雨を降らせ、その間にボリスが全体魔法を発動させた。

「とりあえずこの階は、この調子なら何とかなりそうだなv」
「そうだな」
背中合わせに周囲の敵と戦いながら、ボリスもロビンも、抜群のコンビネーションを互いに喜びあっていた。
だが

「?あいつは何なんだ?」

残り少なくなったモンスターの中に、洞窟の隅でじっとしているモンスターが目に付いた。
他の白っぽいモンスター達とは違って色が派手で、大きな鳥の変形したような形をしている。
攻撃して来ないなら、こちらからも手だししようとは思わなかったのだが。

でも嫌な予感がする…


「ボリス!あいつは何だろ、放っといても良いと思うか?」
ロビンが指す方向に、青い瞳を向けるボリス。
「あれは…!」
「なっ…何だ?!」

今まで鳥のような形をしていたモンスターは、ぐにゃぐにゃとその形を急に変え始めた。

そして目の前に現れたのは

「ボ!ボリス!!!!???」

モンスターは何とボリスに姿を変えたのだ。


「ちっ、仲間に擬態したら撃ちにくくなるって作戦かよ!」
「違うロビンあれは」

ボリスの声はいつになく焦ったものになっている。

「あれは“まがどり”だ!」

「“まがどり”…って!じゃああいつは!」

「そうだ、姿形だけが僕に似てるんじゃない、ヤツは僕が使える魔法や攻撃なら、何でも使うことが出来る。完全なコピー体なんだ!」

「マジかよ…うあっ」

あまりの事に呆然としていると、まだ残っていた周囲のモンスターの攻撃を避けきれなかった。
「くっそ、まだこいつらも居たんだっけな!ヒールレイン!んでもって、みだれうち!」
ロビンは素早く二人の体力を回復させ、周囲の敵に牽制の弓を放つ。
「すまないロビン、そっちはまかせる」
ボリスはまがどりを接近戦に持ち込んだ。とにかく魔法を詠唱される訳にはいかない。

だが切り結べば全くの互角。
ロビンに補助魔法を使ってもらえれば優位になるのだが、ロビンは多数のモンスター相手に一人きりで苦戦している。
しかも
「しまった!」
「ロビン!」
敵の攻撃をまともに食らってしまったロビンが、氷の壁に、身体をたたきつけられる。

さらに止めを刺そうとするモンスター達
「ロビン!!」

ボリスはまがどりを剣で勢いよく押しやると、ロビンとモンスターの間に割り入るように飛び込んだ。
剣で一閃してモンスター達を蹴散らすが、致命傷は与えきれない。
ロビンを抱き起こそうとして
「しまった…」

ボリスは詠唱の声を聴いて青ざめた。

ロビンを攻撃していたモンスター達は、いつの間にか、まがどりを守るように取り巻いて、ボリスに攻撃を開始していた。

あの詠唱は…

「ロビン!ロビン!大丈夫か!?」
「うあ…す…すまね…ボリス」
頭をクラクラと振りながら、ロビンが痛々しく身体を起こす。

「走れるか?頼むロビン逃げてくれ!」
「に、逃げるって」
「あれは!あの詠唱は…ギガフロストだ!」

「ぎっギガフロストォ?何だってお前はそんな魔法を使えちゃうんだよッ」

ギガフロストは魔法の属性を超えて、最強クラスの全体攻撃魔法なのだ。

味方が使える分には心強いだけだが、敵が使えるとなると、逃げるより他に対処のしようが無い。

「ボリス、雑魚の攻撃防いで」
「ロビン?!」

ロビンはすぐさま詠唱に入った。ギガフロストは最上級魔法に属するので、詠唱にかなりの時間を要する。
手前に雑魚モンスター達がうごめいていては、詠唱を邪魔するための攻撃は届かない。

けれど、補助魔法なら、詠唱は短く、自分の方が先に魔法を発動することができるはずなのだ。

「ロビン駄目だ!逃げてくれ!ロビン!」

「ディフェンスレイズ!!!」

「ロビン!!」

「耐えろよボリス!」



ーーーーーーーーーーギガフロスト…


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