3.

「!!!!」


氷の爆風がボリスとロビンに狙いを定め、狂ったように吹き荒れた。

「ぐうううっ」

烈風にまかれた氷の刃が身体を突き抜けようとする。

だが、ロビンが直前に放った補助魔法が効いて、致命傷の一歩手前で刃は弾かれる。

「もう…もたねえっ!」

補助魔法の効果が切れかかる寸前に、ようやくギガフロストは威力を失った。
「堪えられた…みたいだな…」
「何とか…だがまだ敵がいる…」
「ん…」

ふらつく身体を無理に起こして敵と対峙するボリスに、ロビンは小さく呪文を唱えた。

「ヒールシャワー…」

ロビンの魔法で、ボリスの体力は一時的に全回復した。
が、がくりと膝をつくロビン。
「ロビン!」

「悪ィ…。自分まで回復する魔力が…残ってねえん…だ。俺はさっきの薬草で踏ん張るから…まがどりは…まかせたぜ」
「すまない…ロビン…」
「とにかく何とか…脱出しねえと…な」
肩で生をして、ロビンはモンスター達に弓を射た。
ボリスも全力で自分の姿をした“まがどり”と戦う。

ギガフロストは最上級魔法だけあって、一度使うと、後は魔法を使う余力は残らないはずだ。ボリスはロビンの援護を受けて、短い詠唱の炎属性全体魔法を放った。






*   *   *







ガバスの街は、巨大なカジノを運営しているお陰で、世界の異変を受けても各地から客足が途絶えない。
道程に危険なモンスターが出るので、客の援護に傭兵が雇われるため、ホテルの中に、大きな傭兵所もある。

大氷穴から何とか脱出したボリス達は、傭兵所ではなく、ホテルに部屋をとった。

深手を負ってから、薬で体力を回復して脱出はしたものの、薬や魔法で強制的に回復をするという事は、体力を前借りするようなものなので、後から副作用がかなり来る。



「ロビン…具合はどうだい?」

ロビンはすんなりした身体に疲労を溜め込んで、ベッドに懐いていた。


あの氷の迷宮で。まがどりに何とか勝利した後、歩けない程に体力を失ったロビンを抱えて、ボリスは出口を探し歩いた。

腕の中で、冷えた空気に体温を奪われて震える身体に気が付いて、何度もロビンの身体を抱き締めていた。

今でも、腕に小さな熱を感じる。

ボリスは所在無げに、ロビンの伏せるベッド脇にたたずんでいる。
「ロビン…すまなかった」
「?何でお前が謝んだ?俺はお前に助けてもらったんだぜ?」
「君のことを…僕が傷つけたようなものだから…」

まがどりが自分に変化したせいで…ボリスの姿をした者が、ボリスの使う最強魔法を使ってロビンに深手を負わせてしまった。

しかも自分には回復系の魔法を何故か使うことが出来ない。

一緒に戦うロビンにばかり負担をかけてしまっている。

「何言ってんだよ、ありゃ“まがどり”なんだ。お前じゃない。誰もお前と同じにも代わりにもなれないんだよ」
「ロビン…」
「お前はお前だ。俺の最高のパートナーになれる奴なんだよ。そうだろ?ボリス」

ベッドにうつ伏せたままだったロビンが、顔だけをボリスに向け、光を湛えた草原色の瞳に華やかな笑顔を浮かべる。

「パートナー…。僕にそんな価値があるって、君は言ってくれるのかい?」

ボリスの青い瞳が喜びと戸惑いに揺れていた。

「お前は?オレだけがパートナーだって思っててもしょうがないんだよな…。お前はオレと…どうなんだよ」
「ロビン…」

いつもは気丈で明るいばかりのロビンの表情が、今は頼りなげなものになっている。

ロビンに求められている…

それがボリスには何より嬉しかった。

記憶を無くして、自分には何も無いと思っていたけれど。

「僕には何もないけれど…。君に少しでもふさわしくなれるように…生きていきたい」

一言一言を噛み締めるように告白すると、ロビンの頬が少し赤らんだ気がした。

「…何も無いなんて事…ねえだろ?」
「ロビン?」
「オレ様がいれば他に必要なモンなんか…ねえだろ?」

ああ、と返事をしてボリスが慣れない笑顔を浮かべる。

ロビンも照れながら、「よろしくな、相棒」と、握手しようと身体を起こそうとして…
「わわっ」

急に起き上がったせいか、ベッドの上で、軽い目眩にロビンは倒れこみそうになった。

それを咄嗟に支えたボリスは

「…ボ…ボリス?」

そのままロビンを抱きすくめていた。

ボリスも自分のしている事に内心あわてていたのだが、どうやってもロビンを抱きすくめる腕を緩めることができないのだ。

「ボリス…苦しいってば…」

小さく身じろぐロビンを腕の中に収めて、その存在が掛け替えの無い宝物だと…ボリスはひたすらに確かめ続けていた。

「…ったく、しょーがねえヤツ」

自分の肩に顔を押し付けて抱き締め続けるボリスを、ロビンは身じろいで自由を得た腕で、やんわりと抱き返してやった。

背中をぱたぱたとあやすように撫でると、ボリスが幸せそうな溜め息をつく。

放っておくと、いつまでも抱き合っているのかも知れないと思うくらい、ボリスは熱くロビンを抱き締めていた。

ロビンも照れながら、ボリスの背に添わせていた手に、暖かい想いを込めていた。

いつまでもこうしていたい気がするのだ。お互いに。

けれど、何も不都合なんか無い。

今は冒険の途中。

二人はこうやって、これからも旅を続けるのだから。




FIN



す…すみません(汗)Raiさんのリクエストは甘いボリロビだったんですが
砂糖切らしちゃって…(殴)全然甘くないです〜〜〜(涙)すみませんでした。
しかも無駄に長いです(-▽-u
実力不足です。これから努力しますんで!頑張ります!
って、今から頑張っても…