『Blue Moon』        小説 遊亜さま


◆ 12.


離れまで戻ると、三蔵は荷物を取ってくると言い残し、自分に割り当てられていた部屋へと先に行ってしまった。
一人にしたくは無かったが、一人になる時間も必要かもと思い直し、八戒は後を付いて行くのはやめた。

自分の荷物は後回しにして、悟空と悟浄の部屋を目指す。
先に訪ねた悟浄の部屋は空っぽで一瞬焦った。
しかし、急いで悟空の部屋を開けると、そこに悟浄がジープを連れて来ていた。
目が覚めると朝になっていて一晩何かで眠らされていたと気付き、慌てて悟空の様子を見に来たらしい。

「なあ、さっき、なんか大きな音しなかった? …って、どうした、その傷?」

八戒の口元が切れて血が滲んでいるのを悟浄が目聡く見つけた。
真面目な悟浄の声音に、まだ寝起きでぼんやりしていた悟空も八戒へと顔を向けた。

「妖怪にやられたの?」
「……まあそんなとこです。 あ、もちろん倒してきましたよ…悪い奴らは」

八戒は腫れてきた頬を押さえつつ返事した。
その姿を、起きてきた悟空が心配そうに見上げている。

「昨日貰った、あの薬を使えば?」
「そうですね」

必要なものは、来た早々ちゃっかり入手していた。

「早く治るといいな」
「ええ」

純粋なその目を直視するのは今の八戒には辛かったけれど、心配させまいと精一杯笑顔を作った。
悟空もにっこりと笑い返す。
しかし、その笑顔はすぐに曇ってしまった。

「あー、腹減ったよ〜」
「人の怪我の心配より、自分の腹の心配かよっ!」

悟浄が悟空の頭を小突いたのが切っ掛けで、またいつものような喧嘩が始まった。
暴れ出した二人から逃げるように、ジープが八戒の肩へと飛んでくる。

八戒は横で苦笑しながらその様子を見ていた。
ジープの頭を撫で、心の中で悟空に 「ごめんね」 と謝りながら。

・・・朝食は、しばらくお預けかもしれません


* * *


「しっかし、びっくりしたなー」
「ホントホント!」
「起きてみれば、村が無くなってんだもんなー」
「ホントビックリ!!」

離れを1歩出た途端、あんぐりと口を開けたまま呆然としている二人に、八戒は簡単な説明しかしなかった。
妖怪も人間も一緒になって、村人全員が三蔵の命を狙ったので、応戦したと。
二人とも、夜中に差し入れられた食べ物や飲み物に薬を混ぜられていたことを思い出し、素直に納得した。

「少しくらい、俺の出番も残しとけってんだ」
「それより、飯どうすんだよっ!」

戦いの中で八戒の攻撃を受けずに無事だったのは、村長の離れと屋敷だけだった。
しかし屋敷は、離れに戻る前に八戒が跡形も無く吹き飛ばしていた。
他の建物と同様に。
この村で行われたことのすべてを消し去るかのように。


* * *


「あーもう力が入らねー」
「おまえは夜中まで散々食ってたんだろうが」
「そんなの、とっくにどっか行っちゃってるよー」
「ったく、燃費の悪い猿だな」
「何だと、もっかい言ってみろっ!」
「ねん・ぴの・わる・い・サ・ル♪」
「猿って言うなー!!」
「おめぇが言えっつったんだろーがっ!」
「何だよ、このエロ河童! 女と見たらデレデレして、それで騙されてんだから」
「おまえだって、餌に釣られたんだろう、このチビ猿!!」
「何をー!」
「やるか、てめえ!」
「やってやろうじゃねーか!!」

早朝から体力が有り余っている二人に対し、三蔵の我慢も限界に近づこうとしていた。
隣の運転席を窺うと、いつもならそろそろやんわりと釘を差していた八戒が、今はそちらを見ようともしない。

今回の件では、八戒の胸の内に、三蔵とのこと以外にもしこりが残っていた。
吹っ切らなければと思うものの、どうしても拘ってしまう。

ため息をついた八戒に、三蔵が煙草を咥えながら 「どうした」 と声を掛けた。
事務的なこと以外は口をきいてもらえないかもと思い込んでいた八戒は、驚いた顔で三蔵の横顔を見つめた。
決して親身な訳では無いけれど、言葉を掛けてくれたというただそれだけが、とんでもなく凄いことに思える。

・・・やっぱり、貴方には敵わない……

三蔵の切り替えの鮮やかさを、八戒は見習いたいと思った。

「人間も…大勢殺してしまいました…」
「相手は敵だった、そうだろ?」
「え…? ええ……」
「なら、倒すしかねぇだろ」
「三蔵……」

なんて明快な理論。
しかし、それは真実のように思え…。

「俺達の行く手を阻むものは、人間だろうが妖怪だろうが関係ねぇし容赦しねぇ、違うか?」
「いえ……、そうですね。 僕達は西を目指さないといけませんから」
「なら、ぐだぐだ考えてる暇は無い。 さっさと出せ」
「はい!」

誰でもない、三蔵がいいと言うのだから、それでいい。
思考を占領していたもやもやが、一気に消え失せたように感じた。

「おい、おまえら! 早くしねぇと置いてくぞ!」

まだ取っ組み合っている二人を見て三蔵が怒鳴っている。

「うわあ、待ってよー、三蔵!!」
「ったく、おまえが素直じゃねーから怒られるんだろうがっ」
「何だよ、悟浄が悪いんじゃないか!」
「そういうこと言うのはこの口か? えっ!」

ジープに近づきながらも喧嘩が止まらない二人に、三蔵のイライラは頂点に達した。

「いい加減にしねぇかっ!!」

三蔵の銃が火を吹いた。

「ぐああっ、こっち向けるなー!」
「おい、待てって三蔵っ!!」

八戒はといえば、いつもの光景が戻ってきたことを素直に喜んでいた。
また、この四人で旅が続けられる。
今までなら当たり前のように思っていたこと。
それが、本当は稀有なことでは無かったのかと思うと、感謝と嬉しさが込み上げてきた。

この先、どんな困難な目に遭っても、このメンバーならきっと乗り越えられる。
根拠を説明しろと求められても、咄嗟に明快な回答を用意するのは無理かもしれないけれど…。
“そんな気がする”、それで充分。

今日もジープは西へと走って行った。
取り敢えずは、朝食にあり付ける場所を目指して。


三蔵さま〜(〃T∇T〃)!もう、三蔵様の初めてモノな上に、八戒の想いがこの上なく深くて!
もう読ませていただいてて、クラクラ目眩がしまくりでした///
狂気に近いくらいの愛を抱えてる八戒の行動が痛々しいですけど、
一発なぐって、そんな八戒をすっきりさせようとする三蔵様が何とも三ちゃんらしくて
カッコ良くって!翌日の三蔵さまも凛としていて、(〃T∇T〃)、
八戒じゃ無くても、どこまでもこの人についていこう!と思ってしまいます(〃∇〃)
ハア三ちゃんて、何でこんなに素敵なんでしょう///
続編もあるのです!皆様お楽しみに!

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