タクミくんシリーズ
松本先生×大橋先生

小説 御司翠 様

『例えば、ただ 愛しいということ』






めずらしいこともあるものだ。
放課後の教室。
夕日に赤く染まるその部屋で、大橋先生が居眠りをしている。


松本は、苦笑しながら机に伏せて眠っている大橋に近づいた。
実は、松本は先程から大橋を探して学園中を走り回っていたのだ。
いる可能性が一番低いと決め付けて、教室を最後にしたのが間違いだった。
先にここに探しに来れば、学園の果ての果ての果てにある温室まで、行かずに済んだのに。

近くの椅子に座って、大橋の顔を眺める。
大橋には、いつもふわふわとした現実感のなさが伴う。
だからこそ、こんなふうに、あまりにも無防備に眠っているのは本当に珍しいことだ。

仕事をしながら眠ってしまったのだろうか。
手元にはファイルやら何やらが山積みになっている。

ファイルの山を見ながら、ふと視界に入った彼の手。
植物が大好きで、暇があれば温室で土いじりをしているのに、とてもそうとは思えない程、大橋の手は白く、綺麗だった。
長くて細い指。
傷ついたもの達を優しく包み込む“緑のゆびさき”に触れてみたくなった。
彼の手に、そっと自分の手を重ねる。
女性にするように優しく触れ、その温度に酔う。
初恋のようにドキドキしながら、でも、重ねた手は離せずに。

その時、彼が目を覚ました。
びくりとして、松本は手を離す。
「…?松本先生?」
なぜ松本がここにいるのか、寝起きの大橋には理解出来ていないようだ。
松本は大橋に用事があって探していたのだが、別に今でなくてもいいような気がして、それは次にまわすことにした。
なぜ、そう思ってしまうのかは、松本自身にもわからない。
松本はもう一度、大橋の手をとった。
いつもだったら、自分から相手の手をとるなどということはなかなか出来ないのだが、今は、自然にそれが出来た。
胸はドキドキして、今にも心臓が飛び出しそうなのに、頭はとても冷静で、まだ全てを理解するに至っていない大橋をじっと見つめた。
普段では考えられない松本の行動に、大橋は戸惑っているようだった。
「あの…松本先生、どうされたんですか?」
困ったように口を開く。
そんな彼が、なぜかとても愛しくて、愛しくて愛しくて堪らなくて、彼の手に口づけた。
驚いた顔をして固まってしまった彼を、そっと抱き締める。
「大橋先生。」
「松本先…んっ。」
いつも優しい言葉を紡ぐ彼の口唇を、自分のそれで塞ぐ。
甘い甘いキス。
口唇を離すと、大橋は不思議そうな目を向けてくる。
どうしてこんなことをしたのか、と。
松本にしてみれば、それを問われたところで、説明する術はないのだけれど。
ただ、愛しいのだ、と、どうしたら伝えられるのだろうか。

しかし、次の瞬間、松本はハッと我に返った。
「すみません。」
「え?」
「突然こんなことして。」
松本は大橋に頭を下げた。
大橋は、そんな彼をどう思ったのか、どんな表情でそれを見たのか。
それは、松本にはわからなかった。
「松本先生。」
大橋の穏やかな声に顔を上げる。
その瞬間、大橋の口唇が松本のそれに触れた。
目を見開いた松本に、大橋がにっこりと微笑む。
「これで、おあいこです。」


−どうしたら伝えられるのだろうか   ただ愛しいということを−





                 end





植物も動物も、そして人も
全てを癒してくれる 緑の指先//
その存在自体が、癒しなのです〜///
そんな大橋先生に、ただ癒してもらうばかりでなく
暖かい気持ちを与えられるばかりでなく…
そう、与えられるばかりでなく、何か…したくなりませんか?(〃∇〃)
大橋先生にしたかったコトを松本先生にしていただいて(照)
そんな萌小説をありがとうございます(〃∇〃) ///


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