澄んだ青空に初夏の太陽が照る中、荒野が続くこの辺りでは珍しいエンジン音が響いてきた。
砂煙を上げて疾走しているのは一台のジープだ。
「行けども行けども岩ばっかの景色っつーのはやっぱ飽きるな」
「何か、同じトコをぐるぐる回ってるみてぇな感じ」
後部座席で悟浄が零した愚痴に、隣の悟空も同意したかのようなうんざりした表情で返した。
「なあ、まだ着かねーの?」
「ここを抜ければ、多分次の町が見えてくるはずですから、それまでの辛抱ですよ」
悟空が前の運転席に身を乗り出して訊くと、八戒は苦笑を見せつつも優しく答えてやる。
「暇だな〜」
「だな〜」
だらけた調子が耳障りだったのか、助手席の三蔵がチッと舌打ちして後ろを振り返った。
「そんなに暇なら、てめぇらが持ち芸でも何でもやって場を持たせろ」
「何でもって、何もねぇとこで何やんだよぉ」
「そうだそうだ」
暗紫の瞳が睨みを効かせても、悟浄と悟空の二人は堪えた様子も無い。
「別に、道具を使わなくても色々と遊べるじゃないですか」
「例えば?」
八戒が前を向いたまま、ハンドルから片手だけ離して、その人差し指を上に向けた。
「しりとり、とか」
どれだけ楽しいのかと思うくらいの朗らかな口調での提案だったが、誰も反応しない。
「散々やったじゃねぇかよ」
「却下だな」
悟浄と三蔵が気乗りしない声を出すと、悟空が 「あ」 と顔を上げた。
「この前やったヤツ、面白かったじゃんか! あれ、またやんね?」
「どれのことですか?」
「“あ”から順番に言っていくヤツ」
「あ〜、あれかー」
五十音をカルタの札のように読み上げていく。
ただそれだけの遊びだったが、結構盛り上がったのだ。
「途中に一行以外の奴等が入ってきて掻き回されたけど、そういや楽しかったよな」
「もっかいやる?」
「また、“あ”から“ん”までですか?」
「それは芸が無ぇだろ」
「ならば」
三人がわいわいと話している横でひとり黙って聞いていた三蔵が、徐に口を開いた。
「濁点の仮名でやるのはどうだ」
「だくてん?」
「“が”とか“ざ”のように、文字に付いている点々ですよ」
悟空の疑問には、八戒が適切に答えてやる。
「それ面白そー! やろっ!」
「ま、暇潰しには良さそうだな」
「と言うコトで、濁点バージョン、やってみますか?」
「おう!」
「賛成!!」
悟浄と悟空の参加をバックミラーで確認した八戒は、こっそりと横の様子も盗み見た。
(ヤル気満々ですね)
三蔵は自分の提案が採用されたのに気を良くしているのか、僅かに口端を上げている。
(三蔵が楽しんでくれるなら……)
喜ばしいこと、この上ない。
八戒は自らもテンションが上がってきたのを感じつつ、「では行きますよ〜」 と音頭を取った。
「せーのっ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
全員 「が」
悟空 「ガムの“が”、ガムシロップの“が”、がんもどきの“が”、ガリの“が”、がぶ飲みの“が”!」
悟浄 「出たな、一気食いならぬ一気言い」
悟空 「何だよ、文句あんのかよ!」
八戒 「はいはい、最初から喧嘩しない。 では続けますよ〜。 ガラムマサラの“が”」
三蔵 「画鋲の“が”だな」
悟浄 「ガラスの“が”」
八戒 「ガーベラの“が”、ついでに、ガーデニングの“が”」
三蔵 「楽器の“が”だ」
悟空 「あっ、ガトも 『が』 が付くよな!」
悟浄 「おめぇも、いい遊び相手が見つかって良かったよなー」
悟空 「ぐりぐりすんなー!! あと、『が』 っつったらガンダムの“が”!」
八戒 「悟空、一人寂しがる人がいますから、その単語は…」
悟浄 「………何か言ったか?」
三蔵&悟空&八戒 「(無言で首を振る)」
悟浄 「ちっ…。 んじゃ気を取り直して、岩盤浴の“が”、ガードルの“が”、外泊の“が”、なんてのはどうよ」
八戒 「悟浄が言うと、そこはかとなくイヤらしく感じるのは何故なんでしょうね」
悟浄 「そんなの、この俺様からはフェロモンが出まくってるからに決まってんだろ〜」
三蔵 「とんだ無駄遣いだな」
悟浄 「ンだと、このヤロッ!」
三蔵 「がさつの“が”」
悟浄 「てめぇっ!」
八戒 「我田引水の“が”」
悟空 「それ、どういう意味?」
八戒 「物事を自分の都合のいいように言ったりすることです」
悟空 「ふ〜ん」
悟浄 「何でこっち見ンだよ!」
八戒 「願望の“が”」
三蔵 「ガセネタの“が”」
悟空 「がっかりの“が”」
悟浄 「てめぇら……」
八戒 「他にありませんか?」
三蔵 「あ〜、合掌の“が”」
悟空&悟浄&八戒 「お坊さんみたいだ…」
三蔵 「あ゛ぁ?」
■
全員 「ぎ」
悟空 「牛肉の“ぎ”、牛タンの“ぎ”、牛丼の“ぎ”、牛飯の“ぎ”、行者にんにくの“ぎ”、…あ、餃子の“ぎ”もっ!」
三蔵 「求肥(ぎゅうひ)の“ぎ”だ」
八戒 「あー、あれ美味しいんですよね。 白くて甘くて柔らかくて弾力があって」
悟空 「食いてぇーーー!!」
悟浄 「ギャラの“ぎ”」
八戒 「期待しても出ませんよ、僕らには」
三蔵 「ギムレットの“ぎ”」
八戒 「おや、カクテルもお飲みになるんですか?」
三蔵 「悪いか」
八戒 「いえいえ、今度そういう機会があればお供しますよ」
三蔵 「ふんっ」
悟空 「なあ、『が』 の時に三蔵が楽器って言ってたよな」
八戒 「ええそうでしたね。 三蔵、音楽方面で 『ぎ』 でも何かあります?」
三蔵 「ギターの“ぎ”、ギグの“ぎ”」
悟空 「ぎ…ぐ…? 何それ?」
八戒 「小さなライブハウスなどで行われるセッションをそう呼んだりするんですよ」
悟浄 「っつーか、三蔵からそんな単語が出てくんのって意外じゃね?」
八戒 「ギャップの“ぎ”、ってとこですかね」
三蔵 「勝手にイメージを作ってんじゃねぇよ」
悟浄 「ワガママ坊主はほっといて、俺をイメージするなら、義理堅いの“ぎ”って感じかー?」
八戒 「誰のことですか、それ」
悟空 「ギャンブルの“ぎ”」
三蔵 「ぎりぎりの“ぎ”だな」
八戒 「ぎゃふんの“ぎ”」
悟空 「ギロチンの“ぎ”」
三蔵 「ギブアップの“ぎ”」
八戒 「悟浄で考えるとスムーズに出てきますね〜」
悟浄 「畜生……。 おいっ次、八戒で考えようぜ!」
八戒 「僕でしたら先ず、義眼の“ぎ”ですね」
三蔵 「ああ、そうだったな。 調子はどうだ?」
八戒 「最初はぎこちないこともありましたけど、もうすっかり馴染んでます」
悟浄 「あっ、お前にぴったりのがあったぞ」
八戒 「何ですか?」
悟浄 「牛耳るの“ぎ”、なんてどうよ! …って、あれ? 何でてめぇら目ぇ逸らす? おい、三蔵? 悟空?!」
八戒 「議事録、しっかり取らせてもらいましたよ」
悟浄 「……え?」
悟空 「(小声で) 逆効果、だよね」
三蔵 「(若干小声で) 犠牲になってもらおうか」
八戒 「ふふふ (満面の笑みでブレーキを踏む)」
悟浄 「どした、こんなトコで止まンのか? …って八戒、何こっち向いて……へっ? ぎゃーーーーーーー!!」
■
全員 「ぐ」
悟空 「軍艦巻きの“ぐ”、味噌汁の具の“ぐ”、グミの“ぐ”、グラッセの“ぐ”、んで、グラニュー糖の“ぐ”!」
八戒 「おやおや、対象の食べ物は砂糖にまで及びましたか」
悟空 「まだあるぜ! グルタミン酸の“ぐ”!」
悟浄 「おまえ、わかって言ってんの?」
悟空 「いや、なんか美味そうな感じして…」
八戒 「食べ物しばりなら、具足煮、なんてのもありますよ」
悟空 「何それ?」
八戒 「伊勢海老や車海老を殻ごとぶつ切りにして煮込む料理です」
悟空 「うまそー! あ、グレープの“ぐ”、ってのは?」
三蔵 「葡萄と言え、葡萄と」
悟浄 「おやぁ、三蔵様はカタカナ言葉が苦手なのかしらん?」
三蔵 「誰がだ」
悟浄 「んじゃ、何か言ってみろよ」
三蔵 「グラスの“ぐ”、グラデーションの“ぐ”、グロッキーの“ぐ”、グロテスクの“ぐ”」
悟浄 「やっぱ色気無いね〜。 グラビアの“ぐ”、グラマーの“ぐ”、グラインドの“ぐ”、ってこれくらい言えねえの?」
八戒 「微妙に教育的指導ですね」
三蔵 「河童には、紅蓮地獄の“ぐ”がお似合いだ」
悟空 「悟浄はぐだぐだの“ぐ”〜」
悟浄 「…俺が何したってんだよ…」
八戒 「気分を変えて綺麗にいきますか」
悟浄 「って、おーいっ!」
八戒 「グラジオラスの“ぐ”、虞美人草の“ぐ”」
三蔵 「ぐい呑みの“ぐ”だ」
八戒 「やっぱり食い気に戻るんですね(苦笑)」
悟空 「グリコの“ぐ”!」
八戒 「あ、グリコと言えば思い出すのがジャンケンですね〜」
悟浄 「おーやったやった! 階段なんか見付けたらつい言っちまうよな」
八戒 「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト に パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」
悟空 「チョコレートにパイナップル? うぉ〜美味そう〜!」
悟浄 「涎を垂らしてんじゃねーよ。 食いモンの話じゃねぇっつうの」
悟空 「んじゃ何だよ?」
八戒 「子供の遊びなんですけどね、ジャンケンをして勝ったら、その勝ちに応じて進んでいく、というものです」
悟浄 「グーはグリコで3つ、チョキはチョコレイト、パーはパイナップルでどちらも6つずつ、だっけか?」
八戒 「ええ、それで先にゴールした方が勝ちなんです」
悟空 「やりてー!」
八戒 「でも、この辺りには適当な階段も無いですし…」
悟空 「あの時、やりゃ良かったな」
三蔵 「何時のことを言ってる?」
悟空 「悟浄がいなくなって探しに行ったら、何か長ぇ階段があったじゃん」
三蔵 「あ〜」
八戒 「そんな場所もありましたね……」
三蔵&悟空&八戒 「………(しばし無言)」
悟浄 「ん? 何だ? この嫌〜な雰囲気は」
三蔵 「てめぇのせいでこっちはいっつも大迷惑なんだよ!」
悟浄 「はあ? 俺だけのせいだってのか?」
八戒 「愚問、ですね」
悟浄 「……三蔵だってよぉ…(ブツブツ)、悟空もいっつも…(ブツブツ)」
八戒 「愚痴、はみっともないですよ」
悟浄 「もう、ぐったり……」
■
全員 「げ」
三蔵 「下僕の“げ”」
悟空 「言うと思った…」
八戒 「いきなりそれですか…」
悟浄 「外道の“げ”だぜ、ったく」
八戒 「下呂温泉の“げ”」
悟浄 「だから、ドコにあんだよソレ?!」
悟空 「あ!!! 玄奘三蔵の“げ”!!」
悟浄 「おおっ? 珍しく食いモン以外の言葉が出たぜ」
悟空 「“げ”の付く食べ物ってあんまし無ぇよな…?」
八戒 「すぐに思い浮かぶのは、玄米の“げ”、くらいでしょうか」
悟空 「うーん……………あ、あった! 月餅(げっぺい)の“げ”!!」
三蔵 「月でいくなら、月光の“げ”だな」
八戒 「月齢」
三蔵 「月蝕」
八戒 「月球儀」
悟空 「月曜日!」
八戒 「あー、そう来ましたか」
三蔵 「月光浴の“げ”もある」
八戒 「いいですね〜。 あと、月下美人に月桂樹」
悟浄 「月刊誌の“げ”」
八戒 「何を読んでるんですか? ヤらしい本はジープに持ち込み禁止ですよ」
悟浄 「頭っからエロ本だと決めつけてやがんな、コンチクショー!」
悟空 「激突の“げ”?」
三蔵 「逆鱗に触れる、の“げ”だな」
八戒 「ただでさえ不必要な物が増えてきてるんですから、気をつけてくださいね」
悟浄 「へいへい、わっかりやしたー。…げっそりするぜ、ったく」
三蔵 「撃沈の“げ”」
悟空 「そうしょげんなよ、悟浄。 えーと……、元気出して行こー(棒読み)、の“げ”!!」
■
全員 「ご」
悟空 「悟空の“ご”!」
悟浄 「それを言うなら、悟浄様の“ご”、だろうが」
悟空 「悟浄の“ご”はゴキブリ河童の“ご”!!」
悟浄 「てっめー! 拷問の“ご”に、獄門台の“ご”だ!」
悟空 「俺は、豪快の“ご”なんだよ!」
悟浄 「そんなら俺様は、豪華絢爛の“ご”、だってーの!」
八戒 「ごく潰しの“ご”」
悟浄 「爽やか過ぎるその笑顔が怖ぇぜ……」
三蔵 「極楽浄土の“ご”だ」
八戒 「では、後光が差す、の“ご”はいかがですか」
悟空 「やっぱ食べ物を言わねーとすっきりしねー! ご飯の“ご”! 五目飯、ごぼう、それからゴマの“ご”!!」
八戒 「ごまならば、ごま和え、ごま油、ごまダレ、胡麻豆腐なんてのもありますね」
悟空 「うぉー、腹減ってきたー!」
三蔵 「ゴマフアザラシの“ご”。 愛称はゴマちゃんだ」
悟空 「(ヒソヒソと) 三蔵ってもしかして可愛いモノ好き?」
八戒 「(ヒソヒソと) 猫は苦手みたいでしたけど、結局最後は仲良くしてましたからね」
悟浄 「(ヒソヒソと) 極秘事項、ってヤツか?」
三蔵 「(超低音で) 言いたいことがあるならはっきり言えっ」
悟浄 「そのドスの利かせ方は、極道か三蔵か、だぜ」
三蔵 「貴様はさしずめ、ゴロツキの“ご”だな」
悟浄 「ンだと、てめぇ! やんのか、このヤロッ!!」
八戒 「はい、そこまで! (にこやかに) ゴングの“ご”」
三蔵 「チッ…」
悟空 「御幣餅の“ご”〜〜〜!」
悟浄 「この脳天気さには負けるぜ、ったく」
八戒 「あと、五穀豊穣の“ご”。 ちなみに五穀とは主に、米・麦・豆・粟・きび、またはひえ、の5種類を指します」
悟空 「八戒って何でもよく知ってるよな〜」
悟浄 「俺はそんなのより、後家さんの“ご”に、ゴシップの“ご”」
八戒 「週刊誌に載るような行為は、言語道断、ですからね」
悟浄 「わーってるって 」
悟空 「ごめんなさいは?、の“ご”!」
八戒 「あれ?…その台詞、最近どこかで聞きましたっけ……?」
悟空 「そう言えば、俺もそんな気がしてきた……三蔵の声で 『ごめんなさい』 って言ってるのが聞こえた?」
悟浄 「そんなの、三蔵が言うわけねーじゃねぇか」
三蔵 「………ん?………(考え込む)」
八戒 「僕はさっきから、『ご』 にも引っ掛かってるんですが……」
悟空 「もう、ごっちゃになってるな〜、の“ご”!」
八戒 「あ!!!!!」
悟浄 「何だよっ! でっけー声出して、びっくりすんじゃねぇかっ」
八戒 「待ってください、ちょっと止めますね!」
悟空 「どしたんだ、八戒?」
悟浄 「出たな、謎の手帳……」
八戒 「やっぱり!!」
三蔵 「だから、何がだ」
八戒 「三蔵、今日は貴方にも関わりのある大事な日。 そして、我々にとっても大事な5周年です!!」
三蔵&悟空&悟浄 「???」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「僕達がお世話になっているサイトが、今日、5周年を迎えられたんです」
八戒がひとりで嬉しそうに話しているが、三人の頭には疑問符が浮かんだままだ。
「なあ、それ毎年聞いてっけど、イマイチよくわかんねーんだよな」
「さいと…ってのが食えねぇってことだけは何となく覚えた」
「ほほぉ、そりゃあバカ猿にとっちゃ大した進歩だ」
「何だと!!」
「やるかっ?!」
「二人ともっ! おめでたい日なんですから、喧嘩はよしてください」
取っ組み合いになろうかという寸前で八戒が止めに入ると、悟浄と悟空は渋々離れた。
「三蔵も、何か言いたそうな顔をしていますね」
「……別に」
咥え煙草の三蔵は、ちらりと一瞥しただけで八戒から顔を背けると、ぼそりと答えた。
自分と縁があるという男については、未だ何の説明も聞いていない。
だが、無理に聞き出そうとは思わない。
己にとって本当に必要な人物であるなら、いずれ自ずと判明するだろう。
焦らなくともその時を待てばいいのだ。
「なあ、おめでたいってことは、お祝いするってこと?」
一瞬無言になったジープの中で、悟空が明るい声を出した。
「そうですね。 次の町に到着したら、料理の美味しい店を探しましょうか」
「わ〜い、ご馳走〜〜ご馳走〜〜〜」
「てめぇはいっつも好きなだけ食ってんじゃんかよっ」
「いいですよね、三蔵」
再び騒ぎ出した後部座席をよそに知らん顔をしている三蔵に向かって、八戒が問うた。
「勝手にしろ。 どうせ飯は食うんだろーが」
面倒臭そうに答えると、三蔵はまた新たに取り出した煙草を咥えた。
風に吹かれ髪をなびかせつつライターで火を点ける仕草は、八戒が気に入っている三蔵の姿のひとつでもある。
本当はもっとじっくり見つめていたいが、荒野の一本道だからといって脇見運転は厳禁だ。
(貴方に出会えた奇跡と同じくらい、あの人の存在にも感謝しなくてはいけませんね…)
三蔵をより深く愛するようになったのは、彼の声の力も大きいから……。
だから、今日という日は大事にしたい。
「お許しが出ましたよ。 今夜は楽しみましょうね」
八戒が後ろに声を掛けると、悟空は 「やったー!!」 と無邪気に喜んだ。
「ただし、騒ぎ過ぎて旅の目的を忘れンじゃねーぞ」
「大丈夫だって」
釘を刺した三蔵の肩を後ろから悟浄がポンと叩いたが、すぐさま振り払われた。
しかし、これはいつもの光景だから、邪険にされた悟浄も、別に気にしている様子も無い。
「何の為の三蔵一行だよ。 ただ騒ぎたいだけに集まってんじゃねぇんだからな。 どーんと任しとけっての」
「ふんっ、どうだか」
鼻であしらってはいるが、三蔵も感じていた。
ここまで連れ立って来た面子は、多分、この先もずっと変わらないのだろう。
与えられた任務を達成するまでは…。
「それじゃ、飛ばしますよー!」
「おうっ!!」
アクセルはベタ踏みだ。
この爽快感はたまらない。
「西へ!」
傾いてきた太陽が、辺りを茜色に染めてゆく。
「Go!!!!!」