『サイレントチェーン』

小説 遊亜様

※ゼロサム2003・9月号の扉絵の眠る三蔵イラストを御覧になってからお読みになる事をお勧めいたしますvvv




  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇



ギイッ……


「あれ、三蔵、寝てんの?」



 − SIDE GOKU −



いつもは怒ったとこしか見てない気がするけど、ホントは綺麗なんだよな、三蔵の顔って。
たれ目だけど睫毛が長くて。
髪だってキラキラしてて、眩しいくらいで。

いつも下から見上げてばかりの顔をこんな風に見下ろしてたら、急に三蔵がちっちゃくなったような気がした。
そのまま消えちゃうんじゃないかってなんか不安な感じがして、思わず手が伸びる。
でも、さわれなかった。
近くで顔を見たらあんまり綺麗で、立って見てた時よりもっともっと綺麗で、なんか怖くなって……。

ここにいるのは三蔵だよな?
いつも怖い顔して、俺のこと「バカ猿」って怒鳴りつける三蔵だよな?

揺すって起こそうかと思ったけど、ヤメタ。
いつもと違う顔だってことは、いつもと違う気持ちだってことだもんな。
三蔵、夢でも見てんのかな。
それが、愉しい夢だといいんだけどな。

なあ三蔵、俺、もっと大きくなれるかな?
もっと強くなれるかな?
悟浄にからかわれないくらいに、八戒に心配かけさせないくらいに。
三蔵と、肩を並べられるくらいに。

俺は俺だけの味方だけど、三蔵のことだって大事だ。
もちろん、悟浄も八戒も大切な仲間。
でも、三蔵だけはちょっと違うんだ。
失くしたくない、って思う。
離れたくないって、そう思う。

だから、ずっとそばにいられるように、俺、もっともっと強くなるからな。
んで、あんまり怒られないようにしようっと。
また、こんな顔してるとこ、見てみたいから……。



……バタン



  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇


     ―――青白い月光に照らされた、その美しい姿………

     ―――投げ出された右手にそっと指を絡めたい……


  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇



ギイッ……


「三蔵っ?!」



 − SIDE GOJYO −



一瞬、死んでんのかと思ったけど、ちゃんと呼吸はしてた。

「ったく、驚かすんじゃねーよ…」

ガスが切れたからライターを借りようと探してたら、こんなとこで寝転んでやがって。
一体、何してんだ?
眠いならベッドに行きゃいいのに。
気を失って倒れたって感じでもねーし。
まあ、こいつのことだから、そうしたくてしてんだろうな。
きっと、ただそれだけなんだろう。

しっかし、マジで綺麗だよな、三蔵って。
白い肌が月明かりに照らされて一層白く輝いて見える。
そんなに無防備だと、

「襲っちゃうぞ……」

顔を近づけても何の反応もしやしねえ。
いっそこのまま、とふと思ったが、なーんか起こしちまうのは勿体ねぇか。

あんまり見たことのない、こんな寝顔。
しみじみ見ても、やっぱり美人だ。
整った顔立ち、細身の身体、何もかも俺好みなのが嬉しくもありヤバくもあり。
チクショー、悪態吐きまくりのこの口も、銃撃ちまくりのこの手も、おとなしい今は可愛くしか見えねーぜ。

今夜は煙草はもういいか。
ニコチンの代わりに、おまえの寝顔で心が満たされたから。

閉じられた瞼の奥の瞳が僅かに動いた。
夢でも見てんのか?
表情はほとんど変わらないが、どことなく苦しんで見えるのはどうしてだ。

いろいろ背負ってるモンもあるんだろうけど、そんなの、生きてる限り誰だってそうだろ?
おまえだけじゃねーんだぜ、辛いのは。
それを顔に出すか出さねーか、って違いだけで。
まあ、俺は辛気臭いのはヤだから、何があったって明るく愉しく生きたいけどね。

そのうちおまえにも教えてやるよ、寺では教わらなかったようなことをいろいろと、な。
お望みならば、恋の手解きも……。



……バタン



  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇


     ―――床に波打つ髪の毛をさらりと掬ってみたい……

     ―――剥き出しの肩を撫でて闘いでついたであろう筋肉を確かめたい……


  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇



ギイッ……


「!!……………」



 − SIDE HAKKAI −



はあっ、息が止まるかと思いました……。
何かあったのかという驚きよりも、そのあまりの美しさに目を奪われてしまって。

急に姿が見えなくなったので慌てましたよ。
ひとり、静かに過ごしたかったんですか?
それならば邪魔するわけにはいきませんが……あと少しくらいなら構わないでしょうか……。

月光と三蔵、というシチュエーションは初めてでは無いですけど、今宵は格別のものがありますね。
三蔵……貴方は本当に綺麗な人なのだと、改めて感じました。
いつもは顔にかかっている髪が床に散らばっているせいで、くっきりと全部が浮かび上がって晒されて。
額のチャクラが、一際貴方を美しく見せているようで。

何故、これほど壮絶なまでに美しいのでしょう。
その美しさは、今まで貴方にとって厄介事以外の何物でも無かったようですが…。
けれど僕は、貴方がこの容姿だからこそ、貴方で有り得たのだと思っています。
僕が惹かれたのも、この美しさを際立たせる貴方の生き方に拠るところが大きいのですから。

そっとしておいてあげたいのですが、このままだと風邪をひいてしまいますね。
でも、起こすと怒られそうで、できればそれは避けたいかな……。
毛布を掛けることくらいは許してもらえますか?

微かに漏れ出る声が聞こえるのは…夢でも見ているのでしょうか?
特にうなされている様子ではないものの、貴方が愉しい夢を見ているところは想像し難いですね。
どれだけこの人を辛い目に遭わせれば気が済むのかと、神を恨みたくもなるってもんです。

例え世界中を敵に回してたとしても、僕だけは最後まで貴方の味方でいます。
貴方に救ってもらった僕という存在は、この先ずっと、貴方の為にあるのですから。

今はゆっくりおやすみなさい、三蔵。
夜が明ければ、また賑やかな一日の始まりです……。



……バタン



  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇


     ―――引き結ばれた唇を辿ってみたい……

     ―――閉じた瞳の向こうで見ている先を、<俺も><僕も>見てみたい………


  ◇ ◇ ◇   ◇ ◇ ◇



「っ……ん……」



 − SIDE SANZO −



月の光を浴びながら、俺は過去をさ迷っていた。
お師匠様が殺され、寺を下りてからの日々。
この身体に残った、消せない記憶。
この手が覚えている、あのはじめての日……。
はじめて人を……。

あの日々は、長い旅へと続く序章だったのだろうか。
それとも、俺の全てはお師匠様を失った時点で終わってしまった……?
ならば、あの別れは、終末の為の終焉だったのか?
だとすると、後に続く出来事はただ死ぬまでの悪足掻きでしかなくなる。
その通り、俺はいつだって足掻いているな……。

何度か、扉が開けられ、閉まる音が聞こえたような気がした。
現実に引き戻されたくない俺は、耳に届くその音を心の中で遮断し、無視した。

今は邪魔するんじゃねぇぞ。
あの方の残したモノの本当の意味を確認し直すには、これは必要な段階なんだろうから。

過去を振り返ったってどうしようも無いことは百も承知だが、今しばしの間、時を遡る。
この先、お師匠様から授けられた使命を果たす為に。
俺が俺として、玄奘三蔵法師として生きていく為に。



ゼロサム9月号の扉絵…三蔵さまの寝顔に、…無防備な眠る姿に
魂抜かれまくりませんでしたか?(∋_∈)///
Kもひたすら毎日、あの三ちゃんを眺めては愛しさにのたうってます///
あまりに苦しいので、同じく苦しかった遊亜さんが、素敵小説を書いてくださいました!!
悟空も悟浄も八戒も、三蔵の寝姿に悩殺されまくりです〜(〃T∇T〃)!
萌過ぎるとこんなにも苦しい!もっと助けてください!

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