『 Break out 』
八戒×三蔵

小説 遊亜さま
イラスト見国かや





「やっと落ち着けますね」
「ああ」

彼らは、返り血を洗い流し、砂埃を落とし、空腹を満たしてから部屋へと戻ってきた。

「今日はお疲れさまでした」
「まったく、雑魚とはいえ数が多いと疲れる」
「ええ」

誰が差し向けたのかなど、もうどうでもよくなっていた。
ただ、行く手を阻むものはすべて敵と見做し、倒していく。
それだけだ。

「あいつらも今夜はおとなしく寝るだろうな」
「そうですね。 悟空なんて、食べながら舟漕いでましたから」

食事から戻ってくると、悟空と悟浄はなだれ込むように割り当てられた部屋へと入っていった。
きっと、ベッドまで辿り着けずにそのまま床で寝てしまっているのではないだろうか。
風邪でも引かなきゃいいですけど・・・と八戒は困ったように笑った。

静かな時間が流れる。
疲労感はあるが、今日やるべきことはやったという充実感もある。
二人は、まだベッドへ入らずに寛いでいた。

「三蔵、コーヒーでも淹れますか」
「そうだな……」
「それとも、こっち?」
「ん?」

八戒が手にしていたのは、珍しい酒だった。
それも両手に1本ずつ。

「なんだ、それは?」
「さっき会計が終わった後に、食堂のご主人からお礼だと頂いたんです」
「礼?」
「僕達がこの街に来る切っ掛けになった女の子いたでしょ、妖怪に攫われそうになってたのを助けた。 食堂の娘さんだったそうなんです。 それでこれを」
「ふんっ」
「みんなで飲んでも良かったんですが、ほら、よく見ると滅多に手に入らないお酒だから、
あの二人にはなんだか勿体無くて。 それに、向こうはもう寝ちゃったようですし」
「八戒、おまえ本当にイイ性格になったな」
「そうですか?」

にこにこと笑っている八戒は三蔵の嫌味も気にせず、 「飲みましょう」 と杯の用意をし始めた。
なみなみと注いで三蔵に渡す。
乾杯はせずに、それぞれ口をつけた。

「旨いな」
「本当に、体に沁み渡っていきますね」

三蔵の杯が空くとすぐに八戒が注ぎ足した。

「結構……キツイな」
「そうですか?」

疲れのせいか、いつもより早くほんのりと頬を染めた三蔵に対し、八戒はケロリとしている。

・・・そうだ、こいつはウワバミだった

以前、酒場で言いがかりをつけられて飲み比べをした時、一人平気だったのはこの男だったと思い出し、
酔わされてはたまらんと三蔵は飲むペースを緩めた。
しかし、旨いのは事実で、つい手が伸びてしまう。
最初の1本はすぐに空いてしまった。

「もう1本、いきますか?」
「……ああ」

この調子ならあと少しは大丈夫だろうと、三蔵は自分の酔い具合を確かめた。

「これも旨いな」
「飲み易いですね。 どんどんいけそう」

が、2本目はアルコール度数で言うと1本目の比では無かった。
口当たりの良さに惑わされ、ついつい飲んでしまった三蔵の視界は、いつの間にか揺れていた。
酒は残すところあと僅かになっている。

「俺は…もういい……」

座っていてもふらふらして頭が重くなり、三蔵はベッドへ行こうと立ちあがった。

「大丈夫ですか?」
「ああ……」

しかし、地面が揺れているように足元が不安定で、歩を進めようとするがふらついてしまう。
倒れそうになったところを八戒が抱き留めた。

「触るな…」
「はいはい」

気丈に睨まれても、今の三蔵はただ色っぽいだけだった。
しかし、八戒はそう感じたことは表に出さず、何かあったらいつでも助けようと後ろに控えた。

三蔵がどさりと倒れこむようにベッドに横になった。
少し息があがっている。

「……水……」

呟くように言うと、目を閉じてしまった。

「待っていてくださいね、汲んできます」


* * *


コップを持って戻ってきた八戒は、横たわる三蔵に見惚れていた。
顔を覆うように少し乱れた髪、薄桃色に染まった目元。
寝顔は何度も見ているし、酔った顔だって知っている。
けれど、今、自分の前に晒されている姿を目にして、改めて湧きあがってくる想いを感じていた。

「…三蔵?」

声を掛けるが反応は無い。
少し開いた唇からは熱い息が零れている。

「お水ですよ」
「ん……」

微かに意識は残っているようだが起き上がる気配が無いのを見て、
八戒は持っていたコップを自分の口へと持っていった。

・・・この前は見ているだけでいいと言ったけど……

八戒は横たわる三蔵にそっと覆い被さり、厚い唇に口を付けた。


少しづつ水を流し込むと、こくんと三蔵の喉が動いた。

「まだ飲みますか?」

答えを待つわけでもなく、八戒は再び水を口に含むと、三蔵へと与えた。
飲みきれなかった水が顎へと伝っていく。

「ん……」

こくりこくりと飲み込む三蔵は、意識があるのか無いのか、時折声を漏らした。
コップの水はすべて与えてしまったが、八戒はもう一度三蔵へと顔を寄せた。

「酔いが醒めたら、忘れていてくださいね」

そう言ってから、三蔵の唇にそっと自分の唇を落とした。
呼吸を止めて、ただ触れ合うだけのキス。
永遠のように感じた一瞬が過ぎると、八戒は唇を離した。
そして、深く項垂れたまま深呼吸をしてから、三蔵を起こさないように、ゆっくりと離れていった。

八戒がベッドから離れると、三蔵が寝返りを打った。
背を向けた三蔵に、八戒は「おやすみなさい」と静かに呟いた。

自分のベッドに腰掛け、三蔵に触れた唇を指先で辿ってみる。
目を閉じると、先ほどまでのことがありありと浮かんできてしまう。

・・・今夜は眠れそうにありませんね



丁度同じ時、三蔵も自分の唇をそっと指で確かめていた。


* * *


翌朝、先に起きた八戒が悟空と悟浄を起こしに行き、戻ってくると既に三蔵も起きていた。

「三蔵…あの…」
「いつの間にか寝ちまってたようだな」
「え、ええ…」
「その瓶、あいつらに見つからないように処分しとけよ」
「はい」

その後は、いつもと変わらない光景だった。
朝から賑やかな悟空と悟浄と共に朝食を摂り、出発の支度をする。
その間、余計な会話は一切無かった。

「行くぞ、出せ、八戒」

三蔵は前だけを向いている。
八戒も同じ方向を見定めた。
あの夜、何があったかは心の底に仕舞ったまま。

「はいっ!」

朝日を背に浴び、4人を乗せたジープはまたひとつの街を後にした。





アニメ版でも酔った三蔵の寝姿は、襲ってくれと言わんばかりでしたが(〃T∇T〃)!
遊亜さんの酔った三蔵さまは〜!襲いかからずにはいられないくらい!無防備でッ!!
普段は接触恐怖症なくらい触らせてくれない三蔵なので、酔って色付いた上に無防備になられちゃってたら
普通理性なんか吹っ飛びますよね!(←オレはケダモノ…Σ( ̄▽ ̄))
でもそこでこう、一歩下がってなかなか踏み越えない八戒×三蔵のもどかしさが醍醐味で(〃∇〃)
このもどかしさがヤキモキさせてくれて、切なくてステキなのです〜///
八戒にとって三蔵は失うことのできない相手ですからv少しずつ、少しずつ、逃げられないように
野生の蝶に、後ろからそ〜っと近付いてく気分です(〃∇〃) 続きも激楽しみにしています!

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