「戦場のメリークリスマス」

小説 吉野さま




聖なる夜も、新たなる年も無関係だと思ってた。

事実、無関係に相違ない。

私の方は。



「俺はっ、やだねっ」

どこだかの中立国の、どこだかのホテルのバーで。

ムウ・ラ・フラガは私の隣で少し顔を赤らませて、私に言い寄る。

「…何を子供みたいなことを」

「バァッカッ。大人だからこそっ、大事だろうがっ」

「クリスマスなんざ、昔々の有名人の誕生日ってだけだろうが」

「なぁんか、ちょっと違わないか?それ。いや、そんなことは
どーでもいいんだっての」

「あぁ?」

「”こんな日なんだから”って理由になるだろ?それだけでいい」

ヤツは赤い顔で、屈託なく笑ってみせる。

私は僅かな喜びを隠して、呆れたような溜息を。

「…俺達みたいな男には大切だと思うよ。こういった行事はさ」

「ムウ?」

突如、真顔で呟かれた低い声。

その表情は見極められなくて。

「…上、行こうぜ?」

私が答える前にヤツは席を立って、私に背を向ける。

どうして、私がお前を追いかけると分かるのだろう?

その背に向かって引き金を引けば全てが終わる。

きっと、戦争も、愛も…そして、私も。

そんな全てをその背で背負って、お前は行くのか?

そして、私も行かねばならないのか。

「?どうした?」

振り返るヤツを真っ直ぐ見据えた。

ヤツも私を真っ直ぐに見つめる。

「…いや、何でもない」

私は、その背に向かって歩き出した。



ホテルの高層部にある部屋に入れば、鮮やかなイルミネーションが窓の外を飾っていたが、

それも私には何の意味もなかった。むしろ、戦火を思い出す。

明かりは、初めからつけなかった。

「…なぁ、ラウ。お前、まだ迷っているのか?」

「…何のことだ」

薄暗い部屋の中、窓際に立つヤツを私は壁に持たれながら見つ
めていた。

ヤツの言葉の真意について考えることを拒否して。

「俺とのことだよ」

「……」

「怖いか?俺と戦えなくなると思うか?」

「馬鹿を言うな。お前を殺すのは私だ。私がお前を殺す」

「ああ。俺もだ。けどな…」

ヤツは窓際から離れて、私の前に立つ。

そして、壁に両腕を付いて随分と近くで私を拘束する。

もう、唇は触れそうだった。

「今は…俺を好きなら素直に愛せよ」

耳を超えて、脳に響くような感覚。

自惚れるなと言ってやりたかったような気もしたが、口づけの
内にそんなことは忘れた。

「迷うな。お前は間違ってなんかない。愛したい時に愛して、
殺したい時に殺せばいい」

「そ、んなの…間違ってないって…?」

「俺達はな。愛も殺意もお前からしか感じたくない、感じられ
ないんだ。お前だけが、俺の全てだ」

そう言われて、抱きしめられて。

涙が、出そうになった。

きっと、私も同じように思っていたんだ。

嬉しいって言って、抱き返せるほどの素直さは持ち合わせてい
ないが、ヤツにはきっと分かるだろう。

「っは…っ、ひどい殺し文句だ…」

「お。口説かれてくれた上、殺されてくれるとはな。一石二鳥だ」

「…馬鹿が…」

今度は私から口づけた。今までに無い程の力で、ヤツを抱きし
めて。

ヤツの手が怪しい動きを見せ始めたので、耳元で囁いてやった。

「ベッドがあるのに、立ったままするのか?」

「…それも楽しそうだが…せっかくの聖なる夜だから、優しく
いこうか」

初めて、ヤツと笑い合えて、抱き合えたような気がした。

夜が明けるまで求めあって、夜が明けてから別れた。

そして、それぞれの道へ。



それが、クリスマス・イブ。

クリスマスは戦場で向き合った。

さぁ、この愛をもって、殺し合おうか。










吉野さんの書かれる台詞って、どれもこれも殺し文句の連続で!(≧∇≦)
読ませていただいてて、クラクラしまくっちゃいます(〃T∇T〃)
フラガの台詞がいつも投げやりなのは、クルーゼに心を奪われてしまってたからなんですね!
敵同士の緊張感漂う休戦日に、こーーーんなうっとりな事が
あると、本気で思えてきましたvvv(≧∇≦)
本編の方も、こんな展開をすごくすごく望んでしまいますvvv