タクミくんシリーズ
松本先生×大橋先生小説
小説 御司翠様
『インスタントコーヒー』
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生徒にとっても教師にとっても貴重な、短い昼休み。
俺は、コーヒー片手に、職員室の自分の机で体を伸ばした。
「松本先生、これ、お一ついかがですか?」
昼食のラッシュを終えた食堂のおばさんが、菓子箱を俺の目の前に差し出す。
「お、うまそう!ありがとうございます。」
それを一つ口に運んで、コーヒーを啜った。
ふと、コーヒーの香りに、彼の優しい笑顔が重なる。
浮世離れした、どこか頼りなさそうな人なのに、実は飛びぬけた記憶力の持ち主の彼。
あの、のほほんとした笑顔は、見る人を癒す。
彼のどこまでも不思議な雰囲気は人を引き付ける何かがあると思う。
彼のテリトリーである温室に行けば、彼がいれてくれるインスタントコーヒー。
味気のないインスタントが、彼がいれるとどうしてだろう、とても美味しい。
彼の香りはコーヒーの香り。
インスタントの優しい香り。
俺はマグカップをもう一つ用意し、それにコーヒーを注ぐと、自分にもう一杯いれ、マフラーを巻いて屋上へ向かった。
屋上の扉を開いた。
冷たい空気が俺の横を通り抜けて、遠くに消えていく。
息を吐けば、白く白く白く。
目的の彼は、手すりにもたれて煙草の白い煙を吐き出していた。
白衣の後ろ姿は、一体何を考えているのか、それを誰にも知らせまいとしているように見えた。
彼の瞳は遠くを見つめたまま、動かない。
「大橋先生。」
声をかける。
振り向いた彼は、優しい笑顔を俺にくれた。
「松本先生、どうされたんですか?」
「これ、差し入れです。」
コーヒーを彼に手渡す。
「ありがとうございます。」
彼がマグカップに口をつける。
白衣の上には何も着ていない彼は、少し首を竦めた。
「寒いですね。」
そう思うならコートくらい着ろと言いたかったが、やめた。
「はい、これ。」
彼の首に自分がしていたマフラーを巻く。
彼は少し驚いたようだ。
「風邪、ひかないようにして下さいね。大橋先生が倒れたら、温室の植物が枯れちゃいますよ。」
そう言って俺は、ドアに向かって歩き出す。
後ろから彼の声が聞こえた。
「マフラー、ありがとうございます。」
午後の授業の準備をするため、階段を降りる。
マグカップから香るコーヒーの香り。
彼の香り。
「松本先生、大橋先生を見かけませんでしたか?」
彼の担当する3−Cの生徒、葉山託生が俺にそう尋ねた。
「さあ、見てないよ。」
「そうですか、ありがとうございました。」
それは小さな嘘。
葉山の後ろ姿を見送りながらそっと呟く。
「悪いな、葉山。」
なんとなく居場所を教えたくなかったのは、俺の自分勝手。
授業を終えて職員室に戻ると、マフラーとメモが机の上にのっていた。
“ありがとうございました。”
たった一言だけ。
今日は彼のお礼ばかり聴いているな、と苦笑する。
マフラーはインスタントコーヒーの香りがした。
彼の香りはコーヒーの香り。
インスタントの優しい香り…
end
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暖かいほのかな松本先生v大橋先生小説ありがとうございますv(〃∇〃)
大橋先生のインスタントコーヒーのエピソードとか植物を育てる緑の指先とか
大雑把なようで癒し系のvでも凛としていてすごく深味のあるキャラでv
大橋先生の魅力に捕われるのは当然なのですv
続編も近々アップさせていただいちゃいます♪