アデス×クルーゼ
小説 見国かや

『夜明けまで…』







ヴェサリウスは艦の保全修理のために、軍の宇宙港に停舶していた。

一部を除いて殆どのクルー達は併設するコロニーの軍施設で羽を伸ばしている。
待機中ではあるが、実質休暇のようなものなのだ。

点検修理は専門のスタッフが行うが、動力部関係やコンピューター関係のクルー達は若干残っている。

艦長であるアデスも、艦橋で報告などを受けるために残っていた。

寝泊まりも慣れた艦の自室の方が落ち着ける。
アデスにとってこの艦で過ごすことが、切り離せない生活の一部となってしまっているのだ。

だが一つ問題もあった。

寒いのだ。

点検中は電力が低めに落とされていて、必要最低限の部屋だけしか室内温度が管理されていない。
設備の都合もあって、艦の居住特別室であっても、軍服を着用していなければかなり肌寒かった。





***




「ん…」

無機質な印象のベッドに清潔な白いシーツ。

多めに調達した毛布にくるまって、心地よい疲れに眠りを得ていた。

素肌の感触のまま、腕の中で滑らかな白い身体が小さく身じろぐ。

照明をしぼった室内でも、その金糸はまばゆい程で。

柔らかなそれにそっと指を絡めてゆっくりと梳けば、腕の中の人は心地良さそうに胸に擦り寄ってくれる。

共にくるまっている毛布をその人のなだらかな肩に掛け直す。

冷えた空気から守りたくて、腕の中にいるその人を引き寄せるように力を込めた。

「ん…アデス?」
「あ、申し訳ありません…起こしてしまいましたか?」
「いや…まだ就寝時間内なのか?」
「はい、起床のアラームはまだ先です。寒くはありませんか?やはり艦より、コロニーの施設でお休みになられた方が…」
「平気だ。お前がいるとそれだけで温かいからな。それに…いいのか?私が戻ってしまっても…」
「隊長…」

あまり意地悪をおっしゃらないでください、と願いを口にすると
お前のその困った顔が好きなのだと、美しい瞳が甘い笑みに飾られた。

その瞳を独占していられることは、アデスにとってはこの上なく幸福なことだった。





ラウ・ル・クルーゼ。
普段、その素顔を仮面で覆い隠していながらも、その優雅な物腰と指揮官としてのカリスマ性で、他人を圧倒し魅了する存在。

隊長艦の艦長として、彼と共に戦場をめぐるアデスは、クルーゼが物柔らかな口調で、凍りつくような冷徹な判断を下すのを、側にあって受け入れ続けてきた。

甘い口調で、からかうように、軍務違反すれすれの危険な提案ばかりをするクルーゼ。

正直アデスは時々胃のあたりがキリキリと痛むことがある。

それでも、この人から離れられない。
離れようとは思わない。

自分にだけは素顔を見せ、安心しきって、この腕に身体を預けてくれている。
この美しい青年を、守りたいと願っていた。
何処までも共にありたいと、今はそう願うばかりだった。





「…考え事か?アデス…」

いつまでも背中をさすり続ける手が、眠りに落ちるのを妨げたのか、クルーゼがまどろみかけた瞳で見上げてくる。

「…あ、…申し訳ありません、その…」
「うん?」
「本当に、私でよろしいのかと…」
「アデス」
「許していただけるなら、何処までもご一緒させていただきたいと…私は願っているのです。軍にあっては、配属が希望どおりに叶わないものではありますが」
「アデス」

少し悲しそうにクルーゼは微笑んだ。

「隊長…?」
「…どうやったら、その願いは叶うのだろうな。作戦によっては地球に降りねばならなくなるだろう? お前にはヴェサリウスを守って居てもらわねばならないのだし」
「申し訳ありません、我がままを申して…」
「そうじゃない。…お前にずっと側にいて欲しいと頼んだのは私からだったろう?」
「……はい」

初めてクルーゼと出会った頃をふと思い出して、アデスはまた困ったような表情をするしかなくなる。

「私がまだ隊長クラスでなく、MS乗りとして特殊な任務についていた時、お前が艦長で…」

「あまりその時のことは…」

「お前は最初から、私のやろうとする事に、反対ばかりしていた」

「あなたが無茶苦茶なことばかりやろうとなさるので…」

「揚げ句に、お前は私を別の艦に移動させて欲しいと言い出した」

「あなたの作戦は成功以上の成果をあげましたが、私は途中、反対意見しか申しませんでした…。反対ばかり申し上げる私とは、あなたも仕事がし辛いものだろうと思いまして…」

「お前は頑固だったから、説得するのが大変だった」

その時のことはありありと思い出せる。
クルーゼは移動願いを出そうとするアデスを説得しようと、その時初めて仮面を外して素顔を見せたのだ。

「今では、あの時引き留めていただいた事を感謝するばかりですが…。未だに反対意見は申し上げてしまいますな…。その…つい…隊長の判断が、その、あまりにも意外性に富み過ぎていると申しますか」

「素直に目茶苦茶だと言えば良いのだよ」

「…はあ」

「あの時、お前を引き留めた時、私は言ったな」

「…隊長」

「お前の判断はいつも間違っていない。正しい、といつも思っている。お前の正しい意見を聞く度、私は心の何処かで安心している自分を感じるんだ」

クルーゼは白い腕を、アデスの広い背中にしがみつくように伸ばす。

間違っているのは僕なんだ…
僕の存在そのものが…間違っているんだから…

無骨な胸に金糸を埋めて、聞こえないように微かな吐息でそう呟いた…




「側にいて欲しい…。お前に側にいて欲しいんだ…」

お前でなければ僕が堪えられないから…

「…何処までも…ご一緒いたしますよ」

悲しそうな色を帯びたクルーゼを暖めたくて、アデスは髪や背中や腰に掌を滑らせる。


クルーゼと共にありたいと願うのは、ただ共に戦うことや、守ることばかりでなく。
時折、クルーゼを悲しませているクルーゼの内にある何か…。
それを共有して、願うところに共に歩んでゆきたいのだ。

内に抱えているものを、クルーゼはまだアデスには明かしていない。
それがどのようなものであろうと、クルーゼが望むものであれば…




睡眠に当てる時間が終われば、クルーゼはまたその素顔を隠す。艦の修理が終われば、命を危険に晒しながら、戦線を大胆に飛び回ることになる。
だから今は、ゆっくり眠らせてあげたい。

「アデス…」

それでも、二人きりで、心置きなく甘えてくるクルーゼは、何処か誘うような香がして、ただ優しく温めるばかりでは済まなくなる。
十分に大人であるはずの青年だが、何処か儚くて
触れて、その反応を確かめずにはいられなくなるのだ。

何処までも優しくいたわるように抱きたいと思っているのだが

結局理性は本能に負ける。

「ん… ン」

儚く喘ぐクルーゼが、辛さを堪えながらも受け入れることを望んでくれる。

熱を感じる。
常に無機質な仮面や軍服に包まれて、すべてを隠し続けているこの人が
今だけは、ただの生身のヒトをさらけ出していられる。

生きている者の証しでもあるように、熱を与えあい、求めあうことが許される。

睫を濡らす涙を、無骨な指先でぬぐって。

もっと全てを自分に見せてくれれば良いと思う。
もっと何もかもを預けて欲しい。

「アデ…ス… アデス…」

その声が喘ぎというより呼びかけるようであったので、
アデスは一度動きを止めて、組み敷いているクルーゼに、少し乱れた息のまま伺いをたてた。

「!」
しがみつくように首に回されていた腕に引き寄せられて、クルーゼの唇が柔らかく触れる。
少し驚いてから、アデスは照れながら、小さく微笑んだ。

「お前…の困った顔が好きだが… そういう顔も良いものだな」
いたずらっ子のようなクルーゼの笑みは、妙に幼くて。
「私もあなたのその笑顔がとても好きですよ」
クルーゼがずっと、そんな笑みをもち続けることができるよう、アデスは祈った。

世界中の人間が、戦いではなく、こんな笑顔を望んだら、きっとクルーゼも笑顔でいられるような、そんな気がしていた。





遠くで艦が小さく軋むような音をたてる。
人間の気配のしない、金属質の艦の中で…
軍務で定められた“夜明け”までの時間を
熱を与えあって二人きりで過ごした。
まるで世界が終わった後のような
甘い静けさの中で
二人は幸福な微睡みに浸っていた。









(終わる)




OZ様よりリクいただいた 甘くてエロいアデクルのつもりで書きはじめたんですが(∋_∈)
エロが…中途半端に(汗)
申し訳ありません〜(T◇T)
これに懲りずにまたリクしていただけると嬉しいです//

全然関係ないんですけど、FF9のクジャが、クルーゼに見えて仕方ありません…(関係なさすぎ…しかも今頃9だし…)だって、世界を破滅に導こうとする、仮面の美形キャラなんで…。台詞回しの感じとかも似てるのです〜。クジャの台詞が全て隊長声で聞こえてくるこの頃でした(近況報告?)

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