White Dream
ポポローグ
ボリス×ロビン

小説見国かや

1.

傭兵所の生活は、仕事の依頼が来なければ、日々単調、とても退屈だ。

「ロビン、仕事の依頼があったが、受けられるか?ちょっと難しいかも知れんのだが」
「えっ!ああ勿論!」

一カ所に留まり続ける事が苦手なロビンは、だから傭兵所の受付のオヤジがその依頼を、持って来たとき、考える間もなく二つ返事で受けた。
「オレ様にまかせてよv」

ロビンはハートマーク付きで笑顔になる。
傭兵の中でも端整な姿で見栄えの良いロビンは、表情が豊かで、時々こんな無邪気な笑顔になる。
それが少し幼い感じで、その可愛さに、傭兵所のオヤジは少し困った顔をした。

「それで、仕事の内容なんだが、相方と組んで、ガバス近郊にある大氷穴の探検をしてきてほしいそうなんだ」
「大氷穴かあ……」

そこはロビンのレベルでは少々手にあまるモンスターが出現する場所だった。
けれどロビンは弓の腕は最近ますます上達していたし、攻撃魔法も回復魔法も補助魔法さえ習得済みだ。
うずうずする。
冒険がしたくて我慢できない。

「まあ何とかなるでしょv んで、今回の仕事で、オレの相方になるのは?」
「ああ、それは…」




*   *   *





傭兵所のあるトンクウのにぎやかな街を出発して、あやかしの洞窟を通過する。ここも結構強いモンスターが出るのだが…

「ハイハリケーン!」
風属性の最高魔法を相方が唱える。
はじけるような風の衝撃が洞窟の中を突き抜ける。

それまでうじゃうじゃと集まってロビン達を攻撃していた不気味なモンスター達は、その一瞬で全て消滅した。
後には少しだけ金のかけらが散らばっているだけ。

「ボリス、あんたホントに強いなあ!こんだけモンスターをあっさり倒しちゃ、戦うのが面白いんだかつまんないんだか分からなくならねえ?」
ロビンは自分の相方となった青年の強さに、素直に驚きの声を上げていた。
「………自分の仕事をするまでだから…」
でも愛想ない奴…

陽気に過ごすのが大好きなロビンには、このボリスという青年と二人きりで旅…というのはちょっと気が重いものがあった。

この青年は、過去の記憶が無いのだとか言うから、愛想がないのもそのせいなのかも知れない。

一緒に戦うと、とにかく強い。
何処かで本格的に習ったような剣技。
記憶がなくて、傭兵にもなったばかりというのに、風系や雷系の最強魔法を使うこともできる。

無駄な事は喋らず、頼んだ事は、律義にしっかりやり遂げてくれる。
要するにとても真面目な奴なのだ。

頭から黒っぽい頭巾を被り、青い瞳と整った鼻梁が印象的なボリス。

身につけている宝石は、どうも本物みたいに見えるが、それにしてはデカ過ぎる。
もし本物なら傭兵なんかしなくても楽に暮らせるくらいに。

記憶がない事が真面目なボリスには気がかりで、自分が何者か知るために旅をしたくて、傭兵になったのだそうだ。

長い洞窟の複雑な迷路を、モンスターを倒しながら進み続ける。
お喋りなロビンが話しかけることに、少しづつボリスは答えてくれて。
そうしてやっと、それだけの事が聞き出せたのだ。






「や〜〜〜っと青空が見える所まで出たぜ〜〜vvv上がったり下がったり苦労したけど、大したお宝は無かったよな。そんでまた地下に潜らなきゃならないんだからなあ。今度は良いお宝に当たると良いよなv」
「そうだな」

それでも、あやかしの洞窟を抜けて、大十字路で休息を取る頃には、ロビンはボリスの寡黙さにすっかり慣れてペースを取り戻し、ボリスもロビンの気さくさに慣れて、少しだけ表情を和らげていた。

壊れかけた橋を渡って、岸壁の下方に空いた洞窟に向かう。洞窟からは強い冷気が漏れ出していた。

「うううっ寒っそ〜だなあ…」
「ここは一年中氷点下で、凍りついている洞窟だったな…」
「そっ。だから出てくるモンスターも寒さに強い根性のある奴ばっかな訳」
「炎属性の魔法を中心に攻撃を組み立てた方が良さそうだな」
相方と会話がつながるようになって、ロビンはこの冒険がとても楽しくなっている。

「それが、全ての属性の魔法に耐性があるってやっかいな奴も混じってるらしくってさ。まあ例によってここも迷路化してる上に途中で通路が変わっちまうって妙な洞窟だから、油断は禁物。でも今度はオレも全力を出せるカモな。お前ばっか戦わせてられねえし?」
くすくす笑いながら言うと、常に無表情なボリスが少し困ったような表情を浮かべた…ように見えた。

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 ボリスには、自分に向けられるロビンのくったく無い笑顔がとてもくすぐったく、眩しいものに見えていたのだ。
記憶を失ってから今まで、いや、多分記憶を無くしていなくても、こんな眩しいものは、他に見たことが無かったと思う。

生き生きと冒険を楽しむロビン、その若草色の髪がなびく度に、すがすがしい風を、ボリスは感じていた。

この風には何処か記憶をくすぐられる。

風が…遠くから若草の匂いを運んできて………自分はそれにとても…憧れていた……

その風はひんやりと澄んでいて…いつもは無機質なくらい澄み過ぎているのに、…時折、命に満ちた清しい香りを運んでくるのだ。

胸が少し苦しいような妙な感覚が沸き起こる。

不確かな記憶のカケラ。

…ロビン…




「おいっボリス!何ぼーーーっとしてるんだ?早く来ないと置いていっちまうぞ!お宝も給料もオレだけがいただいちまうからな〜」

「今すぐ行く」

ボリスはあわててロビンの後を追った。


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